終 幕 

終幕 (1)



○東都大病院の廊下 (深夜)

T「16日前  2017年12月12日 02:13」


 病院の廊下をダッシュしている夏目。






○東都大病院・庄司の病室 (深夜)


 庄司の病室のドアが開き、夏目が駆け込んでくる。


 ベッド脇には、夏目を振り返った若林と西田がいる。


 夏目がベッド脇に駆け寄ると、目を覚ましている庄司が笑顔を見せる。




   庄 司 「よかった、兄貴。無事で」



 それにより夏目、泣き笑いのような顔になる。



   夏 目 「アホやな、おまえは。無事でよかったんはおまえのほうや」



 そうしてベッドの端に両手をつき、うつむいてハアーッと溜息をつく。

 若林と西田、笑みを浮かべる。






○東都大病院・1階の廊下 (深夜)

 誰もいない病院の廊下にて、そこのベンチにひとり座る大吾。


 その時、ふと誰かの姿を認め、立ち上がる。


 その大吾の許へとやってきたのは、真島と冴島。そして秋山、伊達、ヒクソン。


 真島、大吾にニンマリと笑いかける。




   真 島 「おかえりやで」



 それにより大吾、苦笑い。



   大 吾 「ええ、ただいま戻りました」

   真 島 「夏目は?」


   大 吾 「庄司くんの病室です」


   真 島 「そうか。そら飛んでったやろなぁ」




 そして、



   秋 山 「お元気そうで。ホント良かったです」

   大 吾 「ありがとう。あなたには本当に世話をかけました」




 と秋山と会話を交わし、伊達に一礼する大吾。

 それから真島と冴島に向け、改まった調子で言う。




   大 吾 「真島さん、冴島さん。お二人にぜひ聞いていただきたいことがあるんです」



 そのため真島と冴島、一瞬顔を見合わせる。

 その後、代表して真島が問う。




   真 島 「何や?」

   大 吾 「場所を変えましょう」


       「屋上か外と言いたいところですが、今はどちらも騒がしいので、空いている部屋を一つ借りました」




 そして歩き出す大吾の背を見、真島と冴島は再度顔を見合わせる。

 それからすぐ、大吾の後について歩いていく。


 秋山と伊達とヒクソン、それぞれに顔を見合わせ、大吾・真島・冴島を見送る。


 ここで長い暗転。








○東都大病院・庄司の病室 (深夜)

T「16日前  2017年12月12日 02:47」


 病室内には夏目と庄司、若林と西田、秋山と伊達とヒクソンがいる。

 (※ヒクソンは兄の所業の詫びに来ている)


 そこへドアが開き、真島と大吾が入ってくる。


 夏目、椅子から立ち上がって迎える。




   夏 目 「あっ、親父! 聞きましたよ、さすがですね!」



 真島、万感の思いを湛えた目で夏目の正面までやってくると、その二の腕を叩く。



   真 島 「おまえもようやった」

   夏 目 「ありがとうございます!」




 そして真島、ベッドの庄司を見、ニッと笑いかける。



   真 島 「おまえもようやったで」

   庄 司 「ありがとうございます」




 それから真島、大吾をチラリと見たのち、夏目に言う。



   真 島 「実は、大事な話があるんや。せやから、ここを貸してもらおと思てな」

   夏 目 「はあ。庄司がいてますけど……」


   真 島 「それは構へん、聞いといたらええ」




 すると秋山、気を利かせる。



   秋 山 「じゃ、我々はこれで引き上げますよ。――庄司くん、お大事に」

   庄 司 「はい、ありがとうございました」


   伊 達 「じゃあな」


  ヒクソン 「本当に申し訳ありませんでした」




 それぞれに庄司に挨拶したのち、三人揃って部屋を出てゆく。

 真島と大吾が病室内の応接スペースへと向かったため、夏目・若林・西田は顔を見合わせたのち、そちらへ向かう。


 ここで、いったん暗転。






○東都大病院・庄司の病室・応接スペース (深夜)

 真島&大吾と、夏目&若林&西田(セリフの役名は「三役」と表記)が、向かい合ってソファーに着席している状態。


 そこで大吾、話を切り出す。




   大 吾 「実は俺は、引退するつもりでいるんです」

   三 役 「――えっ!?」


   大 吾 「今回ああして100億が街に流れた以上、それが俺の身代金だったことを隠し通すことは困難です」


   夏 目 「……はい……」


   大 吾 「100億の価値がある会長という存在は、このさき東城会にとって騒動の種になります。でしょう?」


   夏 目 「はい……」




 受け入れはするが納得はできないという表情の夏目を見てから、大吾は話し始める。




   大 吾 「俺が引退を決めたのは今回のことばかりじゃありません」

       「この間の最後の五分盃……」


       「あれを交わしたことで東城会の安寧を達成し、桐生さんとの約束を果たした瞬間……」


       「その時からずっと考えていたことなんです」


       「俺はこれまで平和外交として、近江連合、北方組や山笠組、陽銘連合会、その他数々の組織と五分盃を交わしてきました」


       「そしてその締めくくりとなる今回の盃の直前、渡瀬さんから例の打診がありました」


       「神室町のドブ底を仕切らせてくれという、あの話です」


   夏 目 「はい……」


   大 吾 「あれをキッカケに俺は、自分のなしてきたことを顧みました。そして、やっと悟ったんです」


       「俺が目指した東城会は、本当の意味で極道とは言えないのだと」




 夏目や西田から「?」の視線を受け、大吾は更に説明。




   大 吾 「カタギの手に負えない汚れ仕事……。それを治めるために、極道というものは本来存在していたんです」


       「だからこそ、極道を必要悪とする人間もいたわけです」


       「しかし、時代が下るにつれ、徐々にその存在意義は気薄になりました」


       「そして、いつしか極道という肩書は、悪行のための道具になり果ててしまった……」


       「それでも俺は、本来の極道はそうではなかったはずだと信じていました」


       「極道であっても、真っ当にやっていくことはできるはずだ……」


       「そんな理想を抱いて、今日までやってきたんです」


   夏 目 「はい」


   大 吾 「しかし、俺はやっと気付きました。それでは駄目なんです」


   夏 目 「駄目って……どういう意味ですか?」


   大 吾 「真っ当にやる……。それ自体は結構なことです」


       「しかしそれを突き詰めると、いずれカタギの手に負えない汚れ仕事もやらなくなります」


       「実際、俺はずっと美学の名の下に、“ドブ底”を放置してきたじゃありませんか?」


       「俺が目指した極道であれば、そここそをキッチリと治めて然るべきだったんです」


       「それこそが、カタギの手に負えない汚れ仕事だったんですから」




 大吾、溜息をついてから続ける。




   大 吾 「しかし、かと言って俺がそれをしたいかというと……。したくないんです」


       「どうしても、そこにだけは手を出したくない」


   夏 目 「俺もそうです!」


   大 吾 「ええ、もちろんあなたはそうです。真島さんも、冴島さんもそうです」


       「しかし、東城会の多くの者たちは……。俺のやり方を許容はしているものの、認めてはいません」


       「それがなぜなのか、今になってやっと分かりました」


       「俺が東城会を極道組織でなくそうとしていたからです」


       「平和外交で安寧を維持し、ドブ底には手を付けない……」


       「それは、もはや極道ではないんですよ。それはただの、自治体です」




 大吾、やや自嘲的な笑みを浮かべている。

 正論を聞かされた夏目、衝撃を受けている状態。




   大 吾 「それは、一組織としては立派です。これがカタギの会社なら、俺は敏腕社長で通ったでしょう」

       「しかし、東城会はあくまでも極道組織……」


       「なら、極道である組員たちが俺のやり方に反発するのは当然です」




 少し間を置いたのち、さらに続ける。



   大 吾 「俺はこれまで、ただひたすら東城会のために働いてきました」

       「その俺の働きを認めてくれた者も多くいました」


       「しかし、そうでない者たちの言い分のほうが、実は極道としては筋が通っている……」


       「そのことに、俺は今さらながら気付いたんです」




 そこで夏目・若林・西田を見回したのち、続ける。



   大 吾 「だから俺は引退を決めました」

       「桐生さんとの約束を果たした今、この先のことは、後続の人間に任せることにしたんです」


       「次の会長が俺と同じく盃外交をするのか、もっと別のやり方を模索するのか」


       「信用しきれない近江を神室町入りさせないまま、放置するつもりでいた俺よりも、神室町のドブ底の上手い治め方を考え出せるのか……」

       「それを俺は、今から楽しみにしているんですよ」




 今は自嘲でも皮肉でもない、穏やかな微笑みを浮かべている大吾。

 それを見た夏目、その決断をようやく受け入れる気になった表情になる。

 大吾、その夏目に対し、「一章 夏目編」で問われたことの答えを返す。




   大 吾 「ですから、真島組が3分の2のシマを手放すというなら、そうしてください」

   夏 目 「いえ、俺は、六代目があかんと言いはるんやったら絶対に手放さないです」




 すると大吾、少し笑みを見せてから答える。




   大 吾 「あなたに言われてから、考えてみました」

       「確かに今の時代、カタギの店からみかじめを取ることはもう無理です」


       「それどころか、ケツモチにヤクザを雇った廉で、却って警察に引っ張られる御時世です」


   夏 目 「はい」


   大 吾 「だから俺は思ったんです。それなら、もういいじゃないかと」


       「警察がカタギを守り切れるというなら結構なことです。我々は手を引きましょう」


       「俺は古い美学と共に引退するんです。その美学の形を最後に見たい」




 それを大吾の最後の指令と受け取った夏目、力強く請け負う。




   夏 目 「分かりました。お任せください」



 ふと夏目、真島からの視線に気付き、そちらを見る。

 真島、かすかな笑みを湛えた状態で、小さく頷く。


 それにより夏目、ホッとして会釈する。


 そのとき西田、おずおずと大吾に質問。




   西 田 「あの、聞いてもいいですか?」

   大 吾 「ええ。何でしょう?」


   西 田 「七代目会長には誰を指名するつもりなんですか?」


   大 吾 「槇です」




 それで夏目、びっくり。



   夏 目 「槇会長、意識戻りはったんですか?」

   大 吾 「ええ。実は、もう昨日には目を覚ましていたんですが、白峯会が安全対策で隠していたそうです」


       「さっき俺がここへやってきたのを見て、槇本人が俺の秘書に連絡してきました」


   夏 目 「そうやったんですか! よかった……」


   大 吾 「槇は匿名の相手から電話で指示されたそうです」


       「「東城会が堂島の身代金100億を払わないように仕向けろ」」


       「「払うことになれば、あるいはこの指令が他人に知れても、堂島を殺す」と」


       「しかし東城会では、100億を払う方向で話が決まってしまいました」


       「槇はその妨害のために東城会での主導権を握ろうとしたものの失敗」


       「そのことを再度電話してきた匿名の相手に伝え
ると、「今すぐ神室町ヒルズの屋上に来い」と言われ……」

       「従ったらあんな目に遭ったわけです」


   夏 目 「ほんだら、本部へのタレコミメールもそいつがしよったんですね……」




 槇への疑惑が晴れ、ホッとする夏目。

 槇が次期会長と聞いて納得した西田と若林、頷き合っている。


 すると真島、仕切り直すように、ニパッと笑う。




   真 島 「ま、っちゅうわけで六代目も引退することやしな」

   夏 目 「はい」


   真 島 「ワシ、真島組を解散しようと思うねん」


   三 役 「――ええっ!?」




 さっき以上に驚愕する夏目・若林・西田。中でも西田は腰を抜かす勢い。

 (※大吾は聞かされていたので無表情)


 真島、大仰に怪訝そうな顔をする。




   真 島 「ええ? て何やねん、トーゼンやろが」


       「ワシ、桐生ちゃんに六代目を支えてくれって頼まれて、東城会に戻ってんで?」


       「六代目が引退したら、もう東城会におらなアカン理由あれへんやないか」


   夏 目 「それは……そうですね、はい」


   真 島 「せやろ?」


       「けど、そうかと言うてワシだけ引退してしもたら……」


       「真島系列の会社は社員がヤクザやのに、社長だけカタギになってまう」


       「分かっとるやろうが、カタギの社長はヤクザを雇われへんねんで? お上が怒りよるからのう」


       「けどワシは、皆をクビにしとうない」


       「となったら、ワシが真島系列の会社から出ていかなアカンやんけ。そんなんイヤやで」


   夏 目 「俺もイヤですよ! 親父がおらん真島系列の会社なんか意味ないです!」


   西 田 「そうっすよ! 親父が引退するなら俺も引退します!」




 若林、真島のほうを見ると、「同感です」というふうに小さく頷く。


 それにより真島、ニンマリ。




   真 島 「せやから、組解散しようと思うねん」

       「ほんで、また皆でカタギになって、皆で会社をやっていこやないか。11年前みたいになぁ」




 そのため夏目、テンション爆上げ。



   夏 目 「はい! 頑張ります! 多分みんなもおんなじ気持ちやと思います!」

   真 島 「そうか! ほな、早よ教えたらなアカンな!」


   夏 目 「はい!」




 そして夏目、ベッドの庄司のほうを振り返る。

 庄司はこちらに向け微笑んでおり、それを見た夏目も大きな笑顔を浮かべる。


 若林と西田が笑みを交わしている向かいで、真島は隣の大吾を「どや?」という目で見やる。


 大吾、苦笑気味の笑みを浮かべつつ「参りました」というふうに会釈。


 そこで暗転。






○琉球病院・宇佐美の病室

T「16日前  2017年12月12日 11:31」


 閉じられた双眼のどアップから、カメラが徐々に引いてゆくと、それが宇佐美の寝顔であることが分かる。


 宇佐美、やや眉をしかめ、それからそろそろと目を開ける。


 そこへ、近付いてゆくハルトの手が差し伸べられる。




   ハルト 「(物凄く嬉しそうなトーンで) おとうさん、おはよぉ」



 その声を聞きつけてベッドを覗き込んだ遥、叫ぶ。



     遥 「勇太! 勇太!」

   宇佐美 「……るか……」




 喉がカラカラで声が絡まった宇佐美、少し喉を整えてから話す。



   宇佐美 「……あれ? 俺、生きてんだ……」



 遥、困ったような笑顔になる。



     遥 「生きてるよ! 当たり前でしょ!」

   宇佐美 「――えっ、何で!?」




 と叫んで起き上がろうとした宇佐美、途轍もない激痛のため、すぐひっくり返る。



     遥 「何してるの! じっとしてなきゃ――」

   宇佐美 「いやおまえ、シェルターにいなきゃダメじゃん……」


     遥 「大丈夫、もう何もかも終わったから飛んできたの」


       「それまではずっと、ちゃんとシェルターにいたよ。――勇太が命がけで守ってくれたから」


   宇佐美 「そっか……。ならいいや。ありがとな」


     遥 「こっちこそ、ありがとう」




 それからしばし見つめ合う2人。かなりいい雰囲気となる。

 が、その2人の間にハルトがずいと割り込んだため、水を差された格好となる。


 そこへさらに、綾子と品田を先頭に、アサガオの子供たち全員がぞろぞろと病室へやってくる。


 宇佐美が目覚めているのを見て綾子は立ち尽くし、呆然として口元に両手を当てる。




   綾 子 「勇太お兄ちゃん……起きたんだ……」



 綾子の隣にいる品田、みるみる笑顔になり、病室を出ていきかけながら言う。



   品 田 「よかった! ちょっと秋山さんに報告してくるね!」

   太 一 「勇太兄ちゃん! よかった!」


   宏 次 「勇太兄ちゃん! ごめん、俺のせいで――」




 と途端に騒がしくなった病室内。

 明るくにぎやかで幸せそうな団欒を、カメラは撮りながら徐々に引いていく。


 そして、長い暗転。










○東城会本部・会議室

T「10日前  2017年12月18日 16:23」


 会議室には、執行部の面々がズラリと揃っている。


 会長の席近くで、大吾と車椅子の槇が話している。




   大 吾 「じゃ、頼むぞ、槇」

     槇 「はい。――今日まで、本当にお疲れ様でした」


   大 吾 「ああ」




 そして大吾は一歩前へ出、皆に言う。



   大 吾 「ではみんな、今日までありがとう。――これからの東城会を頼みます」



 すると、真島と冴島と槇を除く全ての面々が、一斉に極道式の御辞儀をする。

 ここで槇も車椅子から立ち上がり、ゆっくりとだが極道式の御辞儀をする。


 真島と冴島、その皆の様子を見て笑顔を浮かべてから、やはり極道式の御辞儀をする。


 大吾、困ったように微笑む。


 そこから大吾、部屋の真ん中を通って歩み去る。その間、面々の御辞儀は微動だにしない。


 その大吾が通った少し後ろを、真島と冴島だけが悠揚たる足取りで追っていく。






○東城会本部・表玄関口

 真島と冴島を後ろにして、エントランスから外へと出てきた大吾、目を瞠る。


 門までの間の道の両脇が、人でびっちりと埋まっているせいである。


 後ろのほうは本家の若衆だが、道沿いとなる前列を占めているのは執行部入りしていない直系組長と、組長のお供として今日の引退式および襲名式に参列した二次団体の三役たち。


 その中には、堂島組組長代行たる弥生の姿もある。


 むろん、夏目・若林・西田も、エントランスから出てすぐのところにいる。


 次の瞬間、その場にいた彼らは一斉に極道式の御辞儀をする。そのまま全員、微動だにしない。


 しばしの沈黙ののち、目の前の光景を見たまま、大吾が呟く。




   大 吾 「皮肉なものですね。最後の最後というこの日にだけ、こうして統制が取れるというのは」




 すると冴島、ハッと笑う。

 真島も「馬鹿らしい」と言わんばかりの笑みを浮かべ、




   真 島 「普通は、最後の最後にも統制なんか取れんもんや」

       「それが取れたっちゅうのはホンマの奇跡で、それがおまえの器量なんやで?」




 大吾、ずっと目の前の光景を見ている。



   真 島 「第一、極道のてっぺん張っといて、最後にこの光景見れる奴はそうはおらん」

       「よう見とけや、自分の花道を」




 大吾、目の前の光景を見たまま、言う。



   大 吾 「真島さん」


   真 島 「ん? 何や?」


   大 吾 「この11年間、本当にありがとうございました」




 真島、ニンマリする。



   真 島 「おまえもお疲れさん。――これからしばらく、ゆっくり休めや」



 大吾、目の前の光景を見たまま、かすかに微笑む。



   大 吾 「ええ」



 そして大吾、悠然とした足取りで階段を降りてゆく。 (真島と冴島はその場に残る)

 皆が御辞儀しているその真ん中を歩み去ってゆく大吾の姿を、真島と冴島は微笑みながら見守っている。


 ここで暗転。






○テレビや新聞での報道

 12月18日(月)の新聞記事とネット記事そのものを映して、「報道」として描写。




    夕 刊 「関東最大の広域指定暴力団である東城会の六代目会長・堂島大吾氏が本日付で引退した」

        「七代目会長には三代目白峯会総裁の槇康臣氏が就任した」


        「今回のことで東城会内部での混乱はないとされている」


  ネット記事 「本日午後、堂島大吾は警視庁へ自首し、逮捕された。罪状は11年前の殺人1件」




 それに対するネットサイトへの投稿文そのものを映し、「世間の反応」として描写。



   投稿文A 「絶対もっと殺してるだろwwwwww」

   投稿文B 「ヤクザの親分の引退とかマジでどうでもいいわ」




 その六代目会長の引退・逮捕の報道に付け加える形で――という態で、夕方のニュース番組内の緊急報道を数局分映す。



アナウンサーA 「東城会の最大組織とされた真島組が本日午後、解散届を警視庁に提出しました」


        「真島組組長の真島吾朗氏は六代目会長を支えた大幹部であり――」


アナウンサーB 「東城会のナンバー2だった冴島大河氏も、本日同時刻に冴島組の解散届を提出しました」


        「冴島氏は1985年の上野誠和会の――」


  アナリスト 「二組とも、今回の堂島氏の引退を受けての解散であることを表明しています」


        「また、解散届だけでなく、その二組に所属していた合計二千余名の組員の除籍処分報告
が、堂島氏の直筆の書状と共に警視庁に提出され、受理されました」

        「“除籍”というのは“破門”とは違い、組織からの恒久的な離脱を意味しています」


        「これほどの一斉大量除籍は史上例を見ず――」




 ここで長い暗転。






終幕 (2)



○二井原邸・応接室


T「現在  2017年12月28日 14:33」


 ソファーに座り、まっすぐ前を向いているのは夏目。




   夏 目 「以上が、今回の騒動の顛末です」



 そう結んだ夏目の正面にいる相手は、二井原。



 (※つまり、夏目は「カタギの状態で喋った、過去の物語内の主人公」という設定なので龍が如くルール的にセーフ――という状態。極2の真島編が「回想エピソード内だから現役極道でもセーフ」として成立しているのと同じシステム)



   二井原 「そうかい、御苦労だったな」


       「それにしてもおめえさん、話が上手えな。聞いててずっとワクワクしたぜ」


   夏 目 「そうですか。ほんだら、いざとなったら紙芝居屋でもやりましょか」


   二井原 「懐かしいねぇ、そうだ、そのワクワクだ。これで水飴がありゃあ完璧だったな」




 それで2人、笑い合う。




   二井原 「それにしても……。六代目が服役したがるってのが意外だったな。一体どういうわけなんだ?」

   夏 目 「六代目は、正当防衛やったら何も気にならんそうです」


       「けど、新藤組長だけは怒りが抑えられへん状態で、殺そうと思って殺した」


       「せやからそれは殺人であって、これからカタギとして生きるつもりなら殺人の罪は償わなあかん……」


       「六代目はそう考えはったんです」


   二井原 「はあん。ま、人それぞれ考え方があらあな」


   夏 目 「はい」




 夏目は大吾の考えに感銘を受けたクチなので、今もやや誇らしげ。


 二井原、その夏目の表情を見て少し微笑み、話を続ける。



   二井原 「で、斉木は結局どうなったんだ?」

   夏 目 「風間さん曰く、斉木が運ばれた都内の米軍基地に風間さんが着いた時には、もうおらんかったそうです」

   二井原 「……米軍基地にしちゃ警備がお粗末だな」

   夏 目 「まあ、風間さんはああ言いはりましたけど、たぶん風間さん自身の手で外に放り出しはったんやと思います」

       「斉木が殺ってもたニセモノの死体が絶対出てけえへんとなると、罪の立証がしようがないですから」

       「しかも、槇会長が「誰に撃たれたのか分からない」と言い張ってはりますから、そっちの罪も立証しようがない……」

       「そうなると風間さんとしては、日本警察に連絡する責任もないわけです」



 二井原、数度頷く。



   二井原 「リクソン殺しの罪を暴こうとすりゃ、CIAや米軍内部の不祥事の棚卸しになりかねねえ……」

       「だからリクソンは、単なる自殺として処理されたわけか」

       「まあ、それで弟が納得してるなら、外野が何やかや言うことはねえ」

   夏 目 「はい」

   二井原 「それに、この後は東城会が――槇が、どうにかカタつけるだろう」

   夏 目 「はい……」



 夏目、やや考え深げ。

 二井原、ここで姿勢を改める。



   二井原 「ところで……」

       「七代目体制になってすぐ近江の神室町入りに合意して、まだ2週間足らずだが……」


       「もう神室町じゃ「東城会の支配は終わった」なんて言われ出してる」


       「それについてどう思う?」




 それにより夏目、顔つきが引き締まり、返事のしようもなく黙り込む。


 すると二井原、笑う。




   二井原 「古参の皆々様には申し訳が立たない――なんてお決まりは要らねえよ?」

       「第一、七代目体制はおめえさんには一切関わりねえ」


       「おめえさんはもうとっくにカタギなんだからな」


   夏 目 「はい……」


   二井原 「ただ俺は世間話として、おめえさんの本音を聞きてえだけだ」




 そこで夏目、心からの本心を申し上げる。



   夏 目 「今、神室町の表の治安は、完全に警察が守ってます」

       「裏では、真島組の残り3分の1のシマを譲られた直系三代目風間組がケツモチのシェア1位」


       「他の仕事はこれまでどおり、他の東城会系の組とよその組織がやってます」


       「で、ドブ底のシノギは、このたった10日間で、近江連合が半分以上を飲み込んで仕切る形になりました」


   二井原 「それは聞いてる」


   夏 目 「ほんで七代目は今んとこ、近江連合の渡瀬さんと盃を交わした状態です」


   二井原 「それも聞いてる」


   夏 目 「ですから、この先どうなるかは分かりませんけど……」


       「俺としては、今はまずまず平和な状態やと思てます」


       「ほんで、これはこれでええんちゃうかと思うんです。とにかく、平和であることが一番ですから」




 すると二井原、かなりの間を置いてから、あっけらかんと言う。



   二井原 「そうかい。実は、俺もそう思ってたところでな。意見が合って嬉しいね」

   夏 目 「ありがとうございます」




 夏目、ホッとし、深々と頭を下げる。


 二井原、満足そうに頷いたのち、話題を替える。




   二井原 「それで、おめえさんとこは今どうしてるんだ?」

   夏 目 「はい、引き続き神室町で、真島グループとしてやらしてもうてます」


   二井原 「真島グループ?」


   夏 目 「はい。これまでも真島は真島建設以外にもたくさん会社を持ってたんですけど……」


       「今回、真島警備を畳んだ後で、新しく会社を二つ立ち上げたんです」


       「それで、今後はその全部をまとめて真島グループとすることになったんです」


   二井原 「なるほどな。――で、その新しく立ち上げた会社ってのは?」


   夏 目 「一つは、真島組っちゅう建設会社です」


       「真島建設で受けるには小さ過ぎる仕事を受けるための会社です」


   二井原 「ほう!」


   夏 目 「もう一つは真島娯楽株式会社です」


       「これまでバラバラに経営してたゲーム制作会社やらグッズ制作会社……」


       「そのへん全部を統括して仕切るために立ち上げたんです」


   二井原 「ははあ! 真島には商才があると聞いちゃいたが、噂以上だな。大したもんだ」


   夏 目 「ありがとうございます」




 夏目、たいそう誇らしげ。

 それを眼前に見た二井原、好々爺の笑顔でこくこく頷く。


 ここでいったん暗転。






○神室町・ミレニアムタワー

 ミレニアムタワーの最上階が「真島建設」のシートで覆われ、作業が始まっているらしい様子が遠景で映る。



○神室町・天下一通り

 天下一通りの人の流れを映した後、スカイファイナンスの入るビルを映し、その「スカイファイナンス」の窓を映し出す。



○スカイファイナンス


 秋山、ソファーにて居眠り中。


 そこを花に怒鳴られる。




     花 「社長!! 何でバカンス帰りなのにグウタラしてるんですかぁ!?」

       「昨日まで沖縄だったんですよね!? 完璧に充電できてるはずですよね!?」


   秋 山 「いや、それがさ……支倉静子さんを説得するのに手こずっちゃってさ」


       「結局、アサガオにお連れできたのが最終日……」


       「それも、帰りの飛行機に間に合うギリギリだったんだよねぇ……」




 それで花、笑顔になる。



     花 「そうそう、遥さん、本物の大叔母さんと会えたんですもんね!」

       「誘拐前日と当日にだけ来たニセモノが、支倉さんの身の上話を正確に喋ってて……」


       「それを事前に聞いてたから、遥さんも大叔母さんを受け入れやすかった――」


       「なんて、何が幸いするか分かんないもんですねぇ~~」




 そこでコロッと元の厳しい顔に立ち戻り、




     花 「って、それとこれとは話が別ですからね!?」

       「私は社長が常夏気分を楽しんでる間、ずーっと極寒の神室町で仕事してたんです!!」


   秋 山 「極寒って……ここ、エアコン利いてるじゃない」


     花 「心が寒いんです!!」


       「品田さんなんか婚約者を連れてったんでしょ!? 何か私、もう泣いちゃっていいですか!?」


   秋 山 「いや、ねえ、そんなこと言わないでさ。――あっ、そうだ、今度一緒に沖縄行こう?」


       「ホントいいとこなのよ、夕焼けのビーチなんかもう最高でさ」


       「女子は間違いなくウットリしちゃうと思うよ?」




 すると花、びっくり眼で一時停止。


 そこから秋山をジーッと見、探るように言う。




     花 「それって――婚前旅行のお誘いですよね?」

   秋 山 「えっ? えっと……」


     花 「つまりプロポーズですよね!?」




 秋山、驚きすぎて一時停止。

 その秋山と真っ向から睨み合った花、しばしののち一瞬にして愕然たる表情になる。




     花 「違うんだ!?」




 秋山、ホッとした弱々しい笑みを浮かべる。




   秋 山 「う、うん……」

     花 「じゃあ何でそんなこと言うんですかぁ!? 今日だけじゃないです、こないだからずっと!!」


       「て言うか社長、もう全部分かってるんですよね!?」


   秋 山 「まあ、その……(と目が泳ぎながら)、それなりには……?」


     花 「もおおおおお!! 最っ悪!! ホント最悪!!」


   秋 山 「いや、あの……何かごめんね?」


     花 「あーーーもう!! 社長のバカ!! ホントバカ!! もーーーー!!」




 花が喚きながら席へと戻り、そのお怒りを何とか宥めようと秋山がそちらへ向かう。

 その際に映った隠し金庫前の本棚に、カメラは近付いてゆく。


 その棚の一ヶ所に、アサガオのみんなが写っている写真が写真立てに入れて飾られているのが、ズームアップされる。


 ここでいったん暗転。






○東京空港・外

 伊達の運転で空港までやってきた東城。サングラスもかけていない状態。


 停車した車中にて、改めて挨拶。




   東 城 「すまなかったな、送ってもらって」

   伊 達 「こっちが言い出したんだ、気にすんな」


   東 城 「昨日までニューセレナの奥を貸してもらったこともだ」


       「おかげで久々に心から落ち着けた休暇になった」


   伊 達 「どうせ正月過ぎまで店閉めるんだ、気にすんなって」




 しばしの沈黙ののち、伊達から言う。



   伊 達 「もう戻ってこないのか?」



 それが12年前の別れ際と同じセリフだと、東城も気付いた様子。

 その時のことを思い出したのか、ニッと笑うと、その時と同じセリフを答える東城。




   東 城 「さあな。また伊達さんから呼ばれることがあれば、来るかもしれないぜ」

   伊 達 「そうか」




 今回は「だが残念ながらそれはないと思うぜ」を言わない伊達。

 しばしの間ののち、さらに問う。




   伊 達 「遥には、本当に会わなくていいのか?」



 すると東城、真顔に戻る。



   東 城 「会うわけにいかねえのは、分かってるだろう?」

   伊 達 「いや、でもな――」


   東 城 「無理なんだ」




 東城、少し間を置き、



   東 城 「少なくとも、堂島の龍に利用価値があるうちはな」



 伊達、ハッとしたように東城のほうを振り返る。

 東城、しばし無言で正面を向いたまま。


 さらなる間ののち、やっと続ける。




   東 城 「もしいつか、堂島の龍って伝説を超える奴が現れたら……」

       「もう堂島の龍なんかに利用価値はねえ――誰もがそう思う日が来たら……」


       「その時、俺はやっとアサガオに帰れる。――そう思ってんだ」




 それからかなりの間があったのち、伊達は希望ある苦笑いを浮かべる。



   伊 達 「分かったよ。じゃ、そんな奴が早いとこ現れてくれますようにって神頼みでもすっか」

   東 城 「(微笑み) ああ」




 ここで伊達、12年前のように手を差し出す。

 その手を、12年前と同じやり方で握る東城。




   伊 達 「じゃあな」

   東 城 「ああ」




 そして東城、車を降り、ドアを閉める。

 ターミナルビル内へと入っていく東城の後ろ姿を、見送る伊達。


 ここでいったん暗転。






○東京空港・出発ロビー

 出発ロビーの、自身のゲート近くへとやってきた東城。


 そこのベンチにて、悠々と座りニンマリ笑顔で待ち受けている真島を発見。


 東城、そのベンチを通り過ぎ、真島の席と背中合わせの真後ろの席に座る。




   真 島 「つれへんなぁ、桐生ちゃん。隣に座ってもええんやで?」

   東 城 「あんたもアメリカに行くのか?」


   真 島 「いや、行けへん」


   東 城 「じゃ、どうしてここにいるんだ?」


   真 島 「見送りや」




 しばしの沈黙ののち、背後から、正面を向いたままの真島に分厚い封筒を差し出される。


 それに気付いた東城、その封筒を取り、マジマジと見る。




   東 城 「何だ?」


   真 島 「餞別や」


   東 城 「そうか。――悪いな」


   真 島 「遠慮せんでええで。俺は何ぼでも持っとるからなぁ」




 その時、搭乗のための案内の声がする。




  空港係員 「御案内いたします」




 そこで東城、封筒を内ポケットに入れ、立ち上がる。




   東 城 「じゃあな」


   真 島 「おぉ。ほなな」




 東城、来たとおりのルートを戻ったのち、真島の正面の道を進んでゲートへと向かう。

 その後ろ姿を座ったまま見送る真島、無表情だが目がやや淋しげ。


 すると、だいぶ行った先で東城が立ち止まり、向こうを向いたままで呼びかける。




   東 城 「真島の兄さん」



 真島、キョトン。



   東 城 「さよならは言わねえよ」



 そう言った東城、顔半分だけ振り返る。



   東 城 「どこでツラ突き合わせねえとも限らねえ。あんただけは読めねえからな」



 真島、ニッと笑い、片手を上げて見せる。

 東城も目元と口元だけで少し微笑むと、また身を翻し、ゲートへと向かっていく。


 ここで暗転。








○エンドロール







○飛行機・機内

 窓の外を見ている東城。


 それからふと思い付いたように、内ポケットから餞別の封筒を取り出し、開けてみる。


 すると中身は写真の束。一番上には現在のアサガオのみんなが写った写真(スカイファイナンスにあったのと同じもの)がある。


 (※HV(ハイビジョンサイズ)なので158×89㎜。なお、万札のサイズは160×75㎝)


 目を瞠った東城、写真を次々に見てゆく。


 アサガオのみんながそれぞれにポーズを取ったところを撮られた写真が続く。


 東城が見ていた写真の1枚が、そこから動画になることで、その写真が撮られた瞬間の光景へと場面転換する。






○(回想)沖縄・アサガオ

 その写真の撮影後、スマホカメラのアングルは近くにいた志郎に向く。


 志郎、面倒そうな顔になる。




   志 郎 「品田さーん、まだ撮るの?」



 するとスマホを下ろした品田、困り顔。



   品 田 「だって秋山さんから頼まれてんだもん、もうちょい協力してよ」

   志 郎 「しょうがないなあ……」




 品田、ここからさらにみんなの写真を撮って回る。途中、



   ハルト 「ばぁば~~」



 と言いながらハルトが、とある老婦人=本物の支倉静子と遊んでいるところも撮る。

 そこへ、遥がお盆でお茶を運んでくる。


 その後ろをお盆を持ってついてきているのは、品田の婚約者・みるくちゃん。

 (※本名が鳥山美恵子なので「みーちゃん」)


 その遥に、品田は慌ててリクエスト。




   品 田 「あっ、遥ちゃん遥ちゃん! ハルト抱っこしてるとこ撮らせて!」



 遥、笑顔で頷くと、静子と笑顔を交わしてからハルトを抱っこし、カメラのほうを向く。



     遥 「ハルト、にっこりだよ~~」

   ハルト 「にっこり~~」




 そして2人が同時に笑顔になった瞬間を、品田が撮影。

 そのシーンで画面が停止し、それが今現在、東城の手元の一番上に来ている写真になる。






○飛行機・機内

 ハルトを抱っこした遥の写真を見ている東城。


 そこから、さらに順に写真を見ていく。


 そして目元だけで優しく微笑み、呟く。




   東 城 「ありがとう」




                                  (完)
ブログ更新情報
ブログ一覧