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二章 夏目編 危機

二章 夏目編 危機 (1)



○真島ビル・8Fラウンジ (深夜)

T「20日前  2017年12月8日 00:25」

 ラウンジには若林、夏目、庄司がいる。


 椅子に深々と座っている夏目、眉間に指を当ててタブレットを見ている。


 ここで、「投資ゲーム」のチュートリアルになる。


 (※「投資ゲーム」はパズルゲーム。仮にマッチ3ゲームなら、画面内の特定のブロックを消すことでその下に隠れる文字(例えばハインリックス)が浮かび上がり、今回のチュートリアルのように「ハインリックスを全株売る」や「○○を5000万買う」等の表示が出てゲーム終了となるシステム。以降は何度でも連続してできるが、ここでは1度だけ)
 (※株の売買の金額に関係なく、ゲームクリアすれば「真島投資株式会社からの特別ボーナス」という形で所持金に金が加算されるシステム)
 (※これ以降、この夏目の席に座ると、いつでも投資ゲームができるようになる)





○真島ビル・8Fラウンジ (深夜)

 チュートリアル終了後。


 夏目、タブレットの画面を見たまま、不意に言う。




   夏 目 「庄司」 (※庄司のほうは見ていない)


   庄 司 「はい」 (※庄司は夏目のほうを見て会話している)


   夏 目 「ハインリックスを売っといてくれ」


   庄 司 「全株ですね?」


   夏 目 「せや」


   庄 司 「分かりました」




 庄司、すでに取り出していたスマホを操作。

 夏目、ふと内ポケットからスマホを取り出す。


 振動するそれの画面を確認すると、「花屋さん」の表示。


 夏目、タブレットを脇のテーブルに置きながら、若林に言う。




   夏 目 「すいません、出ます」

   若 林 「おう」




 スマホに出た夏目、花屋に話しかける。



   夏 目 「はい。何かありましたか?」

  花屋の声 「大ありだ。今からちょいと、こっそり一人でこっちに来れねえか?」




 夏目、真剣な表情になる。



   夏 目 「分かりました。ほな、すぐに」

  花屋の声 「頼むぜ」




 通話は向こうから切れる。

 夏目、スマホを内ポケットにしまい、椅子から立ち上がると、若林に向けて言う。




   夏 目 「ちょっと出てきます」

   若 林 「おう」




 それまでに立ち上がっていた庄司に、夏目は言う。




   夏 目 「いや、ええ。ひとりで行く」


   庄 司 「そうですか」




 と姿勢を整え、



   庄 司 「いってらっしゃいませ」

   夏 目 「うん」




 そして夏目、庄司に頭を下げて見送られる中、ラウンジを出てゆく。

 ここでいったん暗転。






○真島ビル・外 (深夜)

 ビルの外に出てきた夏目、内心考える。




   夏目M (花屋さんがあんなふうに言いはるからには、よっぽどのことがあったらしいな)

       (早よ河原に行こ)




 夏目、ここから賽の河原へ向かうことになる。


 【その間に、不良やチンピラとの戦闘だの、サブストーリーだのに巻き込まれる】






○賽の河原・入口 (深夜)

 やっと賽の河原の入口までやってきた夏目、中に入る。


 そして長い暗転。








○賽の河原・モニタールーム (深夜)

 正面モニターが東城会本部の会長室にいる大吾と繋がっており、テレビ電話の状態。


 そのモニター画面に向け、夏目はつい叫ぶ。




   夏 目 「あのハルト君が誘拐されたんですか!?」

  大吾の声 「そうなんです」


   夏 目 「それで……その電話の相手は何を要求しよったんですか?」


  大吾の声 「100億です」


   夏 目 「100億!?」




 そのタイミングで花屋、横から割り込む。



   花 屋 「人一人の身代金としては前代未聞だぜ」

       「まして、誘拐された者の親類縁者でなく、
親類縁者の縁故者がかつて属していた組織に要求しやがるとはな」

   夏 目 「そうですよね……」




 夏目、大吾を見て、理解する。



   夏 目 「払いはるおつもりなんですね?」

  大吾の声 「もちろんです。桐生さんの孫と言っても過言ではないハルト君なんですから、
100億や200億で買い戻せるなら安いものです」

   夏 目 「東城会は、払えるんですね?」




 大吾、少し微笑む。




  大吾の声 「俺が自由に動かせる範囲内の額です。100億如きで東城会の屋台骨は揺らぎませんよ」




 しかし、すぐに笑みを消した大吾、後を続ける。



  大吾の声 「ですが、それは危険な賭けでもあります」

   夏 目 「……金を払ってもハルト君を返してもらえるとは限らんっちゅうことですか?」


  大吾の声 「もちろんそれもあります。ですが、俺が考えているのは別のことです」


   夏 目 「別のこと……」


  大吾の声 「今回100億を払って、無事にハルト君が戻ったとしましょう」


       「しかしそうなると、彼には100億の価値があるということが裏の世界に知れ渡ります」


       「なら、またすぐ別の人間に誘拐される可能性が極めて高い」


   夏 目 「…… 一個人で全テロリストの標的になってまうっちゅうことですか……」


  大吾の声 「そうです」


       「そしてハルト君は、金が払われ続ける限り誘拐され続け、いずれ払えない時が来たら……」


       「その時の犯人の事情如何によっては、殺されることもありえます」


   夏 目 「それはマズいです!」


  大吾の声 「ええ」




 大吾、一息置いて続ける。




  大吾の声 「ですから、東城会には払う金も意思もあります」

       「しかし、金の受け渡しとなる前に、ハルト君を奪い返したいんです」


       「何より、ハルト君の今後のために」


   夏 目 「そうですね。分かりました、真島組も総力を挙げて臨みます」


  大吾の声 「ありがとう」




 そこで花屋、夏目に言う。



   花 屋 「で、あんたをここに呼び出したのは他でもねえ」

       「今現在ハルトがどこにいるか、あんたの勘で探れねえか?」


   夏 目 「――それ超能力の域ですよね!? いくら何でも無理ですよ!!」


   花 屋 「さすがに無理か。勘で爆弾を見つけるのも十分超能力の域だと思うがな……」


   夏 目 「あれは花屋さんがある程度範囲を絞ってくれはったから何とかなったんです!」


   花 屋 「それをやろうとはしてるんだが、何しろ2歳前の子供だからな」


       「薬を盛ってカバンにでも入れちまえば、どうとでも運べる」


       「最悪、もう沖縄県内にはいねえかもしれねえ」




 夏目、モニター画面の大吾に問いかける。



   夏 目 「アサガオのほうは今どうなってるんですか? 警察には?」

  大吾の声 「ハルト君が誘拐されてすぐ、遥ちゃんが警察に通報しました」


       「沖縄県警は営利誘拐と判断し、マニュアルどおり秘密裏に動いているそうです」


   夏 目 「……それも遥ちゃんからの報告ですか?」


  大吾の声 「いえ、実は今、向こうに秋山さんと辰雄がいるんです」


   夏 目 「秋山さんはともかく品田さんもですか!?」


  大吾の声 「はい」

       「誘拐実行犯の女が遥ちゃんの大叔母の名を名乗ったので、辰雄は秋山さんから確認調査を依頼されたんです」


       「そこで、旧姓澤村で現在は支倉静子という
名の資産家の老婦人が名古屋の錦栄町に実在することを調べ出し、秋山さんに伝えたんです」

       「それが遥ちゃんに伝わったことで、つい遥ちゃんは安心してしまったんですよ」


   夏 目 「そうやったんですか……」


  大吾の声 「しかし直後、支倉静子のニセモノの手によって、ハルト君の誘拐が起きてしまった」


       「遥ちゃんからその連絡を受けた秋山さんは、すぐに沖縄へ向かったそうです」


   夏 目 「……秋山さん、不完全な情報を流したことを悔やんではるんでしょうね……」


  大吾の声 「そのようです。今回のことを解決するためには、全てをなげうつ覚悟だとおっしゃっていました」




 しばしの間ののち、夏目はさらに問う。



   夏 目 「ほんで、東城会に身代金要求が来たことは、警察には……?」

  大吾の声 「届けていません。お決まりですが、警察に言えば殺すと言われましたから」


   夏 目 「ほんだら、このことを知ってんのは……」


  大吾の声 「今のところは我々三人と宇佐美夫婦、秋山さん、そして辰雄だけです」




 沈黙ののち、夏目は思い付いたことを言う。



   夏 目 「それにしても……。こう言うたら何ですけど、よう東城会に100億要求してきよりましたね」

       「言うても極道組織なんですよ?」


       「いかに元会長の孫に等しい子ぉやとしても、普通なかなか100億は払わんもんですよ」




 すると大吾、しばし考え込んだのち、




  大吾の声 「俺の弱みをよく知っているということもあるんでしょうが……」

       「そうか、ひょっとすると、100億が真の狙いじゃないのかもしれないな」




 よく分からないという顔をした夏目に、大吾が答える。



  大吾の声 「むろん、100億も取れるものなら取っていくでしょう」

       「しかし向こうの一番の目的は、東城会内部の混乱なのかもしれません」


   夏 目 「そうか……。100億を動かしたら、さすがに東城会の執行部には知れますもんね」


  大吾の声 「ええ」


       「いかに屋台骨が揺るがないとは言え、執行部の全員がその使い道を受け入れるはずはありません」


       「そして、12年前の東城会で、100億盗難であの一大騒動が起きたことは周知の事実です」


       「ですから、ひょっとすると今回の犯人は、それを狙っているのかもしれません」


   夏 目 「ほんだら六代目の身が危ないじゃないですか!」


  大吾の声 「そんなことは構いません。問題は、それによる混乱が別の騒ぎに発展することです」


       「これまで抑え込んでいた俺への不満が一気に噴き出すかもしれない」


       「それがどんな形になって現れるか……」


   夏 目 「六代目。今からうちのモンを警備に付けてもよろしいですか?」


  大吾の声 「本家の護衛だけで充分ですよ。それに、俺のことなど構わないと言ったでしょう」


   夏 目 「こんな状況で万一六代目が殺されたら、跡目争いが起きひんとは言い切れません!」




 大吾、夏目を見つめたのち、小さく溜息。



  大吾の声 「いよいよ12年前の再現ですね」

       「もし犯人の狙いがそれなら、俺が内密に事を運ぼうとしても無理だな……」


   夏 目 「――執行部全員に直接リークする可能性がありますね!」


  大吾の声 「ええ」




 そのとき夏目、内ポケットからスマホを取り出す。振動するその画面を見、




   夏 目 「若林さんです。ひょっとしたら、今ゆってたやつのことかも……」


  大吾の声 「すぐ出てください」


   夏 目 「はい」




 言われるままに出た夏目。


 その隣の花屋、キーボードを叩き始める。




   夏 目 「はい、夏目です」

  若林の声 「おう、俺だ。実は今、組のアドレスに妙なメールが届いてな」


   夏 目 「やっぱり……」


  若林の声 「やっぱり? どういうことだ?」


   夏 目 「すいません、そのメールを読み上げてもらえますか?」




 そして夏目、スピーカー機能にする。おかげで若林の声がここにいる全員に聞こえる。



  若林の声 「ええっと……」

       「“東城会会長が東城会の金100億を私的流用しようとしている”」


       「以上だ」




 すると花屋、言う。



   花 屋 「今、真島組のアドレスに俺のメールを送った」

       「そのメールアドレスに、今読み上げた妙なメールってのを転送してくれ」


   夏 目 「若林さん、すいませんけど、お願いします」


  若林の声 「お、おう、分かった。じゃ――頼むぜ」




 そこまでで通話は向こうから切れる。

 それからしばらく間があったのち、花屋が勢いよくキーボードを叩き始める。




   花 屋 「こりゃダメだ。おそらく、あちこち経由しまくってて追い切れねえってオチだろう」


       「いちおう辿ってはみるがな」




 その時、モニター画面の向こうの大吾のデスクの電話が鳴る。大吾、出る。

 (※以降、セリフの間を取る参考として、本家の若衆のセリフも括弧つきで表記。音声はナシ)




  大吾の声 「何だ?」


  (若 衆 『大変です。会長が組の金を私的流用ってメールが――』)


  大吾の声 「ああ、そのメールなら知ってる。どこに送られたんだ?」


  (若 衆 『おそらく全直系組織です。さっきから問い合わせの電話がひっきりなしで――』)


  大吾の声 「分かった。じゃ、こう答えろ。執行部だけの緊急幹部会を開き、そこで説明する――と」


  (若 衆 『分かりました。執行部の皆様には、いつの何時とお伝えすれば?』)


  大吾の声 「(少し考えてから) 本日の午後2時と」


  (若 衆 『かしこまりました』)




 通話を終えた大吾、こちらに言う。




  大吾の声 「事務局からの連絡です。全直系組織の許にさっきのリークのメールが届いたと」

       「問い合わせの電話が殺到しているようです」


   夏 目 「執行部どころちゃいましたね……」


  大吾の声 「夏目さん」


   夏 目 「はい」


  大吾の声 「もちろん、あなたも緊急幹部会に出てくれますね? 真島組組長の代理として」


   夏 目 「……つまり、舎弟頭の格でですか……」


  大吾の声 「ええ」




 通常業務の代理は経験があったので気楽に引き受けたが、東城会本家の幹部会に舎弟頭の格で代理出席となると、あまりにも力不足たる自覚がありありとある夏目、そんな表情になる。



   夏 目 「待ってください。親父の入院は人間ドックなんですから、一時退院の自由は利くはずです」

       「どうせ最終日ですし、残り分だけ別日にやってもらえば……」


  大吾の声 「そうですね。では、真島さんにそう言ってみますか?」


   夏 目 「……いちおう、若林さんから言うてもらってみます……」


  大吾の声 「上手くいくといいですね」




 しかし大吾はやや面白がるふうに微笑んでおり、夏目もイヤな予感がし始めている表情になる。

 ここで長い暗転。






二章 夏目編 危機 (2)



○東城会本部・会議室


T「20日前  2017年12月8日 14:05」


 会議室内には、すでにズラッと執行部のメンツが揃っている。


 その中、若頭の席(会長の席から見てすぐ右の椅子)には冴島が座っている。


 その隣の舎弟頭の席には、夏目が座っている。


 夏目の脳裏で、若林の声が響く。




  若林の声 「兄貴の言ったとおりに伝えるぞ」

       「代理やったらやったげますて啖呵切ったんは誰や?」


       「だそうだ」




 夏目、両拳を両膝の上に乗せた状態で顔を伏せ、目を閉じ、つい独り言。



   夏 目 「めっちゃ怒ってはるやん……」

   冴 島 「うん? 何か言うたか?」


   夏 目 「何もないです……」




 そこへ大吾が登場し、皆が起立、頭を下げる。大吾が着席した後、皆は頭を上げ、着席。



   大 吾 「では、緊急幹部会を始める」

       「そして、この先この話には箝口令を敷く。他の直系組長にも他言は無用だ」


       「先に結論から言おう。俺が東城会の100億を動かそうとしていること――それは事実だ」




 それにより、室内はざわめく。

 夏目は事情を知っているのでポーカーフェイス。真島から知らされている冴島も同じ。


 すると、若頭補佐の筆頭の席(夏目の真向かいの席)にいた槇 康臣(35)が口を切る。


 槇はインテリヤクザらしい知性が滲み出ている顔つきで、スーツ越しにも分かるほどのいかつい体形。




     槇 「それは例のメールにあったとおり、私的に流用ということですか?」



 ここで槇の顔の大写しになる。

 画面が一時停止し、画面下部に「東城会 若頭補佐 直系二代目白峯会 会長 槇康臣」の表示。一時停止が解除。




   大 吾 「それは話を聞いた後、各自で判断してもらいたい」

       「みんな、宇佐美ハルトという少年は知ってるな?」




 室内、ややざわつく。




   大 吾 「四代目が娘同然に世話していた澤村遥、その彼女の一人息子だ」

       「つまり、四代目にとっては孫同然ということだ」




 室内、さらにざわつく。



   大 吾 「そのハルト君が昨日何者かに誘拐され、その身代金が東城会本家に要求された」

       「その要求額が100億だ」




 それにより、ざわざわはピークに達する。


 そのため冴島、威嚇ではない大声で言う。




   冴 島 「静かにせえ。六代目の話が聞こえへんようになるで」



 おかげでざわつきはやや静まり、大吾が説明を再開。



   大 吾 「犯人の指示に従い、このことは警察には届けていない」

       「だから、警察はまだ宇佐美夫妻に要求電話が来るのを待っている状態だ」


       「そして、犯人の狙いはおそらく100億そのもの以上に――」


       「俺が100億を動かそうとすることで起きるであろう東城会内部の混乱にある」




 その発言により、途端に静まり返る室内。



   大 吾 「つまりハルト君は、被害者だということだ」

       「東城会に害をなそうとする犯人の企みに巻き込まれたんだからな」


       「なら、それを何とかするのは東城会の義務であり、責任だ」


       「もっとも、100億を払うことでハルト君をいったん助けることはできても――」


       「100億の価値があるとなった彼が、更なる危険に晒される将来を招きかねない」


       「だから俺としては、身代金の受け渡しより早くハルト君を奪還したい」


       「そうできるよう、ギリギリまで尽力するつもりだ」


       「しかしいざという時には――100億を支払おうと思っている」


   磐 井 「いや、しかし……」




 と考えながら言ったのは、本部長の席(冴島の真向かい)にいた磐井久光(47)。




   磐 井 「いくら四代目のお孫さん同然だとしても……」

       「いや、だからこそ、やはりそれは私的流用なんじゃありませんか?」




 ここで磐井の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会 本部長 直系磐井組 組長 磐井久光」の表示。一時停止が解除。


 そこへ、ほぼ末席の矢部勇樹(33)から、賛同の物言いがつく。




   矢 部 「そのとおり、今さら四代目が何だってんです? もう今の東城会には関係ないじゃないですか」



 ここで矢部の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会 若頭補佐 直系矢部組 組長 矢部勇樹」の表示。一時停止が解除。




   矢 部 「それも、もうとっくに死んじまってる人だ」

       「その人の身内の世話なんざ、うちが見る義理はないと思いますがねえ」


       「大体、1億2億ってことならまだしも、100億ってのは……」


       「いくら何でも法外すぎるでしょう」




 その矢部の発言により、他のモブ若頭補佐たちもざわつく。




 若頭補佐A 「そうだ、あまりにも高すぎる」


 若頭補佐B 「100億だからな……」




 そのざわつきにより、多数側だと見たらしい矢部、少し調子に乗ったトーンでぺらぺら喋る。



   矢 部 「極道が敵に身内を狙われる。そりゃ当然のことでしょう」

       「身内を守り切るだけの甲斐性がないなら、作らなきゃよかったんです」


       「作っちまった後に勝手におっ死んで、後の世話はよろしくとばかりに組に迷惑かけるなんてのは……」


       「正直、もう伝説でも何でもないんじゃないですかねえ」




 それにより、室内はさらにざわつく。




 若頭補佐A 「確かにな……」

 若頭補佐B 「そこまで面倒見るべきなのかとなるとな……」




 そこまででイライラしていた夏目、ついにプチッと来て、場が静まった一瞬の隙を見て言う。




   夏 目 「言いたいことはそれだけかい」




 そのためモブ若頭補佐たち、文句ありげなトーンで口々に言う。




 若頭補佐A 「んん?」

 若頭補佐B 「何だ?」


 若頭補佐C 「誰だ?」




 そこで夏目、立ち上がって前に出て、さらに言う。




   夏 目 「今の東城会には関係ないやと? もう伝説でも何でもないやと?」




 夏目、ギロリと室内をねめつける。




   夏 目 「いま東城会が無事に存続できてんのが誰のおかげか――まさか忘れたわけちゃうやろな?」




 その一種異様な気迫にモブ若頭補佐たちが口ごもったところへ、夏目はブチ切れ一喝。



   夏 目 「誰のおかげで東城会の金看板せおて一廉の人物気取れとると思とんじゃ!!」


       「美味しいとこだけつまみ食いしよっちゅうウジは東城会には要らんのじゃ!!」




 そして夏目、矢部の前まで歩いてくると、その正面に立ち、見下ろす。



   夏 目 「さっき、100億は法外すぎるっちゅうたか?」

   矢 部 「お、おう……」


   夏 目 「うちがこの11年で納めさしてもうたアガリは、それ余裕で越えとるわ」




 矢部、いまいましげにギロリと睨みつける。

 しかし夏目、微動だにしない。




   夏 目 「うちが納めさしてもうた内の100億――」

       「それを今回使うっちゅうことやったら、文句はあれへんなぁ?」


   矢 部 「……くっ……」


   夏 目 「あんたんとこが納めた金には一銭たりとも手ぇ付けへんから、安心せえや」




 それにより矢部、睨みつけたまま両拳を握りしめるが、歯噛みするばかりで、何も言い返さない。

 夏目、悠々と自分の席へ戻ってきて着席。それから大吾に向けて言う。




   夏 目 「どうぞ」




 大吾、頷く。そして説明再開。




   大 吾 「今の我々は正直言って、どうにも動きようがない」


       「しかし、いずれハルト君の奪還に向け、皆の力を借りる時も来るだろう」


       「だから、どうかその時まで――静観していてくれ」




 すると槇、身を乗り出して応える。




     槇 「うちはいつでも動けます。遠慮なく声をかけてください」


   大 吾 「ああ」




 そのやりとりで、六代目派のモブ若頭補佐たちが次々に名乗りを上げる。




 若頭補佐D 「うちもいつでも!」


 若頭補佐E 「うちも!」




 おかげ室内は六代目支持の方向で盛り上がる。


 冴島、夏目のほうを見、「よくやった」というふうに頷く。


 夏目、冴島に対し、軽く頭を下げる。


 そこで暗転。






○東城会本部・エントランス

 夏目、エントランスまで降りてきたところで、槇に声をかけられる。




     槇 「やあ、どうも」


   夏 目 「ああ……お疲れ様です」


     槇 「さっきの啖呵、しびれましたよ。さすがは真島組の若頭だ」


   夏 目 「どうも……」


     槇 「それじゃ」




 と微笑み、それっきりで去っていく槇。

 夏目、その後ろ姿を見つつ、内心考える。




   夏目M (8年前、峯会長の死後に白峯会が自然消滅した時……)

       (白峯会の若衆やった槇会長は六代目に見込まれて、本家の若衆に引き上げられはった)


       (その3年後、資産運用の才能を認められて、直で直系の組を持たされはった)


       (今では若頭補佐筆頭、東城会の金庫番や)


       (槇会長は峯会長譲りの金融センスを持ってはるし、峯会長以上に六代目に心酔してはるから、当然やな)




 そこへ、わらわらと駆け寄ってきたのは、矢部とその子分たち。



   矢 部 「てめえ、さっきはよくも恥をかかせてくれたな。ただの代理が偉そうな口利いてんじゃねえ!」

       「俺が礼儀を叩き込んでやる」




 ここで、「vs. 東城会直系矢部組組長 矢部勇樹 矢部組組員」の戦闘となる。






○東城会本部・エントランス

 戦闘後。矢部と矢部組の組員がみなボロボロの状態。


 そこへ駆け寄ってきたのは、磐井。




   磐 井 「矢部! 何をやってる!」

   矢 部 「いや、何も……」


   磐 井 「馬鹿な真似はするな。恥の上塗りをするだけだ」




 矢部は舌打ちし、それでも磐井にだけは頭を下げて、皆で引き上げていく。



   磐 井 「夏目、大丈夫か? ――聞くまでもなさそうだな」

   夏 目 「はい」


   磐 井 「矢部は血の気が多すぎるんだ。それがいい方向に出る場合も多々あるんだが……」


   夏 目 「そうみたいですね」




 磐井が省略した部分に相槌を打った夏目を、磐井はジロリと見てから言う。




   磐 井 「ま、気を付けるんだな」

   夏 目 「どうも」




 磐井が去っていくのを見ながら、夏目は内心考える。



   夏目M (本部長は番頭の見本みたいな人や。せやから常に事態のバランスを取ろうと苦心してはる)

       (矢部組長も、本部長にだけは一目置いてるらしいな)


       (あの矢部組長も、直情径行型やけど腕っぷしは強いし、下のモンからの人望も厚い)


       (向く方向さえ間違わんかったら、ええ人材やねんよな)


       (何せ、俺と同い年で直系組長、しかも若頭補佐やからな……)




 というところまで考えた夏目、エントランスを出る。

 ここで暗転。








○東京・高速道路・夏目の車中

T「20日前  2017年12月8日 15:20」


 左車線を走行する車中、助手席後ろの席でぼんやり窓の外の空を見ている夏目。


 その時、黒い車が背後から迫ってきたため、庄司が右側へ車線変更。


 すると黒い車がそのぶん前へ進み、こちらにぴたりと横並びになる形で並走する。




   庄 司 「兄貴。何か変です」



 夏目、真横を並走する黒い車に注意を向ける。

 その瞬間、黒い車の運転席後ろの窓が下りる。


 その向こうにいたのは、スーツ&サングラス姿のホサカ。

 ホサカ、機関銃を構える。




   夏 目 「庄司!! 伏せろ!!」



 そう叫び、伏せる夏目。


 機関銃が掃射される中、庄司は体を限界まで低くし、何とかハンドルを固定したままブレーキを踏む。


 上半分がボロボロになった状態の夏目の車は、大きくドリフトしてから何とか停車。




   夏 目 「庄司!! 大丈夫か!?」


   庄 司 「はい、何とか……」




 夏目と庄司、やっとのことで車の外に出る。

 そこにはすでに、黒い車から降り立ち待ち構えていた男たち5人。全員がスーツ&サングラス姿で、アジア系は1人のみ、後は白人系と黒人系。

 その5人の後方にホサカがやってき、立つ。明らかにボス格らしく見える。




   夏 目 「何や? おまえら、何モンや?」




 ホサカ、それを無視。

 前方の5人のみ、襲いかかるための構えを取る。


 そのため、夏目と庄司も構えることに。


 ここで、「vs. 謎の武装集団」の戦闘となる。 (※ホサカは参加しない)






○東京・高速道路 (夕方)

 戦闘後。ムービーに戻る。

 5人、完全に劣勢の状態。


 ホサカ、そのタイミングでおもむろに銃を構え、庄司に向けて撃つ。

 弾は庄司の肩をかすめ、そのせいで一瞬隙ができた庄司。


 ホサカ、そこへずいと迫り、庄司の頭に銃を突きつける。


 それにより夏目、怒鳴る。




   夏 目 「やめろ! おまえら、何のつもりじゃ!」



 するとホサカ、銃を構えたまま、夏目に向けて喋り出す。発音がほんの少しだけカタコト。




   ホサカ 「やめてほしければ、おとなしくしろ」

   庄 司 「ダメです!」




 と庄司は動こうとするが、夏目が怒鳴る。



   夏 目 「動くな!!」



 そのため、庄司は歯噛みしながらもじっとする。

 ホサカ、銃を構えたままゆっくりと夏目に近付いてくる。


 夏目、身構えてはいるものの手出ししないでじっとしている。


 ホサカ、夏目のすぐ目の前までやってくると、とうとう銃口を夏目の額に向ける。




   庄 司 「やめろ!!」



 その瞬間、夏目の背後に、敵のアジア系の1人(スーツ男Aと表記)が近付く。

 (※夏目の目の動きにより、夏目自身もそれを悟っていることを示す)


 スーツ男A、スタンガンを夏目の首元に押し付ける。


 夏目、その場にくずおれる。


 それでも意識はある夏目の耳に、ホサカが庄司に向けて言ったらしい言葉が聞こえる。




   ホサカ 「動くな。動くとすぐこいつの頭を撃つぞ」



 そこから夏目はなされるがままに抱えられ、黒い車の後部座席へと押し込まれる。


 その直後、ホサカが夏目の左袖をまくり、何かを静脈注射する。


 それから20秒ほどで、意識が遠のく夏目。

 その夏目の様子を向かいの席からサングラス越しに眺めているのは、ホサカ。


 夏目の視界が真っ暗になることで、場面の暗転となる。







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