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三章 秋山編 極秘

三章 秋山編 極秘



○沖縄・沖縄県警 (夕方) (※那覇の日没は17時38分なので、まだ明るい)

 沖縄県警の外観を遠景で映し出す。






○沖縄・沖縄県警前 (夕方)

T「19日前  2017年12月9日 16:25」


県警の正面玄関の外へ出てきている秋山、内心考える。




   秋山M (沖合20キロあたりで、爆発で大破したらしき1万トン級の船舶が見つかった)

       (でも、あまりにも損傷が激しくて船体識別番号も船舶番号も分からない、か……)


       (チャーターだとしても金がかかる)

       (犯人には相当の資金力があるってことだ)


       (まさか田宮総理が? 彼の実家は桁外れの大富豪だ)


       (しかし田宮総理には、東城会を脅かす動機がない……)




 そのとき秋山、スマホを取り出す。振動する画面を確認し、すぐに出る。



   秋 山 「もしもし、花ちゃん?」

   花の声 「社長!」

       「あの、もうそちらのハルト君の件は、解決したんですよね?」

   秋 山 「うん、まあ……そうだね」

       「ハルト君の件に関してはね」

   花の声 「じゃあ、申し訳ないんですけど、神室町に戻ってこれません?」

       「実は、お金を貸してほしいってお客さんが、この二日で七人も来ちゃってて……」

   秋 山 「七人!? そりゃ大変だ」

   花の声 「皆さん、何度も会社まで来られて……」

       「社長がいないのを確認しては、ガッカリして帰っていかれるんです」

   秋 山 「分かった」

       「じゃ、これからすぐ戻るよ」

   花の声 「すみません、お願いします」

   秋 山 「うん、じゃあね」



 秋山、通話を切る。すると、途端にまた鳴り出す。

 そのスマホ画面を見、怪訝そうにしてから、すぐに出る。



   秋 山 「やあ伊達さん。どうしました?」


  伊達の声 「どうもマズいことが起きたらしい」

       「おまえ、まだ聞いてないのか?」


   秋 山 「何をです?」


  伊達の声 「どうやら堂島大吾が拉致されたらしい」


   秋 山 「何ですって!?」






○東京都内・高速道路 (夕方) (※東京の日没は16時28分なので、もう日の入り寸前)

 日没間際の高速にて、現場検証中。


 伊達の背後に、大破した大吾のリムジンが写る。

 すでに運転手、秘書、護衛2人の姿はない。


 伊達、ケータイで秋山と話している。




   伊 達 「敵さん、今度は夏目ん時以上に派手にやりやがった」

       「どうも、真上から対物ライフルか何かを撃ち込みやがったらしい」


  秋山の声 「対物ライフル!? 真上から!?」


   伊 達 「ああ、ヘリが高速に着陸してたって目撃情報もあってな」


       「堂島の車は大破、運転手が重体、同乗してた秘書と護衛2人は重傷」


       「そして堂島大吾の姿がない」


  秋山の声 「くそっ、何てこった」

       「堂島さんは無事なんでしょうか?」


   伊 達 「車に堂島のもんらしい血痕がないから、流血沙汰の怪我はしてねえだろう」


       「だが、何しろこれだけの事故だ」

       「無傷ってわけにはいかねえかもな」


  秋山の声 「ああもう、何でそんなことに……」


   伊 達 「夏目がハルトを取り返したからじゃねえのか?」


  秋山の声 「――ああ、そうか!」

       「じゃ向こうは、100億要求のための新たな取引材料として狙ったんだ!」


   伊 達 「おそらくな」






○沖縄・沖縄県警前 (夕方)

 秋山、沖縄県警の前で通話中。




   秋 山 「とにかくアサガオに戻ります」

  伊達の声 「何だおまえ、今どこにいるんだ?」


   秋 山 「県警です」

       「電話じゃ詳しい情報を教えてくれないもんで」


  伊達の声 「ああ、そうか」


       「――なあ、思うんだがな」

       「ハルトの身柄を保護して、どこかに匿ったほうがよくねえか?」


   秋 山 「そうですね」


       「堂島さんが捕らわれたとは言え……」

       「ハルト君が完全にノーマークになったとは言い切れません」


  伊達の声 「とは言え、もう無事に戻ってきたんだ」


       「警察としては今後、ハルトを警護することはできねえんだがな……」


   秋 山 「分かってますって。俺がやりますよ」


  伊達の声 「そうか!」

       「神室町一の資金力を持つ金貸しなら安心だ」


       「何しろ警察ってのはいつも懐がカラッケツでな」


   秋 山 「任せてください」

       「とにかく警察には堂島さんの捜索をお願いします」


       「俺もこれからすぐ東京に戻りますんで」


  伊達の声 「おいおい、ハルトはどうすんだ?」


   秋 山 「腕っぷしの強いのがちょうどいるんで、彼に任せていきますよ」


  伊達の声 「はあん?」

       「まあいい、じゃあな」


   秋 山 「ええ」




 そこで通話終了。秋山、内心考える。



   秋山M (アサガオにいったん戻ろう)



 秋山、アサガオへと向かうことになる。

 【この後、モノレール乗り場へ辿り着くまでの間に、戦闘やサブストーリーに巻き込まれる】






〇沖縄・琉球街 (夕方)

 秋山がモノレール乗り場に入ったところで暗転し、次のシーンに移行。








○港区・二代目白峯会のオフィス・事務所 (薄明)

 事務所内に飾られている、白峯会の代紋の大写し。


 そこから引いて映し出された室内では、若衆が動き回り、緊急幹部会への支度をしている。






○港区・二代目白峯会のオフィス・会長室 (薄明)

 槇、会長室のデスクに着いている。

 何をするでもなく、ただただしかつめらしい表情。


 その視線の先には、峯の写真。


 その時、卓上の電話から呼び出し音が鳴る。

 槇、ボタンを押し、受話器を取らず答える。




     槇 「何だ?」

女性秘書の声 「東城会の堂島宗兵という方からお電話です」

       「いかがいたしましょう?」




 槇、眉をひそめる。


 槇がしばし無言だったため、同じ文言を繰り返す女性秘書。




女性秘書の声 「もしもし、東城会の堂島宗兵という方からお電話です」

       「もし必要ないようでしたら――」


     槇 「いや、いい。出る」


女性秘書の声 「かしこまりました」




 女性秘書の声が終わるや否や、槇は受話器を取り、電話本体で点灯しているボタンを押す。



     槇 「お電話替わりました」

       「しかし、悪い冗談はよしていただきたい」




 すると受話器の向こうからは、さもさも愉快げに笑い転げている男の声。

 (※「序幕」に登場した「謎の男」の声)


 それをすぐ耳元で聞かされた槇、先ほどよりも眉をひそめる。


 (※知らない相手の狼藉に困惑しているのか、知り合いの狼藉に閉口しているのか、槇の顔つきだけでは判断できない)

 そして暗転。






○沖縄・アサガオ・玄関 (夕方) (※日没は17時38分なので、もう間近)

T「19日前  2017年12月9日 17:31」


 秋山がアサガオに戻ったところ。

 玄関には、すでに出立の支度を終えている夏目と庄司が出てきている。


 その見送りのため、遥とハルト、宇佐美、子供たち、品田もいる。




   秋 山 「ああ、もう堂島さんのこと、知ってるんですね」


   夏 目 「はい。真島組から連絡が来ました」


   秋 山 「こっちには伊達さんからです」

       「事故現場は相当ひどい状態らしくて」


   夏 目 「……六代目も怪我してると?」


   秋 山 「いえ、現場に堂島さんのものらしい血痕はなかったそうです」


       「でも運転手が重体、同乗していた秘書と護衛2人が重傷だそうで」


       「ですから、無傷ではないかも――と伊達さんが」




 夏目の顔、曇る。

 庄司、夏目を見て沈痛そうな面持ち。




   夏 目 「とにかく、俺らはすぐ東京に戻ります」

   秋 山 「俺もそのつもりです」


   夏 目 「そうなんですか!」


       「ほんだら……」

       「うちのモンは、ここの警備のために置いてったほうがええんですかね?」


   秋 山 「あっ、そのことなんですけどね」

       「アサガオをずっと物々しい状態にしとくのも何でしょ?」


       「だから、実はハルト君を、どこか安全な場所に保護しようと思ってんです」


       「まあ、まさかハルト君だけってわけにもいかないんでね」

       「
遥ちゃんにも一緒に来てもらうことになりますけど」



 そのため宇佐美、怪訝そうに問いただす。



   宇佐美 「保護? ハルトと遥を?」

       「秋山さんがっすか?」


   秋 山 「警察はそこまでしてくれないからね」


       「それに俺、ハルト君奪還のことでは、何の役にも立てなかったじゃない?」


       「だから、せめてそれくらいはさせてほしいんだ」


   宇佐美 「そりゃまあ、警備っつってもこの立地じゃ限界があるでしょうし……」


       「安全な場所に匿ってもらえるなら安心ですけど……」


   夏 目 「秋山さん、俺からもお願いします」


   秋 山 「任しといてください」

       「それに、うってつけのボディガードもいますんでね」




 秋山に視線を向けられたのは、品田。

 品田、笑顔で調子よく会釈し、軽く手を上げる。


 それにより宇佐美、不安そうな表情になる。




   宇佐美 「品田さんがっすか?」

   秋 山 「あれ、心配?」

       「彼、こう見えて、相当の腕っぷしの持ち主なんだよ?」


   宇佐美 「いや、そりゃそうでしょう」

       「昨日、風呂あがりに体見てますから分かりますよ」


       「ただ、ハルトがいるとはいえ、遥と同じ部屋ってのは……」




 別の心配をしている宇佐美を見た秋山、面白がっている笑顔になる。



   秋 山 「ああ、そんな心配はいらないよ」

       「こちらの品田くん、実は目下ラブラブの婚約中だからね」


       「フィアンセ以外の女性なんか、女性に見えてない状態だよ」


   宇佐美 「あっ、そうなんすか!」




 と品田に向き直り、



   宇佐美 「よろしくお願いします!」



 安心した笑顔でぺこりと頭を下げた宇佐美。

 一方、初めて聞かされるニュースに驚いた夏目。




   夏 目 「品田さん、婚約しはったんですか!」

       「おめでとうございます」


   品 田 「いやー、そうなんすよー、お蔭様で何とかここまで漕ぎ着けまして」




 その一瞬の明るい話題ののち、気を引き締めた顔に戻った夏目、品田に向けて言う。



   夏 目 「品田さん、俺からもハルトのこと、よろしくお願いします」

   品 田 「任してくださいって」

       「その代わり夏目さん」




 と品田、いつになく真面目な調子になり、



   品 田 「堂島くんのこと、どうかお願いします」



 と、深く頭を下げる。

 夏目、その品田に対し、しっかり頷く。




   夏 目 「分かってます。全力を尽くします」



 その時、外から玄関に駆け込んできたのは、南。



     南 「カシラ。タクシーが来ました」

   夏 目 「よっしゃ」




 と皆のほうに振り返った夏目、



   夏 目 「ほな、行きます」

       「――秋山さん、また後で」


   秋 山 「ええ、また」




 夏目、ハルトのほうを見、にっこりすると、軽く手を挙げる。



   夏 目 「ハルト、ばいばい」

   ハルト 「ばいばい……ゆゆ」




 ハルト、少し淋しげな表情ながら、ちゃんと手を振ってお見送り。

 それから夏目と庄司、他の子供たちにも見送られて、アサガオを去っていく。


 見送りが一段落ついてから、秋山、遥に向き直る。




   秋 山 「そういうわけだから、今からすぐ支度してもらえるかな?」

     遥 「わ、わかりました」

       「じゃ、勇太」


   宇佐美 「うん、早く支度しな」

       「ハルトは見てるから」


     遥 「うん、お願い」




 遥、宇佐美の二の腕に手をかけてから、足早に自室へと向かう。

 すると品田、秋山に質問。




   品 田 「で、行き先はどこなんです?」

   秋 山 「それは着いてからのお楽しみだよ」




 秋山、なぜか困ったような笑みを浮かべる。

 そこで暗転。








○沖縄・隠れ家ホテル・遥の部屋・リビングルーム (夜)

 そこがゴージャス極まりない広々としたスペシャルルームであることが、何カットかで説明される。


 子供が好きそうなオモチャも山ほど用意されているのが映る。


 部屋に一歩入ったところで、秋山・遥・ハルト・品田の4人が立ちっぱなしになっている。


 ハルトのテンションは跳ね上がり、遥はあまりのことにポカン。


 品田は無邪気に、




   品 田 「うわっ、すっげー!」



 と状況を楽しんでいる状態。

 そんな中、秋山、窺うように遥を見やる。




   秋 山 「気に入ってくれたかな?」

     遥 「こんなすっごいお部屋……。いくら何でも悪いです」


   秋 山 「いや、いいのいいの」


     遥 「でも、このホテルってだけでもお金かかるのに……」


   秋 山 「いや、実は、いざって時のためのパニックルームは絶対譲れなくてさ」


       「で、付いてる部屋を探したら、こうなっちゃったわけ」


       「気兼ねしないで使ってくれると、ありがたいんだけどな」


     遥 「それは……」




 と遥、ためらったのち、思い切ったように答える。



     遥 「本当に、ありがとうございます」

       「じゃ、せっかくですから、ハルトに思いきりセレブ気分を楽しませてあげます」


   秋 山 「もちろん遥ちゃんも楽しんでね?」

       「ここんとこ色々あったんだから、リラックスしなきゃ」




 そして秋山、品田のほうを振り返る。



   秋 山 「君は楽しんでる場合じゃないよ?」



 部屋にあったオブジェをかぶってみたりしている品田、ごまかし笑い。



   品 田 「大丈夫っすよ! お任せください!」

   秋 山 「ったく……」




 秋山、溜息。

 ハルト、遥のほうに向き直る。




   ハルト 「ほてる?」

     遥 「そうだよ、ここ、ホテルって言うんだよ」


   ハルト 「ほてる、すっごいねぇ」


     遥 「すっごいねぇ」




 微笑み合いながら、ほのぼのしたやりとりを交わしている母子。

 ここで暗転。






○沖縄・隠れ家ホテル・廊下 (夜)

 遥の部屋を出てきた秋山。

 最高級ルームの利用者のためだけにある特別ラウンジ(今は無人)あたりまでやってくる。


 その時、4人の男に前後左右を囲まれて向こうから歩いてきたのは、田宮隆造。


 秋山、その田宮を見て、ギクリとする。


 ここで田宮の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「内閣総理大臣 田宮隆造」の表示。一時停止が解除。


 秋山、内心考える。




   秋山M (田宮総理だ)


       (そりゃそうだな、彼が宿泊するとしたらここだろう)


       (まさしく彼こそ、できうる限りの安全対策を取るべき人種なんだから)




 そこで秋山、なるべく素知らぬフリをして通り過ぎようとする。


 すると、そのすれ違いざまに声をかけられる。




   田 宮 「おまえさん、神室町の金貸しだな?」

   秋 山 「えっ!」




 秋山、驚いて立ち止まり、振り返る。

 それを田宮、少し先から、やはり振り返った体勢で見据えている。




   田 宮 「確か秋山とかいったな」

       「――桐生とは親交が深かったんだろう?」


   秋 山 「ええ、まあ……」


   田 宮 「俺も奴の生前に一度だけ会ったことがあってな」

       「今の世には珍しい男気と器量を持った男だった」


   秋 山 「ええ……」




 田宮の真意を量りかねて生返事していると、田宮、持ち前の仏頂面のまま言う。



   田 宮 「ちょうどいい」

       「おまえさんにも話しておいたほうが都合のいいことがあるんだ」


   秋 山 「俺に……ですか?」


   田 宮 「そう、おまえさんにだ」

       「今から部屋に来ないか?」


   秋 山 「えっ、今から?」

       「総理のお部屋に、ですか?」


   田 宮 「嫌なら構わん、ここでさよならだ」


       「そしておまえさんただひとり、今回の事件の蚊帳の外――」

       「ってことになるだけの話でな」




 秋山、田宮をじっと見たまましばし考えていたが、ようやく敵陣に乗り込む決意を固める。



   秋 山 「わかりました、伺いましょう」

   田 宮 「わかりが早くて結構だ」

       「じゃ、ついてこい」




 田宮、おそらくSPであろう4人の男に囲まれたまま、再度歩き出す。

 秋山、肩をすくめたのち、しかし警戒は解かないまま、その後についていく。


 そこで暗転。






○沖縄・隠れ家ホテル・田宮の部屋 (夜)

 田宮の部屋は、秋山が遥たちに取ったのより、さらに広々とゴージャスな部屋。




   秋 山 「さすが、田宮財閥と呼ばれる一族出身だけのことはありますね」

   田 宮 「ああ、大臣の給料程度でこんな部屋には泊まれん」


       「こんなとこに泊まってる政治家なんてのは……」

       「
よっぽど実家が金持ちか、嫁さんの実家が金持ちか」

       「でなきゃ相当悪さしてるかだ」


   秋 山 「あなたが1で良かったと心から思いますよ」


   田 宮 「1と3を兼ねてる場合もある――」

       「なんて憎まれ口を利かないあたり、なかなか紳士じゃないか」


   秋 山 「せっかく御招待にあずかったんですから、そのくらいの礼儀はね」


   田 宮 「フン」




 田宮、楽しげにニヤリとしたのち、向かう先の途中に立つ私設秘書らしき男に声をかける。



   田 宮 「もう来てるな?」

  私設秘書 「はい、会議室に」


   田 宮 「よし」




 秋山、少し怪訝そうにする。



   秋 山 「誰か来てるんですか?」

   田 宮 「ああ、今夜は千客万来だ」




 そして田宮、SP4人に告げる。



   田 宮 「もう構わん」

       「あっちで自由にしててくれ」




 SP4人、一礼してから、広間のソファーのほうへと引き上げていく。

 そうなってから田宮、秋山を見る。




   田 宮 「おまえさんはこっちだ」



 そうして歩き出したため、秋山、素直に田宮の後についていく。

 田宮、とあるドアの前まで来ると、3度のノックの後、返事を待たずにドアを開け、中に入る。


 秋山、一瞬の躊躇ののち、中へ入る。






○沖縄・隠れ家ホテル・田宮の部屋・会議室 (夜)

 入った室内は、本来はダイニングルームたる部屋。今は会議室としてしつらえられている。


 部屋の奥では、こちらに背を向けて立っている男が、窓の向こうを眺めている。


 秋山、その男の後ろ姿を見て、ハッとする。


 田宮、その男に声をかける。




   田 宮 「待たせたな」

       「客を連れてきたぞ」

       「きっとおまえさんも気に入るはずだ」




 その男、田宮の声に応えるように、ゆっくりとこちらを振り返る。


 秋山、後ろ姿を見た瞬間から予期はしていたものの、声が喉で絡まる。




   秋 山 「桐生……さん」



 振り返った東城、少し微笑む。



   東 城 「久しぶりだな、秋山」

   秋 山 「桐生さん!」


       「いや、そりゃ生きてるだろうとは思ってましたけど――」


       「でも、まさかこんな形で――」




 驚きのあまり、らしからぬテンパり様を見せる秋山。

 その秋山から田宮へと移された東城の視線は、問いかけるようなものになっている。


 しかし田宮、表情も変えずに答える。




   田 宮 「ついそこで偶然見かけたんで、声をかけたんだ」

       「この際、信用できる味方は一人でも多いほうがいいからな」


   東 城 「そうか」




 田宮、テーブル中央の席に座る。

 テーブルまでやってきた東城、田宮の斜め向かいの席に座る。


 田宮、秋山を見る。




   田 宮 「おまえさんも座ったらどうだ?」

       「会議室の椅子にしちゃ座り心地がいいぞ」




 ここまでずっと、未だ「信じられない」という表情のままだった秋山。

 やがてハアーッと溜息をつき、やや投げやりに言う。




   秋 山 「分かりましたよ、座りますよ」



 秋山、東城から1つ空けた隣の席(田宮の逆斜め向かい)に座る。


 すると田宮、テーブルの上で両手の指を組む。




   田 宮 「よし、それじゃ始めようじゃないか」

       「いま東城会で起こっている騒ぎについての――」


       「カンファレンス、ってやつをな」




 それにより3人、三者三様の思いを込めて、視線を交わし合う。

 ここで暗転。






○沖縄・隠れ家ホテル・田宮の部屋・会議室 (夜)

 ここまでで秋山、自身が知る事情のほとんどを話している。


 田宮は、譲二から連絡を受けて東城と会うことになった事情を話した。

 そして今、東城が「桐生一馬死亡以後」の事情を全て話した直後――という状態。




   田 宮 「まあ、そんなとこだろうとは思ってたよ」

       「あれはあまりにも不自然だった」


       「仮にも東城会の四代目だというのに、密葬も密葬」


       「東城会関係者どころか家族すら立ち会わず、刑事ひとりで骨上げしたと来る」


       「しかもその直後、譲二が裏で動いているらしいことは分かってたからな」


   秋 山 「しかし、まさか桐生さんが初代東城会会長の息子さんだったとは……」


   東 城 「秋山、その“桐生”ってのはよしてくれ」

       「俺はもう桐生じゃない」


       「それに……」

       「おまえがその名前で誰かに呼びかけてるのを他人に聞かれるのもマズい」


   秋 山 「分かりました」

       「でも――東城さんか」

       「こりゃ、慣れるのにしばらくかかるな……」




 秋山、後頭部を撫でてから、



   秋 山 「それにしても、今回の総理の極秘の沖縄入りがまさか、きり――」

       「東城さんと会うためだったとは思いも寄りませんでしたよ」


   田 宮 「いや、米軍基地絡みの用事が、実際にちっとばかりあったんでな」


       「なら、ついでにこっちで東城に会っておこうと思ったんだ」


       「そのほうが東京で会うより人目に付きにくいだろう?」


   秋 山 「そうですね……」




 ややガッカリしている秋山に、田宮は目ざとく気付いた様子。



   田 宮 「何だ? 何か問題でもあるのか?」

   秋 山 「いえ、実はさっき言った、夏目さんの拉致の件」


       「沖縄への移動を考えると、ジェット機しか方法がなかったんです」


       「だから、それが可能な時間帯に飛んだチャーター機を調べたら……」

       「あなたの1機だけだったんですよ」


       「だもんで、まさかとは思いつつ唯一の可能性として残してたんですが……」


       「こうなるとどうやら見当違いだなと分かっちゃいまして……」




 すると田宮と東城、視線を交わし合う。


 秋山、それに逸早く気付く。




   秋 山 「何です? 何かあるんですか?」

   田 宮 「……ここだけの話だぞ。いいな?」


   秋 山 「もちろんです」




 田宮、東城を見やったのち、秋山に説明。



   田 宮 「実は、ひょっとすると今回の事件の犯人グループ……」

       「そのメンバーが沖縄の米軍関係者かもしれないんだ」


   秋 山 「何ですって?」


   田 宮 「その夏目というのをわざわざ沖縄まで運んだことにしてもそうだ」


       「犯人グループか少なくともボスの活動拠点が、沖縄にあることを示している」


       「それに、真っ当な勤め人として生活している可能性が高いだろう?」


       「相当の資金力があっても自身で自由に動き回れないんだからな」


       「さらに言えば、軍関係者だとした場合、
犯人個人に資金力があるわけじゃなく……」

       「米軍の機材だの設備だのを拝借してる可能性もあるわけだ」


   秋 山 「そうか」

       「つまり、フライトプランが公開されない米軍機を使ったとすれば……」


       「夏目さんの沖縄移動にも説明がつく、ってことですね?」


   田 宮 「そうだ」




 それから田宮、事情を説明。



   田 宮 「今回の事件が起きてから、譲二は権限全てを使って状況を調べ上げた」

       「その際、那覇市内の防犯カメラの映像の中に見つけたんだ」


       「宇佐美ハルト誘拐実行犯の女が、軍人らしい立ち姿の男といるところをな」


       「で、その男の姿をさらに解析した」


       「その結果……」

       「かつてアメリカ陸軍工兵隊に所属していた元伍長だと判明したんだ」


   秋 山 「工兵隊ですか……」

       「なら、爆発物関係はお手の物だな」


   田 宮 「今は傭兵くずれらしいがな」




 と田宮、タブレットを秋山のほうへ差し出す。



   田 宮 「これがそのジョン・スミスだ」



 受け取った秋山が見たタブレット画面には、2枚の画像が映し出されている。

 1枚はニセ静子と喫茶店らしき場所で会っているスーツ&サングラス姿の男。

 もう1枚は証明写真らしきサングラスなしの顔。

 スミスは面長で、いかついながら引き締まった鼻と口元をしている。

 そして何より「横幅はあるが細い目」というのが、最も際立った特徴。



   秋 山 「ジョン・スミス……」

       「でも、完全にアジア人ですよね?」

   田 宮 「そう見えるな」

       「だが、本人に改名の記録はない」

       「生まれた時からジョン・スミスだそうだ」



 秋山、曰く言い難い表情になる。

 田宮、その秋山に話を続ける。




   田 宮 「譲二は、宇佐美ハルトを誘拐した犯人の車を防犯カメラに発見した」

       「だからむろん、カメラ映像のリレー方式で追跡しようとした」

       「だが、どうも犯人は、防犯カメラ等の位置を完全に把握していたらしい」

       「その上で、かいくぐったとしか思えんそうだ」

   秋 山 「……つまり、こういうことですね?」


       「犯人は軍の設備を使って、街の防犯カメラの類を自由に覗いてるのかもしれない」


       「で、主犯が現軍人なら、元軍人を手下に使いやすいだろう――と」


   田 宮 「そういうことだ」


       「そうなってみて譲二は、これは一筋縄では行かないと悟った」


       「そこで東城を日本に送り込んだ上で、俺に連絡してきたのさ」


       「今後、一人のCIA職員が日本国内で暴れ回る事態に発展するかもしれない」


       「もしそうなった時は、事後処理をよろしく頼む――とな」




 それで秋山、にやり。



   秋 山 「そりゃ、とんでもないお使いを頼まれちゃいましたね」

   田 宮 「全くだ。できればおとなしく立ち回ってほしいもんだが……」


       「名前が変わったところで、中身は変わりはしないだろうからな」




 田宮、目元にうっすら楽しげな笑みを浮かべ、東城を見ている。

 東城、話を本題に引き戻す。




   東 城 「だが、俺が昨晩こちらに着き、明けて今朝だ」

       「ハルトが無事にアサガオに戻ったという連絡があった」


       「それで、ひとまずやれやれと思っていたら……」

       「今度は大吾だ」


   秋 山 「はい」


   田 宮 「堂島の拉致があってから、譲二はその状況も調べ上げた」


       「しかし、何しろ空路と来てはな」


       「結局今のところ、どこへ連れ去られたかは全く不明だ」

       「ただし、ここで一つ、おかしな話がある」


       「堂島が拉致された一時間後だ」

       「助手席に堂島の乗った車の映像が、ある場所の防犯カメラで見つかったんだが……」

       「それが、神室町なんだ」


   秋 山 「神室町! ってことは……」


   田 宮 「むろん、堂島が神室町に連れ込まれた可能性もなくはない」


       「しかし今回の場合、犯人がわざとその車をカメラに映らせた可能性のほうが高い」


       「これまで慎重にカメラをかいくぐってきた連中だ」


       「そこにだけ映っているというのは……」

       「偶然としては奇妙だ」


   秋 山 「つまり犯人は、こちらの力量を心得た上で……」


       「わざと我々を神室町へおびき寄せてるってことですか」


   田 宮 「おそらくな」




 そこで東城、決然とした表情で言う。



   東 城 「俺は、これから神室町に向かうつもりだ」

   秋 山 「――えっ!?」

       「東城さん本人がですか!?」




 秋山、仰天。



   秋 山 「いや、いくら何でもそりゃ無茶でしょ」

       「神室町に一歩入ったところで、お祭り騒ぎになっちゃいますよ」


       「桐生さんが生きて戻ってきた! ってね」


   東 城 「心配するな」

       「ちゃんと変装の手立ては考えてある」


   秋 山 「変装!」

       「そうか、潜入捜査が基本のCIAなら、変装はお手の物ですよね」


   東 城 「まあな」




 ここで、いったん暗転。





○沖縄・隠れ家ホテル・田宮の部屋・会議室 (夜)

 東城の変装後。


 会議室内にて、東城の視界となっているカメラに向き合う形で、唖然としている秋山。

 田宮はいつもの仏頂面のまま。




   秋 山 「いや、あの、東城さん……」

       「そりゃ、完璧に正体は隠せてますけど……」


   東 城 「だろう?」


   秋 山 「でも、何て言うか、その……」

       「思ってたのとだいぶ違うって言うか……」




 そこで、カメラは客観的視点に立ち戻る。

 デスクの上に置かれている東城の右拳から胸へと、カメラのアングルは徐々に上がっていく。


 そうして大写しになった東城の顔は――覆面レスラーの覆面で覆われている。








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