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三章 夏目編 難局

三章 夏目編 難局 (1)



○(回想)夏目の過去のスライドショー

 ここで画面は、「ユーザーのための「夏目の過去」の説明映像だが、夏目の夢でもあるらしい映像」として、「4歳の夏目」「小2の夏目」「小5の夏目」「中2の夏目」のスライドショーとなる。

 そこに音声が乗る形。


 幼い頃から病的に無気力な夏目。




   母の声 「讓、お散歩行こか」


4歳夏目の声 「ううん」


   母の声 「讓、遊ぼ?」


4歳夏目の声 「いや」


   母の声 「讓、何か――」


4歳夏目の声 「何もしたくない」


       「何もしたくないの」




 就学してから1年後、小学校から下校後の自室で、制服のままボーッと座り込んでいる小2の夏目。

 その状態で内心考える。




 小2夏目M (……今は親が養ってくれるから生きてるけど……)

       (将来、自分で頑張ってまで生きてたいんかな……)




 この後、教室で仲間と集まっている輪の中にありながらも心ここにあらずっぽい「小5の夏目」と、無表情で自転車で下校中の「中2の夏目」の画像が差し込まれる。

 そしてここから、「高2の家族旅行前の光景」の回想ムービーになる。


 高2の夏前、家族がいるリビングにて、




高2夏目の声 「ハワイ? ……俺、ええわ」

   母の声 「(驚いて) えっ? 行けへんの? 家族旅行やで? みんな行くねんで?」


   父の声 「(笑いながら) まあまあ、しゃあない。家族と行動すんのが嫌な年頃や」


   母の声 「……ほんだら、最初の2日分ぐらいはごはん用意していくから、後は冷凍でいける?」


高2夏目の声 「うん」


   妹の声 「えーっ、お兄ちゃん行けへんの?」 (※12歳の設定)


   弟の声 「おみやげ、なにがいい?」 (※7歳の設定)




 夏目、心からの笑顔になる。



高2夏目の声 「ありがとう。何でもええよ」



 ここから「ヘリが墜落している事故現場の画像」「帰国した4つの棺」「部屋に引きこもる夏目」を説明する静止画像のスライドショーとなる。

 そこに夏目の声が乗る形。


 自室に閉じこもり、膝を抱えて座り込んでいる夏目、内心考える。




 高2夏目M (何でや。何で普通に生きてたかった皆のほうが死ぬんや)

       (俺なんかこんなんやねんから、俺のほうが死んだらよかったのに)


       (生きるために頑張んのなんか無理や)




 ここから再び回想のムービーとなり、「真島との初対面のシーン」になる。

 高3の夏目、ビルの屋上で、建物と建物の間の狭い空間を覗き込んでいる。


 (※真島組事務所が当時入っていたビル。後に「湯乃園」が入るビルの隣のビル。6階建てという設定)


 その背後遠くに現れ、声をかけたのは、真島。




  真島の声 「何しとるんや?」




 夏目、手すりに寄りかかったまま振り返り、




高3夏目の声 「……景色見てたんですよ」


  真島の声 「何言うとんねん。そっちに景色なんかあれへんで」




 そして今、あれからすでに長きに渡る会話があった後らしい――と思われる状態。

 真島、景色が見える側の欄干に両腕を乗せ、もたれかかっている。




  真島の声 「兄ちゃんがどうしても死にたいっちゅうんやったら、それは兄ちゃんの自由や、好きにしたらええ」

       「けど、“生きるために頑張んのがしんどい”ぐらいのことで死んだらアカン」




 そして真島、明るく言う。



  真島の声 「生きんのなんか、頑張らんでもええんやで?」

       「人間、メッチャおもろいこと見つけたら、頑張らんでも勝手に生きてられるもんや」


高3夏目の声 「……真島さんと一緒におったら、おもろそうですね」




 すると真島、ニンマリ。




  真島の声 「そら、おもろいでぇ」




 ここで回想ムービーは終了。






○敵のアジト・室内 (深夜)

 ガンガンガンと金属製のドアが殴り叩かれる連続音により、意識を取り戻す夏目。


 視界は天井。子供が大音声で泣いている声がしている。


 そこへ、カタコトの日本語で怒鳴るスーツ男Aの声が聞こえる。




 スーツ男A 「おい! おまえ! 起きろ!」



 夏目、怒鳴り声のほうに寝返りを打つ。

 すると金属製のドアの小窓(今は開いている)から、スーツ男Aが明らかなカタコトで怒鳴ってくる。




 スーツ男A 「起きろ! 子供泣くとめろ! 黙れ!」



 そこで夏目、泣き声のするほうを見やる。

 すると、ベッドの足元側の床にへたり込んで、身も世もなく泣き暮れているハルトがいる。




   夏 目 「ハルト君!?」



 夏目、半身起き上がったことで、自分がベッドに寝かされていたことを知る。

 その一瞬、クラッとしてふらつく夏目。打たれた薬のせいと考え、




   夏 目 「くそっ」



 と呟き、ふらつきを振り払うように頭を振ってから、ベッドを降りる。


 ハルトのほうへと近付いていくが、ハルトは泣きすぎて手が付けられない状態。




 スーツ男A 「黙れ! 静かに! やれ!」



 そこで夏目、訳が分からないままハルトをあやそうとする。



   夏 目 「ハルト、どないした? 大丈夫か?」



 ハルト、泣くばかり。




 スーツ男A 「早く! やれ!」


   夏 目 「どっか痛いんか? 怪我はしてへんみたいやけど……」




 ハルト、泣くばかり。




 スーツ男A 「うるさい! 黙れ!」

   夏 目 「ハルト、ハルト、おっちゃんの話聞いてくれへんか? ちょっとでええねん」




 ハルト、泣くばかり。




 スーツ男A 「早く! 静かに――」



 夏目、とうとうキレてドアに振り返り、怒鳴り返す。



   夏 目 「やかぁしやボケェ!! いったん泣いた子供がそないすぐ泣き止むかい!! 黙って見とけやカスが!!」




 するとスーツ男A、ピタッと黙る。

 ハルトも驚いたせいで、一瞬ピタッと泣き止む。


 そこで夏目、チャンス到来とばかりに、畳みかける勢いでハルトをなだめる。




   夏 目 「よっしゃよっしゃ、もう大丈夫やで、怖かったなぁ」




 そしてドアのほうを親指だけで指し、イヤそうな顔をして見せて、




   夏 目 「あの人、何やろなぁ、うるさいなぁ? おっちゃんが怒っといたったからな、もう泣かんでええで」




 ハルトの背を撫でてやり、肩をポンポンとすると、ハルトは泣きすぎの後引きでしゃくりあげるが、こっくり頷く。

 しばしヒックヒックは残っているものの、呼吸は落ち着いてゆく。


 それにより、金属製のドアの小窓が、向こうからガシャンと閉まる。


 夏目、ハルトを抱え上げてベッドに座らせてやってから、室内を見渡してみる。


 ビジネスホテルのシングルルームのようにしつらえられているが、妙に狭苦しい。


 今さらながら、自分とハルトが何の拘束もされていないことに気付く。


 ふと内ポケットなどを探ってから、ガッカリした様子で溜息をつく。




   夏 目 「サイフは置いといてくれんのかい。気前ええのぉ」



 金属製のドアに近付き、いちおうドアノブを持ってガチャガチャしたり揺すったりしてみるが、鍵がかかっているうえ頑丈なことが分かったのみ。

 もう1つのドアを開けてみると、中は狭いながらもユニットバスになっている。


 トイレの便器の正面には、何かの箱が置かれている。


 振り返ってハルトを見た夏目、尋ねてみる。




   夏 目 「ハルト、あれ、自分でトイレするために置いたんか?」

   ハルト 「……うん……」


   夏 目 「賢いなぁ! それに、もうトイレトレーニング済んでんねんな。さすが遥ちゃんやで」


   ハルト 「……おかあさん、しってるの?」


   夏 目 「うん、お母さんが子供ん時からな」


   ハルト 「だから、はる、しってるの?」




 その「はる」がハルト自身を指していると悟り、ベッドのほうに戻りながら頷く夏目。



   夏 目 「せやせや」



 ハルトの隣に座った夏目、いよいよこれまでのことを聞き出す。



   夏 目 「ハルト、ヘンなおばあちゃんとヘンなおっちゃんらにアサガオから連れていかれてもうてんやろ?」

   ハルト 「うん……」


   夏 目 「アサガオから連れていかれて、まずどないなったんや? どこ行った?」


   ハルト 「……くるまのった」


   夏 目 「ああ、そうか。ほんで?」


   ハルト 「……じゅーすくれた」


   夏 目 「ジュース? 車のおっちゃんがか?」


   ハルト 「うん。のめって」


   夏 目 「ほんで、どないした?」


   ハルト 「のんだ」


   夏 目 「うん、ほんで?」


   ハルト 「(少し考えたのち) ねた」


   夏 目 「……眠たなったんか?」


   ハルト 「うん」




 薬を盛られたなと悟る夏目。



   夏 目 「ほんで、起きた時はどうやった?」

   ハルト 「(少し考えたのち) ここ、いた」


   夏 目 「そうか……。1人でか?」


   ハルト 「うん……。おじさんくるまで、ひとり」


   夏 目 「そうか、そら寂しかったなぁ。よう頑張ったな」




 こっくり頷いたハルト、少しうるっとするが、首を左右にぶんぶんと振り、キッと唇を引き締めて、我慢。

 感心した夏目、内心考える。




   夏目M (えらい強い子やな。さすが遥ちゃんの子やで)



 夏目、ここに至り、やっと自己紹介。



   夏 目 「おっちゃんなぁ、夏目讓ってゆうねん」

       「おっちゃんはハルトのことハルトって呼ぶわ。せやからハルトはおっちゃんのこと、ユズルって呼び?」


   ハルト 「……ゆゆる……ゆゆ……ゆゆ……」




 ハルト、どうしても「ず」が難しいらしく、舌足らずで頑張っている。

 その愛らしさに、つい笑ってしまう夏目。




   夏 目 「いや、ええよ、“ゆゆ”でええ。ゆゆやったらゆえるか?」

   ハルト 「ゆゆ」




 ハルト、言ってみてから、こっくり頷く。

 その一連の仕種の愛らしさに、微笑む夏目。




   夏 目 「よっしゃよっしゃ」



 そして、本題の質問を再開。



   夏 目 「ここに来た後、あのおっちゃんら、ごはんとか飲みモンはちゃんとくれたか?」

   ハルト 「ごはんくれない……。ぱんとじゅーすくれた」


   夏 目 「ああ、そうか。ちゃんと食べたか?」




 ハルト、こっくり頷く。



   ハルト 「おいしかった」




 それで夏目、ちょっと笑ってしまう。



   夏 目 「そうか。そらよかったなぁ」



 ここで夏目、ゴミ箱をチェック。菓子パンの袋と、白いレジ袋と、ジュースのペットボトルが捨ててある。

 テーブルにまだある飲みさしのペットボトルを足すと、4回分ということになる。




   夏 目 「これ、どうやってくれた? あのおっちゃんが部屋に入ってきて、渡してくれたんか?」


   ハルト 「ううん。ふくろ、ぽとっておとすの」




 ドアのほうを指さしているハルトを見た夏目、推理を言ってみる。




   夏 目 「パンとジュースが入った白い袋を、あのちっちゃい窓から中に入れて落としよんのか?」

   ハルト 「ん」


   夏 目 「そっかぁ。――で、俺がここに来た後で、パンとジュースはもらったか?」


   ハルト 「ううん……」


   夏 目 「いつくれた?」


   ハルト 「……ゆゆくるまえ」


   夏 目 「どれぐらい前や?」




 するとハルト、困惑した様子。「どれぐらい前」かを表現しようがない様子。



   夏 目 「えっと、ほんだらな……ハルトがパンとジュースもらった後、俺はすぐ来たんか?」

       「それか、またおなか空いたぐらいになってから来たんか?」


   ハルト 「すぐじゃないよ。はる、ぱんたべて、じゅーすのんで、ねたの」


   夏 目 「ほんで、いつ起きた?」


   ハルト 「……いま」


   夏 目 「今? ほんだら、いま起きてすぐ、俺が来たんか?」


   ハルト 「ん」




 ハルト、金属製のドアを指さし、続ける。



   ハルト 「おおきいおと、がちゃんてして、おきたの。とびらあいて、おじさんとおじさん、ゆゆもってきたの」

       「はる……こわくて、ないちゃったの」


   夏 目 「ああ! それでさっき、泣いてもうてたんか」


   ハルト 「うん……」




 泣いちゃダメなのに……みたいなヘコんだテンションなので、夏目は慰めてやる。



   夏 目 「最初はちょっと泣いただけやろ? せやのに、どうせあのおっちゃんがギャーギャー言いよってんやろ?」

       「そら怖いからもっと泣いてまうで。しゃあないしゃあない、今日は特別や」


   ハルト 「うん……」




 その時、金属製のドアがガチャガチャいう音がし、驚いてそちらを見ると、何とドアが開く。


 夏目、ベッドから立ち上がる。


 部屋に入ってきたのは、銃を構えた男1人。 (「銃の男」と表記)


 サングラスもせず素顔を晒しているため、どことなく白人っぽさがあるアジア人男性だということが見て分かる。


 スーツ姿であり、その顔つきは知性的だが、今は邪悪なニヤニヤ笑いを浮かべている。


 背丈は夏目と同じくらい(181㎝)だが、体格はいかつい。


 その銃の男、英語で言う。




   銃の男 「Unfortunately, time’s up. (残念だが時間切れだ)」



 そこで夏目、英語で聞き返す。



   夏 目 「What do you mean by “time’s up” ? (時間切れってどういうことや?)」



 すると銃の男のニヤニヤ笑いが消え、その後は流暢な日本語で話し出す。




   銃の男 「ヤクザは馬鹿だから英語なんか分からないと思っていたがな」



 銃の男、夏目の真正面までやってくると、銃口が当たりそうな超至近距離で構える。


 そして夏目の額を狙い、発射――したところを真島譲りの素早さでよけた夏目。


 さらに撃とうとした銃の男の手首を蹴り、銃を落とさせ、それを部屋の隅まで蹴り飛ばす。


 ここで、「vs. 謎の男」の戦闘となる。






○敵のアジト・室内 (深夜)

 戦闘後。銃の男はぶちのめされ、気絶。


 夏目、転がっていた銃を拾い、ポケットに入れる。


 その後、ハルトを手招きし、駆け寄ってきたのを抱き上げると、間近で向き合って話す。




   夏 目 「よっしゃ、逃げるで。怖かったら目ぇつぶって見んようにしとき」

       「怖ぁて「わーっ」て言いたなるやろうけど、できるだけ我慢してな?」


       「声出したら「そこにおる!」って分かってまうからな」




 頷いたハルト、ひしと抱き付いてくる。


 そのハルトをしっかりと抱え直した夏目、いよいよ部屋から脱出。






○敵のアジト・室外 (深夜)

 廊下を出てすぐのところで、複数の敵が現れる。


 (※小窓の外にいたスーツ男Aのみがアジア人で、他はサングラスをしていても明らかに外国人)




 スーツ男A 「Hey ! Don’t let ’em get away ! (おい! 逃がすな!)」



 ここから「vs. 謎の武装集団」の戦闘となる。


 倒しても倒しても現れる敵とさんざん戦闘を繰り広げながら、一択しかないドアを抜け続け、外へと向かう。






○敵のアジト・機械室 (深夜)

 逃げる途中で機械室らしき区画に入り込むと、そこにはまだ起動していないがあからさまに爆発物らしきものがある。


 そこへ敵が駆け込んできて機関銃で撃ってきたため、夏目はハルトを抱えた状態で物陰に退避。


 それにより、流れ弾が何かの機械に当たる。


 そこへ駆け付けてきたホサカ、半ばパニック状態となり、撃った部下を殴り倒す。


 銃撃が唐突に止まったため、夏目、物陰から顔を覗かせ、様子を窺う。


 向こうの床には機関銃を持った敵が倒れており、ホサカがそれに向けて怒鳴り散らしている。




   ホサカ 「What do you think you’re doing ! You idiot ! (何のつもりだ! この馬鹿が!)」



 それを見た夏目、その隙にハルトを抱え直し、再び逃走。


 ドアを抜け、さらにドアを抜け、階段を駆け登り、やっと外へ。






○敵のアジト・外 (深夜)

 外へ出てみると、何とそこが大海原のど真ん中であり、ここが船上の甲板であることが分かる。


 しかも夜なので真っ暗。見渡せる三方が水平線という中(船の灯により、かろうじてそれだけ確認できる)、ギリで見えるように思われる一点の光を遠くに認める。


 が、それが陸地かどうかは分からない。


 夏目、絶望的な気分になる。




   夏 目 「「海があったら泳いだらええねん」て親父は言うてはったけど……」

       「泳ぐ言うても、夜やし……。くそっ、くそっ、くそっ……」




 ダイハードのジョン・マクレーンばりにグチグチつぶやきながら、目に留まった救命浮き輪を1つ確保。


 (※本来は掴まるためのもの。2歳児のハルトなら浮き輪的に使っても大きめ、お尻だけはまって浮くのにジャストサイズ)


 そして、なるべく緊迫感が伝わらないように心掛けつつも、つい緊張しながらハルトに言う。




   夏 目 「今からプールや。ちょっと泳がなあかんねん」

       「せやから……水ん中にぼちゃんて飛び込まなあかんねん」




 それでハルト、目を瞠る。




   夏 目 「でも、おっちゃんも一緒やから怖ないで」


       「おっちゃんが抱っこして飛び込むし、絶対ハルトのこと放せへん。約束する」


       「せやから――飛び込んでええか?」




 ハルト、夏目を見つめたのち、こくんと頷く。



   夏 目 「よっしゃ」

       「ほんだら、おっちゃんが「せーの」って言うたら――「ふんっ」って息止めてくれ」


       「おっちゃんがええって言うまで止めとくんやで」


       「できるか?」




 ハルト、力強くこっくり。


 夏目、ホッとした笑顔になる。




   夏 目 「えらい、さすがうみんちゅの子ぉや」



 夏目、ハルトの頭を撫でてから、船の端の手すりのないところまで行く。

 その時、ふと思い出した夏目、ポケットに入れていた銃を取り出すと、それを海に投げ落とす。


 (※その音で水面までの距離を感じさせる)


 そしていよいよ浮き輪のロープを握り、覚悟を決め――


 という時、背後から銃声。弾丸がすぐ脇をかすめて通り過ぎていったのが感覚で分かる。


 バッと振り返る夏目。


 いま銃を構えてこちらへ歩いてくる男しか敵の姿はないが、そのたった1人がバッキバキのデカマッチョ。


 そのデカマッチョ・ヒューズ(31)、ものすごく楽しげにニヤニヤしながら近付いてき、流暢な日本語で話しかけてくる。




  ヒューズ 「そんなに急いで行くことねえだろ? ちょいと出遅れたんだ、相手してくれよ」

   夏 目 「今でないとあかんか? 急いでんねや」


  ヒューズ 「なら、なおさら受けて立ったほうがいいだろうな。でなきゃどこまでも追ってくぜ」




 夏目、ハルトを下ろし、物陰のほうに押しやる。



   夏 目 「そこに隠れて待っといてくれ。すぐ済むからな」

   ハルト 「うん」




 ハルト、言われたとおり物陰に隠れる。それを確認した夏目、ヒューズのほうに振り返る。

 夏目、ハルトから距離を置くために、ヒューズへと向かって歩き出す。




   夏 目 「おまえ、そんな体してるくせに銃に頼んのか?」


  ヒューズ 「ん? (銃を見て) ああ、これか?」


       「これはおまえを呼び止めるために使っただけだ。気に入らねえか?」


   夏 目 「気に入った奴、今までにおったんか?」


  ヒューズ 「もっともだ。じゃ、こうしよう」




 ヒューズ、構えていた銃をただの物として掴むと、思いっきり振りかぶって海へと投げる。

 しばらくしてポチャンという音。夏目、唖然として棒立ち。


 ヒューズ、にっこりして両手を広げて見せながら近付いてき、夏目のすぐ正面に立つ。




  ヒューズ 「どうだ? これでいいか?」

   夏 目 「……おまえ、アホなんか?」




 ヒューズ、ニンマリする。



  ヒューズ 「よく言われる」

   夏 目 「せやろな」


  ヒューズ 「「油断したぜ」ともな」




 ヒューズ、言うなり殴りかかってくる。

 それをよけたところから、「vs. 巨漢の白人」の戦闘となる。 (※ものすごく強い設定)






○敵のアジト・外 (深夜)

 戦闘後。




  ヒューズ 「……やるな……」




 と呟き、ヒューズは気絶。


 夏目、ハルトの許へと駆け戻り、抱き上げる。


 そして再び湧いてきた緊張感を押し殺しながら、ハルトに言う。




   夏 目 「よっしゃ。ほな行くで。「せーの」で息止めんねんで?」

   ハルト 「うん」




 夏目、改めて船の端の手すりのないところまでやってくる。

 浮き輪のロープを拾ってから、ハルトのために声をかける。




   夏 目 「行くでー、せーの」



 のタイミングで、夏目は浮き輪のロープの端を握っている手で、浮き輪を海に投げ込む。

 (※浮き輪の浮力を考えると、手に抱えて飛び込むのは危ないはず……という考えから)


 それからすぐ、ハルトを抱きかかえた状態で足から落ちるように海に飛び込む。






〇海中 (深夜)

 海中に落ち込んできた夏目とハルト。


 一定の深さまで沈み込んだのち、夏目は海中にて早く浮かび上がろうと懸命になる。


 ハルトは目をギュッとつむった状態で、ただただ夏目にしがみついている。


 夏目は片手でハルトを抱え、もう片手で水を掻き、何とか海面を目指す。






○海 (深夜)

 夏目とハルト、海面上に浮かび上がる。


 船からは、不穏な轟音が聞こえ始めている。




   夏 目 「ハルト! もうええで! 大丈夫か?」


   ハルト 「うん!」


   夏 目 「よっしゃ」




 ハルトの頭を撫で、ハルトに浮き輪をはめさせる夏目。




   夏 目 「ほんだら泳ぐで~~」



 できるだけ明るい調子で言ってから、さっきの「一点の光」の方向へ、とにかくがむしゃらに水を蹴り、片手で水を掻く。

 (※もう片方の手で、ハルトの浮き輪を押している状態)


 船からの轟音は、刻々と甚だしくなっていく。






○敵のアジト・機械室 (深夜)

 機械室の、撃たれてしまった機械の大写し。見るからに不穏な状態。


 そこからさらに見た目にも分かるほどの異常をきたしたのち、いよいよ――






○海 (深夜)

 夏目とハルトの背後で、船が大爆発。


 夏目、驚いて振り返る。


 その直後、爆炎や吹き飛んできた破片から守るため、ハルトにできる限り覆いかぶさるようにして庇う夏目。


 幸い爆炎はここまで届かず、飛んできた致命的なサイズの破片などには全く当たらずに済む。(※周囲には飛んできている)


 爆発がいったん落ち着いた頃。船からはごうごうと燃えている音はするが、人の声が全くしない。


 どうやら敵方は船もろともに全滅したらしい――となり、夏目は呆然。




   ハルト 「ゆゆ……だいじょうぶ?」




 不安げにそう言われ、笑顔を作らざるを得なくなる夏目。




   夏 目 「大丈夫や。ほな、家に帰るで~~、出発進行や~~」


   ハルト 「うん! しゅっぱつしんこー」




 夏目、両手をハルトの浮き輪の後ろにかける。

 一度ブルッと顔を振って気を取り直してから、「一点の光」を再び目指し、水を蹴り始める。


 そして長い暗転。






三章 夏目編 難局 (2)



○海 (明け方)

 ほんの少し明るくなってきた海上。


 ハルト、座るようにしてお尻だけ浮き輪にはまった状態で眠っている。(※低体温症を防ぐため、途中でこうさせた設定)


 夏目、浮き輪のサイドに両手をかけてビート板的に使い、足で水を蹴って進んでいる。


 だんだん周囲が明るくなってきたことで、夏目、すぐ目の前に陸が迫っていることにやっと気付く。


 (※なお、ここではアサガオが嘉手納基地近くと想定してあるため、「一点の光」は残波岬灯台としてある)


 さらに進んでみると、見えてきたのは広がる浜辺。


 夏目、内心で考える。




   夏目M (見たことあるような気ぃすんのは……)

       (……死ぬ前に脳が見せてくれる希望っちゅうやつかな……)


       (何やったら陸自体、幻かも……)




 そう考えながらも、惰性でそちらへ進んでいく夏目。





○浜辺 (早朝)

 とうとう浜辺に辿り着いた夏目。


 ハルトから浮き輪を外し、片腕と自分の体でハルトを抱きかかえる。


 もう片方の手には浮き輪を持って、浜辺へ上がる。


 重い足を引きずり引きずりして、波が来ないところまで数メートル進む。


 その途中、浮き輪をその辺に放り出す。


 ハルトを浜辺にそっと寝かせた夏目、ハルトの隣にうつぶせる形でばったり倒れ込む。


 そこからカメラが夏目の足元側へと回り、引き、角度が変わることで、そこがアサガオ前のビーチであることが分かる。






○沖縄・アサガオ前ビーチ (早朝)

 夏目が倒れ込んだ、まさに直後。


 品田、あくびをしながら、浜辺へ散歩にやってくる。




   品 田 「こんな時じゃなきゃ、みーちゃんと一緒に歩きたかったな……」



 と独り言を言いながらビーチまでやってくる。

 そこで、やっと夏目とハルトに気付く。




   品 田 「えっ!? 人!? てか子供!? ――えっ、夏目さん!?」



 とテンパった品田、その場に駆け付け、



   品 田 「ハルト君!?」



 とハルトを抱き上げると、



   品 田 「ちょっと!! 誰か来て!! 人が倒れてるよ!! ハルト君と夏目さん!! マジで何で!?」



 と騒ぎまくりながらアサガオへと駆け戻っていく。

 そこで暗転。








○沖縄・アサガオの一室

 もやもやしている視界のところに、にぎやかな子供たちの声がする。 (※本日は土曜)


 途端、それを制止する声が響く。




   綾 子 「静かに! 起きちゃうよ!」




 その「起きる」というワードに反応し、夏目、ガバッと起き上がる。

 夏目、敷布団に寝かされている状態。


 夏目から見てその右脇にいるのは庄司。左脇にいるのは宇佐美。


T「19日前  2017年12月9日 14:45」


 びっくり顔の宇佐美、ぽつり。




   宇佐美 「あっ、起きた。――じゃねえや、ありがとうございました!」



 と、慌ててあぐらを直してきっちり座り、へいつくばるようにして御辞儀。

 それにより夏目、いろいろ繋がる。




   夏 目 「そうか、やっぱりアサガオのビーチやったんか……。ハルトは無事やねんな?」

   宇佐美 「はい、おかげさまで! ――遥! 遥! 目ぇ覚ましたよ!」




 宇佐美が廊下のきわまでにじり出て叫ぶと、すぐに飛んできたのは遥。その後ろを追ってくるのはハルト。


 部屋に入ってきたハルト、夏目を見て笑顔になり、




   ハルト 「ゆゆ! おはよぉ!」



 と駆け寄ってくる。そのハルトを抱きとめてやり、夏目は心からホッとした顔になる。

 (※ここで一瞬、部屋の外の廊下に、子供たちが集まって興味津々の様子で覗き込んでいるのが映る)




     遥 「夏目さん! 本当に本当に、ありがとうございました!」



 遥、正座で座り込み、額を床に付かんばかりに頭を下げる。

 夏目、それに目の当たりにし、恐縮しきりで声をかける。




   夏 目 「いや、ええねんええねん、ちゃんと無事に連れてこれてよかった」

       「怖い思いさせてもうて悪かったけどな。――ごめんやで、ハルト」




 するとハルト、笑顔を向ける。



   ハルト 「こわかったけど、おもしろかったよ」

   夏 目 「そうかぁ。自分、将来は大物になるで」




 夏目、正面に立たせたハルトの頭を撫でながら、庄司に尋ねる。




   夏 目 「おまえも無事やったんやな」

   庄 司 「はい。――何もできず、申し訳ありませんでした」


   夏 目 「動くな言うたんは俺や。肩は大丈夫なんか?」


   庄 司 「はい。かすり傷ですから」


   夏 目 「そうか。よかった」




 そして夏目、さらに質問。



   夏 目 「おまえがここにおるっちゅうことは……もう真島組にも本家にも連絡行ってんねんな?」

   庄 司 「はい。兄貴とハルト君が無事にアサガオにいる――」


       「そう品田さんから六代目に連絡があって、そこから真島組に連絡があったんです」


       「それですぐに飛んできました。2時間ほど前に着いたばかりです」






○アサガオ・外

 ここで、アサガオの外をぐるりと取り囲む形で警備している真島組の若衆たちの光景の映像となる。そこへ庄司の声が乗る形。




 庄司の声 「今はうちがここを警備してます」


      「それまではずっと、六代目が沖縄に持ってる組織が警備してくれてたそうで」






○沖縄・アサガオの一室

 戻って、居間。


 夏目、庄司を見て言う。




   夏 目 「そうか。――ありがとうな」


   庄 司 「いえ。御無事で何よりでした」


   夏 目 「うん」




 それから少し間があってから、庄司は思い詰めた口調で言う。



   庄 司 「もし兄貴に何かあったら――腹を切るつもりでした」



 夏目、きょとん。



   夏 目 「腹切ったらあかんやろ。絶対痛いで?」



 それにより庄司、困ったような笑みを浮かべる。

 その時、あることを思い付いた夏目。




   夏 目 「せや! 庄司、ちょうスマホ貸してくれ。俺のん、取られてもうてん」

   庄 司 「はい」




 と即座にスマホを取り出した庄司に対し、



   夏 目 「っちゅうかな……親父にかけてくれるか?」

       「ほんで、もし俺と喋ってくれそうやったら、上手いこと替わってくれへん?」




 まだ面会謝絶中だが、無事の報告ぶって何とか会話を持ちたい――という夏目の魂胆に、笑いを禁じ得ない庄司。



   庄 司 「分かりました、かけます」



 そして真島へ電話。

 (※以降、セリフの間を取る参考として、真島のセリフも括弧つきで表記。音声はナシ)




  (真 島 『おう、どないや?』)

   庄 司 「はい、いま目が覚めました」


  (真 島 『そうか! 元気なんか?』)


   庄 司 「はい、元気です」


  (真 島 『よっしゃ! ほな――どないしよかな』)


   庄 司 「直接話しますよね? 替わりますよ」




 そうしてスマホを差し出された夏目、つい叫ぶ。



   夏 目 「まあまあ雑なバトンやな!」

   庄 司 「(悪びれない笑顔で) 
すいません」

   夏 目 「この流れで怒られんのイヤやで……」




 と夏目、恐る恐るスマホに出る。



   夏 目 「あのー、親父?」





○真島ビル・組長室

 組長室のソファーでふんぞり返っている真島、満面笑顔でテンションアゲアゲ。




   真 島 「夏目か!? 元気らしいのう!?」

  夏目の声 「は、はい、元気です」


   真 島 「いや~~、ようやったで! さすが夏目や、えらい!」


  夏目の声 「ありがとうございます!」


   真 島 「そこまで頑張ったんやったら、もうしゃあない。許したろ」


  夏目の声 「ありがとうございます!!」


   真 島 「ああ、せや、ワシもメッチャ元気やったでぇ~~」


       「左目が見えへんこと以外なーんも問題ない、完璧な健康体やて太鼓判押されてん」


  夏目の声 「そうですか! よかったです~~」


   真 島 「ま、おまえはしばらく沖縄でのんびりしてこいや」


       「ただし、帰ってくる時は土産忘れたらアカンでぇ?」


  夏目の声 「はい! 絶対買って帰ります!」


   真 島 「ほなな」


  夏目の声 「はい! 失礼します!」




 そこまでで真島、通話を切る。

 そして、それまでのテンションアゲアゲではなく、落ち着いた表情になってから、優しく満足げに少しニッとする。






○沖縄・アサガオの一室

 一方の夏目、通話を切ったところ。腹の底から絞り出すような声で、




   夏 目 「あ~~、緊張したぁ~~」



 と言い、脱力しながらスマホを庄司に返すと、後ろにパタンと倒れ込む。



   ハルト 「ゆゆ、だいじょうぶ?」

   夏 目 「うん、大丈夫やで~~」




 その夏目の反応を目の当たりにした宇佐美、庄司に質問。



   宇佐美 「……組長さんに電話する時って、いつもこんな感じなんすか?」

   庄 司 「いえ、今回は特別です」


   宇佐美 「あ、そうなんだ、びっくりした……」


       「やっぱ天下の真島組組長だから、ナンバー2でもこんな感じになるのか――って思っちゃいましたよ」


     遥 「庄司さんは普通に話してたじゃない」


   宇佐美 「あ、そっか……」




 その時、ボーッと天井を見上げていた夏目、独り言のように呟く。



   夏 目 「それにしても、ようちょうどアサガオの真ん前に流れ着いたもんやで……」

       「今さらながら自分の強運にビビるわ」


     遥 「あそこ、たまに人が流れ着くんですよ」


   夏 目 「……御遺体?」


     遥 「いえ、みなさん生きてました。そうだ、冴島さんも流れ着いたことありますよ」


   夏 目 「冴島の叔父貴も!?」




 すると、宇佐美が言う。



   宇佐美 「ま、俺もここには流れ着いたようなもんですしね」

   夏 目 「せやったなぁ。でもまあ、流れ着く先としては最高やで」




 それでみんな、にっこり。

 そこへ、秋山と品田が駆け込んでくる。




   秋 山 「夏目さん! よかった!」

   品 田 「ホントよかったです! ビーチで見つけた時はびっくりしましたよ!」




 そのため夏目、起き上がる。




   夏 目 「品田さんが見つけてくれはったんですか! ありがとうございました」

   品 田 「いえいえ、ホントに偶然だったんで」




 夏目が頭を下げ、品田も恐縮して頭を下げ――という応酬をじっと見ていたハルト、夏目の隣に座り込み、自分も頭を下げてみる。

 その愛らしさを目の当たりにした宇佐美と遥、つい吹き出す。


 それで皆もハルトを見、笑い出す。


 和やかな笑いの中心となったハルト、つられて笑顔になる。


 ここで暗転。








○沖縄・アサガオの一室

 ひとまず場が落ち着いた――というところであるらしい状況で、秋山が事件の説明を始める。




   秋 山 「実は、夏目さんが拉致された後、東城会本家にメールでメッセージが届いたんです」

   夏 目 「メッセージ?」


   秋 山 「午前0時までに二代目白峯会の会長を殺し、神室町ヒルズに死体を吊るして晒せ」


       「さもなければ真島組の若頭を殺す――そんなメッセージです」


   夏 目 「ああ! そうか、それでか……」


   庄 司 「何です?」


   夏 目 「いや、監禁された部屋で目ぇ覚めて、まだ10分も経ってへんぞっちゅう時にな」


       「銃構えた奴が「時間切れだ」っちゅうて入ってきて、普通に撃ちよってん」


   宇佐美 「撃ったんすか!? えっ、撃たれたんすか!?」


   夏 目 「いや、よけた」


   宇佐美 「よけたんすか!? つうか、よけれるもんなんすか!?」


   夏 目 「人間、いざとなったら何とかなるもんやで」


   宇佐美 「いや、普通は無理でしょ……」




 唖然としている宇佐美を放置し、夏目は話を続ける。




   夏 目 「つまり、あん時が夜中の0時やったっちゅうことやろう」

   庄 司 「それで……よけてからどうなったんですか?」


   夏 目 「そいつを叩きのめした後、ハルト連れて部屋から逃げ出してん。一緒の部屋に監禁されてたからな」


   庄 司 「ああ、それでハルト君と一緒だったんですね」


   夏 目 「せや。ほんで逃げて逃げて、やっと建物の外に出たと思ったら――周りが海やってん」


       「そん時初めて、自分が船の上におるて知ってん」


   庄 司 「それで……どうしたんですか?」


   夏 目 「しゃあないから、浮き輪持って海に飛び込んでん」




 夏目、遥のほうを見、



   夏 目 「ハルトすごいな、ちゃんと息とめれやったで」

     遥 「ハルトは勇太としょっちゅう海で遊んでますから。――ね、ハルト?」


   ハルト 「うん!」




 超得意げなハルトの笑顔に、その場は一瞬ほっこり。

 その後、庄司が話を戻す。




   庄 司 「海に飛び込んだ後、見つかったり追われたりせずに済んだんですか?」

   夏 目 「ああ、実は向こうな……」


       「俺らを追い回してる最中に、撃ったらあかん機械を撃ってまいよったらしいねん」


       「しかも、もともと爆弾っぽいもんも船に積んであってな」


       「せやから、俺らが海に飛び込んでからすぐ、船、爆発してん」


   みんな 「爆発!?」


     遥 「――あっ、それでハルト、「ドーンってなった」って言ってたんだ!」


   夏 目 「うん、ドーンってなってん」




 夏目、ハルトに向け、




   夏 目 「なー?」

   ハルト 「うん!」


   秋 山 「――あっ、だからか! 昨日の夜中のドンって音!」


   品 田 「ああ! 花火か何かかなって秋山さん言ってましたね!」




 そこで秋山、決断した様子。



   秋 山 「じゃ、警察を呼びますか。もともと、夏目さんの意識が戻ったら連絡くれって言われてるんです」

       「今の事情を夏目さんの口から話せば、その爆発した船を捜索してもらえるでしょう」


       「いや、ひょっとしたら、もう見つかって捜査中かも……」


   品 田 「なら、警察に協力すれば、そこから手掛かり掴めるかもしれませんね」




 秋山、スマホを操作しながら立ち上がり、やや部屋の隅にはける。


 庄司、話を戻す。




   庄 司 「それで……その後はどうしたんですか?」

   夏 目 「低体温症が怖いから、ずっと泳いでた」


       「ほんで日ぃ出て明るなりだしたら、すぐそこに陸あんのが見えてな」


       「それで浜まで上がってきて、ハルト寝かして、力尽きてん」




 そこで遥、ハルトに改まった調子で話しかける。



     遥 「ハルト、お礼言お? 助けてくれてありがとって」

   ハルト 「ん」




 ハルト、夏目のほうに向き直り、



   ハルト 「ゆゆ、ありがと」



 と、ぺこりと頭を下げる。

 夏目、にっこり。




   夏 目 「礼なんかええねんで。俺らは一緒に死地を切り抜けたバディーやからな」

   ハルト 「ばでぃー?」


   夏 目 「仲間っちゅうこっちゃ。一緒に頑張って船から逃げた仲間やろ?」


   ハルト 「うん! なかま」


   夏 目 「せやで。ハルトはほんまよう頑張った。えらかったで」




 夏目に頭を撫でられたハルト、得意満面。

 ここで長い暗転。








○沖縄・アサガオの玄関

T「19日前  2017年12月9日 15:32」


 アサガオから帰っていく刑事2人と、それを玄関口で見送る遥、ハルト、宇佐美。






○沖縄・アサガオの門の外

 刑事2人、アサガオの門を出る。


 その途端、アサガオを取り囲んでいる真島組若衆(三次団体からの選抜者たち)の視線がそちらへ集中。


 その若衆たちのうち、最も門に近いところにいるのは南大作(真島組本家の兵隊トップ)。


 ここで南の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組 若衆 南 大作」の表示。一時停止が解除。


 南、ピシッとまっすぐに立ったのち、




     南 「お疲れ様です!!」




 と大音声。

 その一瞬後、南およびその場の若衆全員が、一斉に極道式の御辞儀をする。


 刑事2人、目を白黒させて棒立ち。






○沖縄・アサガオの居間

 一方、アサガオの居間には、品田・秋山・庄司がいる中、新しいスーツ(見た目は同じ)に着替えた夏目もいる。


 そこへ、遥とハルトと宇佐美が玄関から戻ってくる。




   夏 目 「それにしても警察の人ら、ヘンな顔してましたねぇ」

       「拉致されたとこからアサガオ到着まで、完璧に正直に話したのに……」


       「ほとんど信じてへんかったんちゃいますか」


   秋 山 「ま、普通は信じられないような話ですからね」


       「それに、沖縄県警はハルト君の件をずっと単なる営利誘拐だと思ってたんですよ?」


       「いつ身代金要求の電話が来るかと待ってたとこだったんですから」


   夏 目 「そこにヤクザがハルト連れて流れ着いたら、そらヘンですね。そらそうか……」



 秋山、ここから状況説明を始める。




   秋 山 「今朝、夏目さんがアサガオに流れ着いた
となるまで、真島組は公には夏目さんの拉致を認めてなかったんです」

       「でも、警視庁ではずっとその見込みで情況を窺ってました」


       「そりゃそうですよ、夏目さんの車が狙撃され、運転手の庄司くんが撃たれ……」


       「それで夏目さんの所在が確認できないのに、「留守だ」で納得する警察はありません」


       「で、夏目さんが見つかってからやっと真島組が拉致を認め――」


       「そこへさっき夏目さんが、「ハルト君と同じ船に監禁されてた」なんて証言をしたわけです」


       「こうなると沖縄県警も、ハルト君の件を単なる営利誘拐じゃないと軌道修正することになるでしょう」


       「ただし、例の東城会への身代金要求と夏目さんの時のメールを警察には秘密にしてますから、警察がこの先どう動くかは分かりません」


       「一体どんな解釈やストーリーを押し付けてくるか……」


       「最悪の場合、東城会本家が誘拐の犯人で、真島組の夏目さんは正義感からハルト君を連れ出した裏切り者――」


       「なんて構図にされる可能性もありますよ」




 夏目、溜息。 (※基本、「ヤクザ」というだけで信用がないことは知っているので)


 それから気を取り直すように、庄司に質問。




   夏 目 「ほんで……」


       「その俺ん時のメールっちゅうのが東城会に着いた後、白峯会はどう動いたんや?」


   庄 司 「槇会長の身辺警護を強化したようです」


       「下の者が勝手に、六代目が槇会長を殺すかもしれないと警戒したらしくて」


   夏 目 「そっか。……それにしても、おかしいよなぁ……」


   庄 司 「何がですか?」


   夏 目 「いや、だって、何で俺と槇会長が天秤にかけられんねや?」


       「槇会長、直系組長で、東城会の若頭補佐筆頭やねんで? 俺、二次の若頭にしか過ぎひんねんで?」


       「どう考えても釣り合い取れへんやろ」


   庄 司 「親父は、メールのメッセージはただの目くらましだろうと言ってました」


       「指示どおりに槇会長を吊るそうが吊るすまいが、どうせ兄貴のことは殺すつもりだろうと」


   夏 目 「それは分かってんねん」


       「俺が不思議なんは、何で目くらましに、敢えて釣り合いの取れてへん槇会長が選ばれたか、や」


   庄 司 「犯人は東城会が混乱しさえすれば、何でもいいんじゃないですか?」


       「実際、緊急幹部会の直後、白峯会と矢部組長との間で一悶着あったそうです」


   夏 目 「……俺がおらん間にも日常は続いてんねんな……。まあまあ切ないで」




 そこへ、秋山が割り込む。



   秋 山 「あと、俺がずっと引っかかってるのは、なぜ沖縄かってことなんです」

   夏 目 「……どういうことですか?」


   秋 山 「いくらここのビーチがいろいろ流れ着くとしてもですよ」


       「まさか、本土近くの海からこんなに早く流れてくるわけないでしょ?」


       「ってことは、夏目さんたちが監禁されていた船は間違いなく、沖縄の近海にいたわけです」


   夏 目 「なるほど、そらそうですね」


   秋 山 「しかし、時間的に不可能なんですよ」


       「本土の港で夏目さんを乗船させてから沖縄までやってくるのはね」


       「となると犯人は、わざわざ夏目さんを飛行機に乗せてまで沖縄へ連れてきた」


       「その上で、船に乗せたんです」




 夏目たち全員が秋山の示す奇妙さを認識するのを確認してから、秋山は続ける。




   秋 山 「なぜそこまで沖縄にこだわるのか……」


       「ま、単純に考えると、犯人の生活基盤が沖縄にあるから――ってことなんでしょうけど」


       「ただ、ある筋からの情報によると、今回の犯人は沖縄の人間じゃない」


       「それどころか、沖縄の人間との関わりさえないんじゃないか
ってことなんで、そこで推理が行き詰まっちゃってんです」



 そこで夏目、少し改まって言う。




   夏 目 「実は、俺を撃とうとした奴、30歳ぐらいのアジア人やったんですけど……微妙に白人ぽかったんです」


   みんな 「えっ?」


   秋 山 「それって、つまり……ミクスドってことですか?」


   夏 目 「多分そうです」


       「顔立ちは完全にアジア人やのに雰囲気がどことなく……っちゅう方向性の白人ぽさでしたから」


       「それに……途中から日本語喋り出しましたけど、最初は英語喋ってましたし」


   秋 山 「まあ、沖縄は米軍基地が多いですからね」


       「日本人と軍関係者のアメリカ人との間に生まれて、ずっと基地暮らし――なんて人もいるかもしれませんけど」


       「それに、日本の米軍基地だから、日系の軍人が配属されることもあるんでしょうけど……」




 と秋山、しばし考え込んだのち、



   秋 山 「いや、でもまさか、犯人が軍関係者なわけないですよねぇ」

   夏 目 「それと、十数人おった敵方のほぼ全員、アジア人ちゃいました」


       「1人だけアジア系っぽい奴も、日本語がカタコト発音やったんです」


   秋 山 「うーん……」


   夏 目 「あと俺、スタンガンで拉致られた後、静脈注射されて寝てもうたんですよ」


   秋 山 「えっ!」


   夏 目 「そん時、KGBみたいやなって思たんです。日本のヤクザのやり方ちゃうなと」


       「でもまあ、アメリカの軍隊のやり方でもないっぽいですけどね」


   秋 山 「うーん……」




 秋山、再度しばし考え込んだのち、後頭部を撫でる。



   秋 山 「いま出揃ってるピースだけだと支離滅裂で、訳分かんないな」



 そして報告。



   秋 山 「実は、夏目さんを飛行機移動させてるってことはジェット機を使ったはずだと思って、花ちゃんに調べてもらったんです」

       「昨日その時間帯に東京-沖縄間を渡ったチャーター機がなかったかどうか」


       「そしたらさっき、1機しかなかったって報告があって……」


   夏 目 「ほんだらそれが犯人ですやんか!」


   秋 山 「いや、ところが、その借り主ってのがですね……」




 と後頭部を撫でる秋山を、夏目は急かす。




   夏 目 「誰なんですか? もったいぶらんといてくださいよ」

   秋 山 「田宮総理だったんです」




 そのため皆、びっくり。



   みんな 「田宮総理!?」



 ハルトのみ、驚いたようにキョロキョロみんなを見回している。


 夏目、みんなを代表する形で追及。




   夏 目 「田宮総理ってあの、総理大臣の? 元防衛大臣の? 田宮総理ですか?」

   秋 山 「そう、その田宮総理です。昨晩、急遽極秘で沖縄入りしたらしくて」






○8年前のスライドショー

 ここで、画面は「8年前の「龍が如く3」の際の田宮の画像」「田宮が桐生&伊達と話す様子」の静止画像のスライドショーとなる。

 そこに夏目の内心の声が乗る形。




   夏目M (田宮総理は8年前の事件の時に、四代目と協力関係にあった人や)

       (その人のチャーター機しか、俺が沖縄に移動する手段がなかったっちゅうのは……)




 そこでスライドショーは終了。





○沖縄・アサガオの居間

 戻って、アサガオの居間。


 訳が分からず、困惑の態で黙り込む夏目。


 ここで長い暗転。








〇東京・高速道路

 高速道路を走行中の大吾のリムジンが映し出される。






○東京・高速道路・大吾のリムジン内

T「19日前  2017年12月9日 15:45」


 大吾、リムジンの車中にて、スマホで通話中。ホッとした笑顔を浮かべている。


 (※以降、セリフの間を取る参考として、真島のセリフも括弧つきで表記。音声はナシ)




   大 吾 「そうですか、本当によかった」

  (真 島 『ま、そういうこっちゃ。ほなな』)


   大 吾 「はい。どうぞ「よくやってくれました」とお伝えください」


  (真 島 『おう、わかった』)


   大 吾 「じゃ、失礼」




 通話を終えた大吾、向かいの席の秘書と護衛2人(3人とも本家の若衆)に報告。



   大 吾 「夏目さんが目を覚ましたそうだ。何の問題もなく元気らしい」


   秘 書 「そうですか! よかったですね」


   大 吾 「ああ。――子供を連れた状態で7時間近く夜の海を泳いで、自力で陸に辿り着いたそうだ」


   秘 書 「それは……。さすが真島組ですね」


   大 吾 「(微笑み) 本当にな」






〇東京・高速道路・上空

 高速道路を走行中の大吾のリムジンを、真上から見下ろしているカメラアングル。


 そのアングルからカメラがさらに上空へと引き上げていくと、そのカメラとリムジンの間に、
後方からヘリがぬっと姿を現す。





〇東京・高速道路・上空・ヘリ内部

 軍用ヘリらしき内部には、似つかわしくないスーツ&サングラス姿の男たちが4人いる。


 そのうちの1人が、ホサカ。

 最も格下らしき1人、ヘリの扉を大きく開く。


 するとホサカ、そちらへと向かい、それによりホサカが対物ライフルを構えていることが分かる。


 ホサカ、真下のリムジンのボンネットに向け、対物ライフルを構え、狙いを定める。


 そして指のかかったトリガーが大映しになり――






〇東京・高速道路

 (※カメラは、大吾のリムジンを後方から撮っている視点となる)


 リムジン、対物ライフルでボンネットを撃ち抜かれ、勢いよく真上へ跳ね上がる。






〇東京・高速道路・大吾のリムジン内

 リムジン内では、極限状態の中、大吾はなるだけ頭を下げ前かがみ(飛行機の不時着時の姿勢)になろうとしている。




   大 吾 「かがめ! 前にかがむんだ!」




 その大吾の指示により、秘書や護衛2人が何とかそうしようとする様子が一瞬映る。





〇東京・高速道路

 (※カメラは、大吾のリムジンを後方から撮っている視点となる)


 リムジンはタイヤ側を下にして着地し一旦バウンド、それから前転ののち横転。


 しばらく転がった後、タイヤ側を上にした状態で、やっと停止。


 そのリムジンとカメラの間に、ヘリが着陸。


 ヘリから降りた4人の男たち、リムジンへと向かっていく。






〇東京・高速道路・大吾のリムジン内

 リムジン内では、運転手が血だらけで意識不明。(※ボンネット破壊そのものによる被害にも巻き込まれているため)


 秘書と護衛2人が流血なしで意識不明。


 大吾のみ何とか意識はあるが、自力ですぐに動ける状態ではない。


 その時、大吾のすぐ左脇のドアが、力尽くで引き開けられる。


 そこからずいと身を差し入れてきたのは、ホサカ。




   大 吾 「……何だ……?」



 ホサカ、無言で大吾に近付き、腕を取って袖をまくり上げたかと思うと、すぐさま静脈注射する。






〇東京・高速道路

 (※カメラは、大吾のリムジンを後方から撮っている視点となる)


 意識を失くした大吾の身体が、男2人の手でリムジンから引きずり出される。


 大吾を2人がかりで運び、ヘリへと引き上げていく様子が、遠景で映される。

 そして暗転。








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