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一章 夏目編 前兆

一章 夏目編 前兆 (1)



○神室町・天下一通り (夜)

T「27日前  2017年12月1日 18:51」


   (※以降、カウントダウン付きの日時テロップは、全て画面左上部に横書きで表示)


 天下一通りをリラックスした様子で悠々と歩いている夏目讓(なつめ・ゆずる)(33)。


 身長は181㎝、体形は真島吾朗よりやや細い程度。


 見て分かるイケメン。 (※この「イケメン」が、不良などに絡まれ戦闘に発展する要因となる)


 長めのヘアスタイル。 (※肩までの長さの髪を、七三オールバックで後ろに撫でつけてある)


 スーツ姿だが、ノータイ。


 以上のトータルの見た目だけでは、職業の見当がつかない。






○神室町・天下一通り・スターダスト前 (夜)


 夏目、歩き進めるうちに、ホストクラブ「スターダスト」の前でのケンカ騒ぎを見つける。


 それを取り巻いてやんやと盛り上がっているカタギの間を抜け、輪の中へと入り込む。


 そこにいたのはチンピラ4人と、スターダストの店長・ユウヤ。


 ユウヤ、夏目に気付いて声を上げる。




   ユウヤ 「あっ」




 それにより夏目のほうを振り返ったのは、チンピラ4人のうちのボス格(チンピラAと表記)。

 チンピラA、夏目をくみしやすしと見てか、舐めた調子でかかってくる。




 チンピラA 「何だ兄ちゃん、店長の加勢か? 
ホスト風情がカッコつけてシャシャリ出たら、その大事なツラが傷物になっちまうぜ?」

   夏 目 「誰がホストじゃ」




 ここでカメラはチンピラAの視点となり、夏目の足元から上へと映した後、顔の位置で停止。


 文句ナシのイケメンである。


 カメラは客観的視点に戻り、チンピラA、夏目に詰め寄る。




 チンピラA 「ホスト以外の何者でもねえじゃねえか」


   夏 目 「そうか、ほんだらそれでええわ」


       「それより、早よ撤収せえや」


       「こんなとこでガラ悪いのが群れとったら、神室町の空気悪なって商売に差しつかえるわ」


 チンピラA 「てめえ……俺らを東城会だと知っててケンカ売ってんのか?」


   夏 目 「売ってんちゃうねん、やめろ言うとんねん」


 チンピラA 「ふざけてんじゃねえ! そのツラ、親でも見分けられねえぐれえボコボコにしてやるぜ!」




 ここで、「vs. 東城会系のチンピラ」の戦闘となる。


 (※ユウヤも戦っているが共闘ではなく、単なる背景)






○神室町・天下一通り・スターダスト前 (夜)

 戦闘後。


 味方3人ともども叩きのめされたチンピラA、後がなくなって、ついにナイフを抜く。


 周囲がどよめき、悲鳴があがる。




 チンピラA 「舐めやがって! 東城会敵に回したらどうなるか教えてやらあ!」


   夏 目 「おまえ、往生際悪いのぉ」


 チンピラA 「うるせえ!」




 チンピラA、慣れない手つきでナイフを構える。


 その時、ここを取り囲んでいる人だかりの外側で、チャラい野次馬男Aが粋がった調子で隣の友人に放言。




 野次馬男A 「(笑い混じりに) 卑怯すぎてウケんだけど」



 それを聞いたチンピラA、頭に血が昇っているため「人だかり」を一体と見なしたらしく、




 チンピラA 「ふざけんなオラア!」




 とナイフを振りかぶり、最も近くで見物していた野次馬男Bに切りかかろうとする。


 野次馬男B、恐怖で棒立ちになり、動けず。


 夏目、ここに至ってとうとうブチ切れ、気合一喝。




   夏 目 「ええ加減にせんかボケがあ!!」




 ナパーム弾の如き気合を叩きつけられたことで、チンピラAはビクッとし、その場に立ちすくむ。


 同じく気合のせいで、人だかりの騒ぎも(外側にいるチャラい野次馬男Aも)、水を打ったように静まり返る。


 その隙に、切りかかられそうになった野次馬男B、へっぴり腰で逃げ去る。




   夏 目 「どこまでカタギさんに御迷惑かける気じゃ!! 東城会笠に着て恥晒すな!!」




 立ちすくんでいるチンピラA、すでに両手が下がって両脇に垂れてしまっている。


 人だかりの野次馬も全員、固唾を呑んで見守っている状態。


 そこへ、あからさまにヤクザな風体のヤクザAが、人だかりをかき分けて入り込んでくる。




  ヤクザA 「おい、おまえら! 何やってんだ!」




 それによりチンピラA、ギョッとし、ついナイフを取り落とす。その乾いた音がこの場に響く。


 それにより我に返って今の状況を把握したらしく、うろたえながらも虚勢を張りつつ、




 チンピラA 「兄貴! いや、その、このホストが調子に乗ってやがるもんで――」


  ヤクザA 「馬鹿かおまえは! その人はあの真島組のナンバー2だ!」


 チンピラA 「えっ?」




 ここで夏目の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組 若頭 夏目讓」の表示。

 ここで暗転し、場面転換。






○神室町・天下一通り・スターダスト前 (夜)


 ヤクザA、平身低頭。その後ろにはチンピラ4人がショボくれて控えている。




  ヤクザA 「若えモンの躾が行き届きませんでこの不始末、誠に申し訳ありません」


   夏 目 「せやなぁ」


       「スターダストは真島組内二代目風間組と黙契がある。せやから、よその組は絶対不可侵……」


       「その暗黙のルール、知らんわけちゃうわな?」


  ヤクザA 「は、はい。もちろんです」


   夏 目 「ほんだらそのこと、きっちり下のモンに言い聞かしとけや」


       「せやないと、スターダストからみかじめ取って手柄顔したろっちゅうアホが大量発生して、かなんからのぉ」


  ヤクザA 「は、はい。よく言って聞かせます」


   夏 目 「後なぁ」


  ヤクザA 「は、はい?」


   夏 目 「これや」




 と夏目が靴の先で示して見せたのは、先ほどチンピラAが落としたナイフ。



   夏 目 「弱い奴にヤッパ持たすな。すぐ抜きよる」


  ヤクザA 「は、はい、すいません」




 ヤクザA、サッと身をかがめ、そのナイフを拾うと、すばやく畳んでポケットの中へ。


 再び直立不動となったヤクザAに、夏目は続ける。




   夏 目 「没収するかバキバキに鍛えるかせな、いずれおまえんとこの上の人らに迷惑かかんぞ」


  ヤクザA 「は、はい、御忠告感謝いたします。このまま没収した上で、バキバキに鍛え上げます」




 それで夏目、にっこり。




   夏 目「そうか。ほな、そうしたり」




 話が済んだ夏目、ふと気付いた様子で、少し残っている周りのカタギにも笑顔で話しかける。




   夏 目 「もう終わったで~~、もう見せれるショーはあれへん。しまいやしまいや、お疲れさん」




 パンパンと両手を打ち合わせながらの促しにより、残っていた人々も散っていく。


 その後、ずらりと横並びになったチンピラ4人、声を揃えて謝罪。




チンピラ4人 「申し訳ございませんでした!」



 その4人の脇でヤクザAが最敬礼したのち、5人揃って引き上げていく。


 その場に唯一残ったユウヤ、笑顔で夏目に話しかけてくる。




   ユウヤ 「いやあ夏目さん、久々に極道らしいとこ見ちゃいましたよ」


   夏 目 「そうか? ――もうちょい行儀ようせなあかんな」


   ユウヤ 「(笑って) それに、相変わらず強いっすね。さすが真島組のナンバー2だけありますよ」


   夏 目 「せやねん。未だに親父にだけは勝たれへんねん」


   ユウヤ 「……本気でガチンコしても勝てないんすか?」


   夏 目 「あかんねん。「自分の親父相手だから本気出せないんでしょ?」って、よそ様は言うてくれはんねんけどな、ちゃうねん」


       「マジで親父、強いねん」


   ユウヤ 「マジっすか! いや、ここ10年ほど、乱闘してらっしゃるとこを見ないもんで」


   夏 目 「ああ、外で暴れんのは封印してはるからな。いちおう直系組長らしせなあかんと思てはるらしい」




 ユウヤ、ニンマリした後、




   ユウヤ 「で、今日はこれからどっか行くんすか?」


   夏 目 「いや、今から事務所帰るとこや。親父からメールあってな」


   ユウヤ 「それを足止めしちゃったんすか! いや、何かすいません」




 恐縮するユウヤに、気軽に応える夏目。




   夏 目 「いや、こっちがシャシャっただけや。ほな、行くわな」


   ユウヤ 「はい、じゃ失礼します」




 ユウヤ、軽く一礼すると、店へと戻ってゆく。


 道にひとり残された夏目、内心考える。




   夏目M (よっしゃ、ほな帰ろ)



 ここから、「真島組事務所へ戻る」のミッションに入る。


 【その道中、「そのツラ、気に入らねえなあ」的因縁で絡まれた結果の戦闘を、不良やチンピラと繰り広げる】






○神室町・公園奥通り北 (夜)

 夏目、公園奥通り北に入って進み、その道沿いに建っているビルの中へと入ってゆく。


 地上12階建て、1階が自走で10台ほど停められる駐車場になっている規模のビル。


 入口の洒落たステンレスプレートには「真島ビル」とある。


 その下方にある定礎のステンレスプレートには「2014」の西暦と、「MAJIMA CORPORATION」が記されている。


 (※「龍が如く5」の2年後、「龍が如く6」の2年前に完成・移転している設定)
 (※そのため「6」「ONLINE」において、どの角度からも写り込みようがなかった位置に建てる必要アリ。よってここでは、現行の神室町マップには存在しない「左上隅」の区画を増設し、そこに建っている設定にしてある。なお、現行マップで言えばちょうど上端ギリギリの線のところを通っていることになる通りの名を「公園奥通り」としてある。なので、左上隅の区画を通るあたりは「公園奧通り北」となっている)





○真島ビル・組長室の外 (夜)

 夏目、立派なドアをコココンとノックする。 (※欧米式の猫招き型ノック)


 室内から返事。




  真島の声 「ええで」





○真島ビル・組長室 (夜)

 入室する夏目。


 部屋の奥にはこちらに背を向けた格好で、バットでびゅんびゅん素振りしている真島吾朗(53)がいる。


 夏目、一礼してから中へ進み、何も言われないままソファーに座る。


 しばらく素振りしていた真島、自分の納得いくタイミングでやめ、バットを投げ出す。


 それから夏目の向かいのソファーまでやってくると、どっかと座る。




   真 島 「さっき、六代目は無事に盃を交わしたそうや」



 ここで真島の顔の大写しになる。

 画面が一時停止し、画面下部に「東城会 舎弟頭 直系真島組 組長 真島吾朗」の表示。一時停止が解除。




   真 島 「これで、六代目が言うとった極道組織全部と、五分盃を交わしたわけや。ここまで5年、長かったのぉ~~」

   夏 目 「(笑顔で) はい。でもこれで、俺ら皆が望んでた平和外交が実ぃ結びました。よかったです」


   真 島 「せやな。――けどなぁ、なかなかそうもいかんらしいわ」




 夏目、訝しげな表情になる。


 それをチラリと見た真島、続ける。




   真 島 「六代目に相談されてん。一ㇳ月前に近江連合から、神室町入りの打診があったっちゅうてな」


   夏 目 「えっ! ――渡瀬さんからですか?」


   真 島 「せや。5年前の騒動の後、七代目近江連合の会長代行に収まりよった、あの渡瀬や」


       「内部抗争を避けるためにひとまず――っちゅうてな。その後すぐ、六代目と五分盃かわしてくれた」


       「それ以降、ずっと東と西で棲み分けできとったっちゅうのに……。ここに来て、これや」




 夏目、無言で拝聴の姿勢。



   真 島 「渡瀬はこう言いよるんやと」


       「ドブ底のシノギを海外マフィアやらカタギ崩れに好きにやらしたらアカン。国が悪なる」


       「けど、ドブ底に手ぇ出さんのが東城会の美学――」


       「それやったら、ぜひ近江にそこの利権をくれへんか、てな」


   夏 目 「ドブ底のシノギの利権……ですか」


   真 島 「せや」


       「東城会が治めとる上澄みにまでのさばる気はない。あくまでドブ底を仕切らしてもらうだけや」


       「――とまあそんなことを、例の人懐っこい調子で申し出よったらしいわ」


       「美学もええ。けど、それでホンマにアカン真っ黒のシノギが野放しになってしもとるのは……」


       「っちゅうて、それを東城会の怠慢やと匂わせよったらしい」


   夏 目 「そうですか……」


   真 島 「けど、ヤクザにそないな責任しょわされてもなぁ」


   夏 目 「そうですよねぇ」




 真島、一息置いたのち、



   真 島 「渡瀬はそのホンマにアカンとこを仕切ったると自信満々やそうや」

       「そうなった暁には海外マフィアを一掃してみせる、カタギ崩れも叩き潰したると、だいぶ鼻息が荒いらしい」


   夏 目 「戦争大好きな人ですからねぇ……」


       「東城会と戦争する気なくした後は、海外マフィアとカタギ崩れに狙い定めはったんですね……」


   真 島 「この話、おまえはどない思う?」


   夏 目 「うーん……。渡瀬さんがドブ底をどない仕切りはるつもりか、それによりますよねぇ……」


   真 島 「今とどっちがマシか、っちゅうことか? そら、やってみな分からんやろなぁ」


   夏 目 「それに、どっちにしろ表向きは、近江が神室町入りして裏の世界を牛耳ったっちゅう形になるわけでしょ?」


       「そうなったら、東城会がよそ様から舐められんのは避けられへんと思います」


   真 島 「そこやねん。ワシなんかは、舐めてくる奴がおったらケンカできるから勿怪の幸いや」


       「けど、東城会のメンツを考えたらなぁ……」


   夏 目 「とは言え、このままやったらドブ底がどんどん悪なっていく気はしますけどね」


   真 島 「せやなぁ」


   夏 目 「難しいとこですねぇ」


   真 島 「ホンマになぁ」




 ハァ~~ッと大きな溜息をつく真島。両膝の上で両肘ついて頬杖をついている状態。



   夏 目 「親父? どないしはりました? えらい元気ありませんやんか」




 すると真島、ボソッと呟く。




   真 島 「ワシ、引退しよか思てんねん」




 それで夏目、仰天。




   夏 目 「ちょっと待ってください!! 何でなんですか!?」


   真 島 「ワシには分かる。ワシはもう長ない」


       「それやったらもう残りの時間は好きなことして過ごしたいねん」


   夏 目 「絶っ対ウソ! 絶対ウソです、分かってます!」


       「俺も親父とおんなじぐらい勘キレッキレなんですからね!」


       「親父が長ないっちゅうのはウソやし、親父がそう思てはるっちゅうのもウソです!」


       「去年、冴島の叔父貴が東城会に戻ってきはったから、親父は自分の役目は終わったと思てはるんです!」


       「それで気ぃ抜けて、ちょっと鬱状態なだけなんです!」


   真 島 「……そんなんとちゃうわい」


   夏 目 「親父、俺にみなまで言わしますか?」


   真 島 「……何や?」




 そこで夏目、意を決して言う。



   夏 目 「ほんだら言いますけど……」

       「四代目が亡くなってからのこの一年で、親父は目に見えて元気なくなっていってはります」




 真島、イヤそうにジロリと夏目をねめつける。


 しかし夏目、動じない。




   夏 目 「結局、それが一番の理由なんです」


       「そらそうですよ、生涯の好敵手やった人なんですから、親父がしょんぼりしはんのは当たり前です」


       「でも、それで引退なんかありえへんでしょ?」


       「大体、“六代目を支える”っちゅう四代目との約束はどないしはるつもりなんですか?」


       「俺には「何があっても六代目を守れ」ゆうといて、自分が一抜けしはるんですか?」




 すると真島、夏目をまっすぐ見る。




   真 島 「おまえ、知っとるんやろ?」


   夏 目 「何がですか?」


   真 島 「桐生ちゃんがホンマは生きとるっちゅうことや」


   夏 目 「親父、何を言うてはるんですか?」




 やや呆れながらも気遣っている――という表情を作って見せた夏目。


 そこから2人、しばし真っ向から向き合う。


 そのうちに真島、ソファーの背にそっくり返り、ふてくされたような顔でプイッとそっぽを向く。




   真 島 「もうええわ。どうせワシは病気やからな。頭も体もイカれてしもてん」



 だだっ子のような真島に、溜息つく夏目。




   夏 目 「そない病気ぶりはるんやったら、この機会に人間ドックの検査入院してください」


       「その間の代理やったらやったげます」


   真 島 「ふん。ほな入院するわ」


   夏 目 「ほんまですか? やったぁ!」




 これまで断られ続けてきたのがまさかのタイミングで了承となったため、時ならずテンションが上がり、笑顔が出る夏目。




   夏 目 「ほんだら、すぐ手配します。言うときますけど、後で「や~めた」はナシですよ?」


   真 島 「分かっとるわい、うっさいのう……」


   夏 目 「うっさないです。ほな失礼します」




 夏目、ソファーから立ち上がり一礼すると、すたすたと組長室を出てゆく。

 その夏目の後ろ姿を、何やら考え深げに見据えている真島。








○真島ビル・若頭室 (夜)


 若頭室に入った夏目、大きく息をつく。


 それからすぐ、夏目による去年の回想となる。






○(回想)韓来 (夜)


T「昨年 二〇一六年十二月下旬」


   (※画面左上部ではなく、画面右端に縦書きの筆書き。カウントダウン入りの日付表示とは別物)


 真島と夏目、韓来のテーブル席に向かい合って座っている。


 真島、しばらくしてポツリと言う。




   真 島 「桐生ちゃんが死んでしもてん」


   夏 目 「はい。聞きました」




 その一瞬、2人は真っ向からガッチリと目が合ったまま向き合う。


 その間の長さでもって、2人がお互いの勘で「相手が桐生の生存に気付いていること」「今それを悟り合ったことも悟り合ったこと」を描写。


 真島、ふいと目を逸らし、網の上のホルモンをつっつく。




   真 島 「メッチャ寂しいねん」


   夏 目 「そらそうでしょう」




 しばしの沈黙ののち、真島がポツリ。




   真 島 「何であいつは何も言うてくれへんのやろな」




 夏目、答えられる言葉がない。


 しばしの沈黙ののち、暗転。






○(回想)墓地 (※風間組長や錦山組長その他、桐生と縁の深い人たちの墓がある墓地)


T「数日後」 (※前シーンと同じく画面右端に縦書きの筆書き)


 夏目、墓地の物陰から、風間組長の墓所あたりを見張っている。


 今そこで墓参り中なのは桐生一馬。ライトグレースーツ&ワインレッドシャツのところへ、サングラスとマスクを装着。


 墓参りを済ませた桐生、立ち去ろうとする。


 そのタイミングで駆けつけた夏目、桐生の正面に立ち塞がる。




   夏 目 「失礼いたします、四代目」


       「どうしても最後に御挨拶したかったんで、無礼を承知でやってまいりました」


   桐 生 「……人違いだ」


   夏 目 「服と髪型を変える気ありはれへんのやったら、せめて帽子をかぶりはるべきです」


   桐 生 「……そうか……」




 そこで夏目、用意していたハットをプレゼントに差し出す。


 素直にハットを受け取った桐生、マスクとサングラスを取る。


 ここで桐生の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「元 四代目東城会会長 桐生一馬」の表示。一時停止が解除。




   桐 生 「なぜ俺が生きてると分かった?」


   夏 目 「勘です」


   桐 生 「……真島の兄さん譲りってわけか」


   夏 目 「はい。せやから、親父も四代目が生きてることは分かってはります」


       「その上で、四代目の決断を受け入れはったんです」




 桐生、無言。




   夏 目 「でも親父は、生きてるも死んでるも関係ない、“もう一生会われへん”っちゅうことを悲しんではるんです」


       「その悲しみは、四代目が死んだことを信じれた人らとおんなじです」




 桐生、無言。




   夏 目 「親父は、四代目が自分に何も言うてくれへんことも寂しがってはります」




 桐生、無言。



   夏 目 「親父に、さよならを言うてあげてくれはりませんか?」




 その後しばらく間があったのち、桐生が口を開く。




   桐 生 「さすがだな」




 夏目がやや怪訝そうに見返すと、さらに続ける。




   桐 生 「俺はたくさんのいい弟分に恵まれた。だが、子分を持ったことはない」


   夏 目 「えっ? でも、六代目は――」


   桐 生 「大吾は堂島組では弟分だった。今じゃ本当の意味で我が子のようなものだと思ってる」


       「だから子分じゃない」




 納得した夏目に、桐生は続ける。




   桐 生 「だからこそ、いい子分を持てるってことのすごさは分かる。さすが真島の兄さんだな」




 夏目、無言で一礼。


 その後しばしの沈黙があったのち、夏目から質問を振る。




   夏 目 「この先、どないしはるんですか? 死んだっちゅうことは戸籍も無くなってもうたんでしょ?」

       「戸籍が無かったら絶望的に生きにくいですよね?」


       「かと言うて、神室町のニンベン師には頼まれへんでしょうし……」




 困惑する夏目に、桐生が少し笑みを浮かべる。




   桐 生 「戸籍はあるんだ」


   夏 目 「……はい?」


   桐 生 「俺の本当の戸籍がな」


   夏 目 「……どういうことですか?」




 ここから、桐生による事情説明となる。




   桐 生 「俺は赤ん坊の時、ヒマワリって養護施設の門前に置かれた」


       「桐生一馬――と名前が書かれたメモと一緒にな」


       「その俺を、施設を運営していた風間のおやっさんが見つけて保護した」


       「それから施設長が警察に届け出、市長が戸籍を作ってくれた」


       「捨て子はそうやって国から戸籍を貰うんだよ」


   夏 目 「はい……」


   桐 生 「だが、実はおやっさんは、東城会でも一二を争うヒットマンだった」


       「だから、自分が手にかけたターゲットの遺児を引き取るために、その施設を運営してたんだ」


   夏 目 「! っちゅうことは――」


   桐 生 「そうだ。おやっさんは自分のターゲットの遺児だった俺をヒマワリの前に置いた」


       「そうしていったん捨て子としてから拾い上げて、別の戸籍を与えてくれたんだ」


   夏 目 「でも……何でわざわざそんなことを……」


   桐 生 「おやっさんに殺しを命令した奴の注文は、ターゲットを殺すだけじゃなかった」


       「自由意思で消息を絶ってる――そういう体裁にしたかったんだ」


       「なのに、そいつの赤ん坊を現場にそのまま残したら……」


       「ターゲットの自由意思による消息不明としては不自然すぎるだろう?」


   夏 目 「……そうですね。そらそうです」


   桐 生 「そんな事情を知れば、殺しを命令した奴は、その赤ん坊も殺させる可能性が高い」


       「だからこそ、おやっさんは赤ん坊がいると知った時、守るために捨て子にしてくれたんだ」


   夏 目 「なるほど……」




 夏目、感心しきり。




   夏 目 「ほんだら、その本来の戸籍が残ってるから、今後はそっちで生きていきはるっちゅうことですか?」


   桐 生 「そうだ」


       「本来の戸籍に戻る時のためだろうな。おやっさんはそっちの医療記録や就学記録も作ってくれていた」


       「だから俺は不都合なく生きていける。心配する必要はねえよ」


   夏 目 「そうでしたか、よかったです」


       「でも……。その本来の戸籍を使っても、もう命を狙われることはないんですか?」


   桐 生 「殺しを命令した奴が、とっくの昔に死んじまってるからな」


       「だが、おやっさんは俺の親を殺したことを、俺に秘密にしていた」


       「だから俺には、本来の戸籍のことを打ち明けられなかったんだ」


       「おやっさんの死後に出てきた、俺宛の手紙に書いてあったよ。20年も前に書かれた手紙にな」


   夏 目 「そうやったんですか……」




 しばしの沈黙ののち、桐生が言う。




   桐 生 「長話しちまったな」




 そしてさらに、




   桐 生 「大吾を頼む。――こんなこと、俺に言えた義理じゃねえが」


   夏 目 「六代目をお守りすることは親父の意志であり、俺の意志でもあります」


       「せやからどうぞ御安心ください」




 それを聞いた桐生、しっかりと頷く。




   桐 生 「それじゃ、おまえも元気でな」




 サングラスとハットだけを身に着けた桐生、背を向けて歩き出す。

 夏目、その桐生に呼びかける。




   夏 目 「あの! ――今は何ちゅうお名前なんか、聞かしてもうてもよろしいですか?」




 すると桐生、立ち止まり、顔半分だけ振り返る。

 それから少し間を置いたのち、口元に少しだけ笑みをよぎらせ、答える。




   桐 生 「トウジョウカズマだ」



 桐生、かぶっていたハットを少し上げて見せたのち、立ち去る。

 ここで暗転し、回想終了。





一章 夏目編 前兆 (2)



○真島ビル・若頭室 (夜)


 戻って若頭室。


 夏目、デスクの手前に立った状態のまま、あの日以来の疑念を今日も考えることになる。




   夏目M (調べたら、やっぱり初代東城会会長・東城真の戸籍には、1967年6月17日――)


       (四代目と同年同日生まれの一馬っちゅう息子がおった)


       (結婚はその前年の12月中旬――初代が引退してすぐ後や)


       (引退直後に渡米して、向こうですぐ婚姻届を出してる)


       (翌年6月には息子さんの出生届を向こうで提出)


       (その一ㇳ月後に親子3人で日本に帰国したとこまでで記録は途切れてる……)






○前の代の東城会を説明するスライドショー

 ここで、画面は「睨み合った風間と嶋野」「それを眺める二代目・宍戸誠一郎と堂島宗兵」の静止画像のスライドショーになる。

 そこへ夏目の内心の声が乗る形。




   夏目M (風間組長は嶋野の大親父と違て、自分の好き放題に人を殺すようなことはしはれへん)

       (っちゅうことは誰かの命令やろうし、殺しの命令なんか親父のんしか聞けへんやろう)


       (つまり風間組長に初代を殺さしたんは――二代目っちゅうことになる)


       (二代目東城会の宍戸会長……)


       (風間組長だけやのうて、堂島組長と嶋野の大親父の親分でもある)


       (今の東城会の体制を作り上げた傑物や)


       (けど、初代が殺されたんは二代目に跡目を譲った半年以上も後や)


       (つまり、二代目は会長の椅子欲しさに初代を殺ったわけちゃう)


       (それとは全く関係ない理由っちゅうこっちゃ……何なんやろう……)




 引き続き、「堂島宗兵の顔写真」「堂島弥生の近影」「堂島大吾の近影」の静止画像のスライドショーとなる。

 そこへ夏目の内心の声が乗る形。




   夏目M (堂島組長は、二代目の一人娘と結婚した)

       (つまり六代目、今の東城会会長は二代目の孫であり――)


       (四代目のお父さんを殺さした人の孫っちゅうことになる)




  ここでスライドショーは終了。






○真島ビル・若頭室 (夜)


  戻って、若頭室。


  夏目、何十回目にもなる同じ疑問の数々を、今日も考えているところ。




   夏目M (四代目は「殺しを命令した奴はとっくに死んでる」て言うてはった)


       (つまり四代目も、誰が初代を殺さしたかを知ってはるっちゅうこっちゃ)


       (けど四代目は、六代目をわざわざ東城会に引き戻して会長に就任させはった)


       (その上、そのあと何度となく起きた緊急時には、わざわざ出張って騒動を収めてくれはった)


       (それは、ただ六代目の資質を買うてはったからっちゅうだけのことか?)


       (それとも……)




 夏目、考え込む。


 それからふと思い付いたように内ポケットからスマホを取り出し、ある人物に電話。






○賽の河原・モニタールーム (夜)

 全ての機器のど真ん中で鎮座ましましているサイの花屋、鳴ったスマホに出る。




   花 屋 「おう、夏目。悪いな、例の件の情報はまだ出揃ってねえぜ」


  夏目の声 「そうですか……」


   花 屋 「何しろ半世紀近く前の話だ。ハッキングどころか人海戦術にも限界があってな」


  夏目の声 「はい」


   花 屋 「それにしてもだ。これまで誰もがあえて触れなかった消息不明の初代の行方……」


       「そして、もし殺されてるなら、その実行犯が風間かどうか調べてくれ……」


       「そんな依頼をするなんて、実際あんたも相当物好きだな」


  夏目の声 「気になることを片付けてまうまでは、他のことに集中しにくうてかなんのです」


       「それに花屋さんは、あの人が生きてることも心得てはるみたいやったから、
そのことの話相手にもなってくれはるかなと思て……」

   花 屋 「まあ、普通の人間にとっちゃ、秘密を抱えるってのは苦しいもんだからな」


       「たまには俺みたいに、それがたまらなく面白いって奴もいるが」




 花屋、それからふと思い付いたらしく、話を替える。




   花 屋 「そう言や、ほんのついさっき、妙な話を聞いたっちゃ聞いたがな」


  夏目の声 「妙な話?」


   花 屋 「ああ。“堂島の龍が生きてる”ってんだ」


  夏目の声 「えっ! ……どういうことですか?」


   花 屋 「どうもこうもねえ」


       「昨日の朝、ある東城会系の三次の組長が飲んだくれて朝帰り
って時に、桐生が生きてそこに立ってるのを見たらしい」

  夏目の声 「それは……ただの酔っ払いのたわごとですよね?」


   花 屋 「おそらくな。そいつの子分すら話半分にも信じちゃいねえ」


       「うちの親父もヤキが回ったなって程度のことだ」


  夏目の声 「ですよね……」


   花 屋 「とは言え、そのうちそれに尾ひれがついて神室町中に広まることになるかもしれねえ」


       「要するに、それを聞いた時にヘンにギョッとするなよ――って話さ」


  夏目の声 「ああ、なるほど、分かりました。御忠告ありがとうございます」


   花 屋 「ま、何しろ伝説の極道、堂島の龍だからな」


       「“実は生きてる”なんて都市伝説が生まれても不思議じゃねえさ」


  夏目の声 「そうですね……」




 しかし夏目、やや気がかりそう。


 花屋、さらに話を替える。




   花 屋 「とにかく、本筋のほうではちょいと気になるネタを掴んだばかりでな」

       「ただし、それがモノになりゃ、そのうちデカい報告ができるはずだ」


  夏目の声 「お願いします。その時に、その時までの代金をいったん御支払いしますんで」


   花 屋 「期待してるぜ」


       「何しろ、東城会本家への数十億って上納金を、株だけで稼ぎ出してる若頭さんだからな」


  夏目の声 「上納金の半分以上は、親父が土地投機で作りはった金ですよ?」


   花 屋 「知ってるよ」

       「で、何がすごいかって、そのどっちにも何の後ろ暗いところもねえどころか、
当たり前の情報戦にすら参加してねえってことだ」

       「何せあんたらは純然たる勘だけでやってるんだからな。だろ?」


  夏目の声 「それを信じてくれはんの、花屋さんだけですよ」


   花 屋 「信じねえわけにはいかねえよ。こちとら根こそぎ調べ上げるプロだ」


       「あんたらが実際に裏工作も情報収集もしてねえのは分かってる」






○11年前の事件のスライドショー

 ここで、画面は「実は11年前にモニタールームで行われていた神室町内の爆弾探し」「真島の爆弾解体」を説明する静止画像のスライドショーになる。

 そこへ花屋と夏目の声が乗る形。




  花屋の声 「それに加えてあんたらは、11年前の近江連合絡みの騒動の時……」

       「神室町に仕掛けられた爆弾の位置を、全て勘だけで言い当ててるからな」


  夏目の声 「懐かしいですねぇ! あん時はほんま、ハラハラしましたわ」


  花屋の声 「真島に至ってはその後で、爆弾の1個を勘だけで解体しちまったしよ」


  夏目の声 「(誇らしさが隠し切れていない口調で) まあ、うちの親父ですからね。あれぐらいチョロいもんですよ」



 ここでスライドショーは終了。


 (※「極2」において【①花屋「ここのシステムが生きてりゃ造作もねえんだが」→②真島の頭突き→③システム復旧を披露→④爆発物を発見】ということになっているが、実際のところ③→④は一足飛びでは無理のはず。なのでここでは、おそらく③と④の間にそのことを悟った花屋が「畜生、あのネズミ、うちのカメラがねえところを選びやがったか」と呟き、真島「ほな、カメラのないとこを虱潰しにチェックしたらええんとちゃうんか」花屋「簡単に言うなよ、この深い神室町でそういう場所がどれだけあると思ってんだ」の流れの後、真島と夏目とで勘を働かせ、花屋のカメラがない範囲内から31個の爆弾の位置を特定した――という設定になっている)





○真島ビル・若頭室 (夜)


 カメラは、若頭室でスマホ通話している夏目へと移動。


 夏目のスマホの向こうから、花屋が言う。




  花屋の声 「ところで近江連合と言やあ、渡瀬から堂島に神室町入りの打診があったそうじゃねえか」


   夏 目 「ほんま耳早いですねぇ!」


  花屋の声 「そうでなきゃこの商売は上がったりだ。――で、堂島はどう出るつもりなんだ?」


   夏 目 「俺なんか探ったって無駄ですよ。俺如きが知ってるわけないじゃないですか」




 花屋は少し笑い、




  花屋の声 「悪ィな、つい嗅ぎ回るクセが出ちまった。――じゃあな」


   夏 目 「はい、今後ともよろしく」




 そこで通話は終了。


 夏目が溜息をついたところで、コココンとノック。




   夏 目 「ええで」



 ドアが開き、入ってきたのは庄司亘(しょうじ・わたる)(32)。長身の夏目より、さらに大柄。

 (※堂島大吾をお姫様だっこで難なく運びうるだけの体格&腕力を持っている設定)




   庄 司 「兄貴。親父が「入院や」って叫んでるらしいんですけど、何かあったんですか?」



 ここで庄司の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組 若頭付 庄司亘」の表示。一時停止が解除。




   夏 目 「ああ、せやねん。人間ドックで検査入院してもらうことになってん」

       「本人がその気やから、この機会に1週間ぐらいみっちり入ってもらうつもりや」


   庄 司 「そうだったんですか。――親父に呼ばれて、西田の兄貴が組長室に飛んでいきましたよ」


   夏 目 「ああああ、言うのん遅れた……。ちょっとやらなあかんことあってん、申し訳ない……」




 夏目、スマホを素早く内ポケットにしまうと、先に立って若頭室を出る。

 その後を庄司が追い、ドアが閉まる。


 ここで暗転。








○沖縄・アサガオの外 (夜)

 夜闇の中、養護施設アサガオの門と外観が映し出される。






○沖縄・アサガオ (夜)

T「27日前  2017年12月1日 19:23」

 家の中の二部屋では三雄(17)・志郎(16)、エリ(17)・理緒奈(17)・泉(16)が勉強中。

 居間では、宇佐美ハルト(もうすぐ2歳)がテレビの前で、テレビに映るダンス番組に夢中。

 ダンス講師のお兄さんを真似て、それなりにダンスらしきことをしている。

 ハルトは遥にそっくりで、9歳当時の遥をさらにミニチュアにした感じ。

 隣接する台所では、宇佐美遥(21)が夕飯のハンバーグを写メり、満足そうに微笑んだところ。

 遥、その写メ付きの「今日はハンバーグだよ♡♡♡」のメールを夫・宇佐美勇太に送信。

 その直後、ハルトが叫ぶ。



   ハルト 「おかあさーん!!」

     遥 「ハルト?」



 驚いて居間のほうを見ると、ハルトは家の外を指さしている。



   ハルト 「またー!! だれかいるー!!」



 サッとハルトの指さす方向を見た遥、アサガオの門の外の道を駆け去っていく人影を認める。

 ハルトの許までやってきた遥、その正面にしゃがみ込むと、ハルトの両手を両手で取る。



     遥 「大丈夫だよ」

   ハルト 「(不安げに) ほんと?」

     遥 「(笑顔で) ホントだよー」



 と立ち上がった遥、



     遥 「ごはんできたから、みんな呼びに行こっか?」

   ハルト 「ん」



 遥、ハルトと手をつないで縁側へと出、子供部屋のほうへ呼びかける。



     遥 「みんなー、ごはんだよー」



 すると子供部屋から、



  三雄の声 「はーい」



 そののち、ぞくぞくと子供たちが部屋から出てくる。



   志 郎 「腹減ったー」

     泉 「いい匂いー。今日はなあに?」

     遥 「なんと! ハンバーグだよー」

   志 郎 「マジで!? やったー」



 皆が居間へと入っていく中、最後に縁側に残った遥、アサガオの門あたりを見やる。

 誰もいないことを確認するも、少し不安そうに眉をひそめる。

 ここで長い暗転。







一章 夏目編 前兆 (3)



○真島ビル・1F駐車場 (夜)

T「25日前  2017年12月3日 17:55」


T「二日後」 (※画面左上部のテロップとは別に、画面右端に縦書きの筆書きで出す)


 駐車場に停まった車の後部座席左側から降り立ったのは、夏目。運転席からは庄司が降りる。


 その時、エレベーターが着き、そこから降りてきたのは西田敏夫。


 夏目、思わず声をかける。




   夏 目 「兄貴! 今日は親父の入院に付き添ってはるんちゃいましたっけ?」


   西 田 「付き添ってたよ。それで「眼帯取ってこい」って言われて、取りに来たんだ」




 ここで西田の顔の大写しになる。

 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組 本部長 西田敏夫」の表示。一時停止が解除。




   西 田 「ベッドで座ってるだけじゃヒマだろ? だから親父、あっちこっち姑みたいにチェックし出してさ」


       「とうとう「眼帯が汚れとる!」ってなったんだよ。いつもより気難しくて参っちゃうよ」


   夏 目 「すいません、俺のせいで……」


   西 田 「いや、まあ、人間ドック自体はいいことだからな」


       「そりゃ親父は超人だけど、医学的に健康ってお墨付きを貰えりゃ、俺らが安心できるしさ」


   夏 目 「はい」




 にっこりする夏目。その一瞬後、「あれ?」という顔になる。



   夏 目 「でも、わざわざ取りに戻らんでも、
事務所の若いモンに持ってこさしはったらよかったんちゃいます?」

   西 田 「(ゲンナリ顔で) 「おまえが取ってこんかい!」って言われてさ」




 西田、溜息ののち、しょんぼり言う。




   西 田 「いいんだよ、どうせ俺は、
山門(やまと)の兄貴が直系昇格で真島組卒業になって本部長の席が空いた――って時に、ノリで指名されただけだからさ」

   夏 目 「またそんなこと言いはる……」


       「親父がそういう大事なことを決めはる時は絶対にノリちゃうこと、兄貴も知ってはるでしょ?」


   西 田 「そうなんだけど、これに関してはなーんか怪しいんだよなぁ……」


   夏 目 「本部長命令やったら、弟分は何でも聞きますよ。何かお手伝いできますか?」




 それにより西田、苦笑い。



   西 田 「そうか。じゃ、スタミナンX買ってきてくれるか?」

   夏 目 「はい。何本ですか?」


   西 田 「5本だ。――庄司には、韓来で特選カルビ弁当を頼めるか?」


   夏 目 「はい」




 夏目、庄司を見やる。


 庄司、頷く。




   夏 目 「ほな、行ってきます」




 夏目、スタミナンX5本を買うため、庄司と別れて神室町へと出る。


 【この後、スタミナンXの入手ミッション中、戦闘やサブストーリーをこなす】






○真島ビル・1F駐車場 (夜)

 スタミナンX5本を手に、真島ビル駐車場へと戻ってきた夏目。


 ちょうど庄司も帰ってきたところ。


 夏目、他の頼まれごとらしい荷物を車に積み込んでいる西田に、声をかける。




   夏 目 「兄貴、遅なってすいません」




 夏目と庄司、それぞれが頼まれたものを西田に渡す。




   西 田 「よっしゃ、ありがとな。――ああ、実は、本数間違えててさ。2本はやるよ」



 となり、スタミナンXを1本ずつ貰う夏目と庄司。

 ここで暗転。






○真島ビル・8Fラウンジ (夜)


 社交クラブのラウンジっぽくしつらえられている、組長と三役の定位置たる席があるフロア。


 そこへ、夏目と庄司がやってくる。


 席には既に、若林勇美(わかばやし・いさみ)(52)が着いている。




   夏 目 「おはようございます」


   若 林 「おう、おはよう」




 ここで若林の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組 舎弟頭 若林勇美」の表示。一時停止が解除。


 夏目、自分の席に着く。


 庄司、夏目の背後やや離れた位置にある椅子に座る。


 すると若林、さっそく話しかけてくる。




   若 林 「実は、ちょいと相談があってな」


   夏 目 「はい。何でしょう?」


   若 林 「最近、三次がよく嘆いてるんだよ。カタギの店からみかじめが取れねえってな」


   夏 目 「ああ……」


   若 林 「中には「警察が機能してるからケツモチは要らない」と、堂々と断り入れてくる店もあるそうだ」


   夏 目 「確かに最近、警察がえらい頑張ってますよねぇ。“神室町新生計画”でしたっけ?」


       「迷惑防止条例の徹底から始まって、次は暴対法……」


       「そら、違法店が摘発されんのはいいですよ?」


       「でも今は、真っ当に商売しててもオーナーが極道っちゅうだけで目ぇつけられますからね」


   若 林 「うちの兄貴も、知り合いのカタギにSHINEを売ったからなあ」


       「オーナーが極道なのを理由に廃業させられちゃ気の毒だからってな」


   夏 目 「そのSHINEがこないだ言うてましたよ」


       「暴対法が心配でケツモチを雇われへんけど、全然困ってへんて」


       「いざ乱闘騒ぎっちゅう時、今は通報したらすぐ飛んでくるらしいです」


       「昔は通報の意味ないぐらい来んのがトロかったくせに……」


   若 林 「そうなんだよな」


       「だから「ケツモチは要らない」と言われちまうと、どうしようもねえんだよ」


       「無理にセールスしようもんなら、即通報されて御用だからな」




 ここで若林、面白がり窺い見るような表情で夏目を見る。




   若 林 「さて、そういうわけなんだが、どうする? 代理さん」




 そこで夏目、少し考えてから答える。




   夏 目 「真島組は、みかじめがなくてもやっていけますよね?」



 若林、真面目な顔になり、夏目を見据える。




   若 林 「そりゃ、やってけるさ」


       「今だって上納金(アガリ)はほぼ全部、真島投資の儲けから出してるんだからな」


       「三次の組長のアガリとして、真島警備から形ばかり受け取っちゃいるが、
真島組のアガリ全体から見りゃ微々たるもんだ」



 すると夏目、さらに考えたのち、言う。




   夏 目 「カタギの店と警察のお世話になられへん店の比率って、神室町やと2対1ぐらいですよね?」


   若 林 「そうだな」


   夏 目 「ほんだら、少なくとも3分の1の店からはみかじめ取れるわけですよね?」


       「3分の1から取れたら、三次の組長のアガリぐらいにはなりますよね?」


   若 林 「……まあ、そうだな」


   夏 目 「ほんだらもう、カタギからみかじめ取れんでもええんちゃいます?」




 それにより若林、びっくり仰天。




   若 林 「いや、ちょっと待て。うちは今、極道としての仕事はケツモチしかやってねえんだぞ?」


   夏 目 「はい」


   若 林 「つまり、うちが「神室町を仕切ってる」だの「神室町全域がシマ」だのと言えてるのは、みかじめ取ってる店が神室町全域にあるからなんだぞ?」


   夏 目 「はい」


   若 林 「なのに、その3分の2からみかじめ取るのをやめちまうのか?」


       「それで、どうやって神室町全域をうちのシマだと言えってんだ?」


   夏 目 「全域をシマにしとく必要ありますか?」


   若 林 「――何だと!?」


   夏 目 「だって、うちは真島建設っちゅう正業だけで組員みんな生活できてるでしょ?」


       「その上で、三次の組長からのアガリも特に入り用でない……」


       「ほんだら究極、みかじめ取るシマが無くなってもええんちゃいます?」


   若 林 「おまえ!! 気でも狂ったのか!? 六代目に殺されるぞ!!」


       「神室町は六代目にとって、言わば故郷なんだぞ!! 忘れたのか!?」


   夏 目 「……東城会のシマにしとかんでも、故郷は故郷ですよね?」


   若 林 「この――バカ!! おまえも病院行って頭冷やしてこい!!」


   夏 目 「はい……」




 夏目、なぜ怒られたのかが分からない。


 しかし若林が怒っているのは明らかなので、立ち上がって一礼。




   夏 目 「失礼します」




 そして、すごすごとラウンジを後にする。


 その後に、庄司もついて出てゆく。


 そこで暗転。








○東都大病院 (夜)

 夜の東都大病院の外観が、遠景で映し出される。






○東都大病院・真島の病室 (夜)


 真島の怒り顔が、どアップになる。




   真 島 「アホゥ!!」




 一瞬後に引きの映像となり、そこがとんでもなく広々ゴージャスな病室であることが分かる。



   真 島 「何が「代理やったらやったげます」や!! おまえなんか若頭にもしとかれへんわ!!」




 ベッド脇にて椅子に座っている夏目、しょんぼりして頭を垂れている。




   夏 目 「すいません……ほんだら返上します……」


   真 島 「ちゃう!! ちゃうねん!! そっちちゃうねん!!」


       「「若頭をやめさせられたら困るから、二度とそんなことは言いません」、こっちや!!」


   夏 目 「はい……」


   真 島 「そんなこと考えてんのが六代目に知れてみぃ! 即パーンいかれるで!」


   夏 目 「若林さんにも言われました……」


   真 島 「ほれ見ぃ!」


   夏 目 「ほんで、おまえも病院で頭冷やせって言われました……」




 その夏目のしょぼくれ方と発言によってか、真島、ケロッとクールダウンする。




   真 島 「そうか。ほな、一緒に冷たいもんでも飲むか?」


   夏 目 「……はい」




 それで真島、ニンマリ。




   真 島 「よっしゃ、ほな行こ」


       「ここ、前来た時はなかったけど、今は1階にカフェ入っとるんやで? ええ時代やのぉ~~」




 喋りながらベッドから降りた真島、飄々とドアに向けて歩き出す。


 なので、夏目もそれを追い、ついていく。


 ここでいったん暗転。








○東都大病院・外 (夜)

 病院の正面玄関から、ややとぼとぼとした足取りで外へ出てきた夏目。


 病院の敷地に面している車道の手前までやってきた時、そこへ1台の車がピタリと着く。


 庄司が運転する夏目の車ではなく、立派な黒塗りのリムジン。


 リムジンの後部座席の窓が開く。その中を確認した夏目、深々と御辞儀する。


 窓の向こうに座っているのは、堂島大吾(41)。夏目に微笑みかける。




   大 吾 「俺もお見舞いに上がったんですよ」




 ここで大吾の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「六代目東城会 会長 堂島大吾」の表示。一時停止が解除。


 おそらくは先ほどまでの夏目の様子を見ていたらしい大吾、すぐに質問。




   大 吾 「何かあったんですか? 元気がないようですが」


   夏 目 「その……ちょっと考え事を……」




 夏目の目の泳ぎを見ただけで、大吾は悟った様子。




   大 吾 「俺に何かできることはありますか?」


   夏 目 「……内密で、お聞きしたいことがあります」


   大 吾 「そうですか。では乗ってください。聞きましょう」


   夏 目 「ありがとうございます」




 夏目、一礼したのち、リムジンに乗り込む。






〇東都大病院・外・大吾のリムジン内 (夜)

 夏目の向かいの席から、大吾が言う。




   大 吾 「ところで、ひょっとして真島さんは、ここに入院するのは初めてじゃありませんか?」


   夏 目 「いえ、一回――いや二回かな、ありますよ。でもそれは六代目が就任しはる前のことです」


   大 吾 「そうですか。俺はここに二度世話になりましたが……あなたも一度?」


   夏 目 「はい、あの時に。――もう8年前になりますか」


   大 吾 「ええ」






○8年前の事件のスライドショー

 ここで、画面は「実は「龍が如く3」の裏で起こっていたこと」を説明する静止画像のスライドショーになる。

 そこに大吾と夏目の声が乗る形。


 (※今作における「3」の裏設定……東城会本部の会長室で狙撃された大吾を、二代目風間組組長であった柏木は秘かに隠れ家へ匿うことにし、その実行役を真島に依頼。真島はそれを夏目と庄司に任せた。後に、その隠れ家まで追ってきたリチャードソンの手下が大吾を射殺せんとした際、夏目が盾になって被弾。おかげで大吾は一瞬後にリチャードソンの手下を全て撃ち倒せたのだが、意識を失った夏目は大吾の命令で東都大病院へと運ばれることとなった。その東都大病院にて、ひどくなっている銃創を見とがめられた大吾も緊急入院させられることとなり(このあと諸事情により睡眠導入剤を大量服用させられる破目になる)、そして「3」の最終章に突入――ということになっている)



  大吾の声 「あなたたちに警護されて隠れ潜んだ柏木さんの隠れ家……」

       「あの時、あなたが盾になってくれたおかげで、俺はリチャードソンの手下を全て倒すことができました」


  夏目の声 「リチャードソン、懐かしいですねぇ。ブラックマンデーでしたよね?」


       「世界規模の武器密売組織のボスで、東城会をええように利用しようとして……」


       「ほんま胸糞悪い奴でした」


  大吾の声 「あの後、あなたをここへ運び、傷を見とがめられた俺まで入院させられることになり……」


       「その俺を殺すためにやってきたリチャードソンは、結局ここで命を落としました」


       「そういう意味でも、ここにはあまりいい思い出がありませんね」


  夏目の声 「そうですね。病院には申し訳ないですけど……」




 ここでスライドショー終了。






〇東都大病院・外・大吾のリムジン内 (夜)

 戻って、リムジン内。


 大吾のボタン操作により、運転席との間の仕切りが自動で上がる。




   大 吾 「さあ、これで運転手にも聞かれません。どうぞ話してください」




 そこで夏目、覚悟を決めてから切り出す。




   夏 目 「……あのですね」


   大 吾 「はい」


   夏 目 「やっぱり神室町全域をシマにしとかなあかんもんなんですか?」


   大 吾 「……何のお話ですか?」


   夏 目 「えっとですねぇ……」




 夏目、少し考えたのち、結局は最初から説明。




   夏 目 「もし「ケツモチは必要ない」って言うてきたカタギの店から手を引いてたら……」


       「うちは最終的には神室町の3分の2の店から手を引くことになるんです」


       「そしたら真島組は――延いては東城会は、神室町全域をシマとは言われへんようになります」


       「実際、全域がシマではなくなるんでしょう」


   大 吾 「まあ、そうですね」


   夏 目 「でも真島組は、何ならシマ全部を失くしてもやっていけるんです」


       「せやから……シマを3分の2失くしても構わんのちゃうかと思たんです」




 それにより大吾、ギョッとした顔になり、夏目をマジマジと凝視。


 そのため夏目、おずおずと申し出る。




   夏 目 「あの、もし撃ち殺しはるんやったら、待ってくださいね?」


       「ちゃんと場所移動するまでおとなしくしてますから」


       「せやないと、車掃除すんのん大変やと思いますから」




 すると大吾の目つきは、やや眇められる。


 夏目、さらに申し出る。




   夏 目 「あの、何やったら、埋められる予定のとこに自分で穴掘りますし」

       「本家の若衆さんらに手間取らせませんから」




 大吾の顔つきは、曰く言い難いものになる。


 そのため夏目、気落ちして言う。




   夏 目 「あの、もしチャカを貸してもらえても、さすがに自決すんのはキツいんですけど――」

   大 吾 「待ってください、とりあえずその話はやめましょう。俺はあなたを撃ち殺そうとは思っていません」


   夏 目 「ほんだら殴り殺したいですか?」


   大 吾 「いえ、どんな手段でも殺したくありません。俺があなたを殺したいはずないじゃありませんか?」


   夏 目 「でも、こんなことを考えてんのが六代目に知れたら殺されると言われました」


   大 吾 「……それなのに、あなたは俺に話したんですか?」


   夏 目 「はい」


   大 吾 「なぜです?」


   夏 目 「何で全域をシマにしとかなあかんのか、教えてほしかったからです」


       「教えてもらわな、俺にはほんまに分からんのです。分からんままでは、そこから頭が働かんのです」


       「それでは組長の代理はやれません。それやったら、殺されてもおんなじことやと思て」




 大吾、熟考後に話し始める。




   大 吾 「真島組は、こういう言い方は語弊があるかもしれませんが――真っ当なやり方をしています」


       「ちゃんとケツモチ業務をした上で、その見返りとしてみかじめを受け取っているんです」


   夏 目 「はい」


   大 吾 「しかし、もし真島組が撤退すれば、次に入り込んだ組が真島組のやり方を踏襲するはずはありません」


       「みかじめを払わなければ嫌がらせをする、払ったところでろくにケツモチはしない……」


       「そんな遣り口で、ただみかじめだけを取り立てるようになるでしょう」


   夏 目 「そうなりかけたら店は警察を呼べるし、今の警察はすぐ飛んできて対処してくれます」


       「せやからこそ、カタギの店にはケツモチが要らんようになったんとちゃうんですか?」


   大 吾 「……まあ、そうなんですが……」


   夏 目 「つまり、神室町のカタギの店は最終、警察のシマっちゅうことになるだけの話やと思うんですけど」


       「ほんで、それはそれでええことやと思うんですけど」




 大吾、沈黙。




   夏 目 「カタギを警察が守ってる神室町になったら、六代目は御不満ですか?」


       「故郷が東城会のシマでないとイヤですか?」




 大吾、沈黙のまましばし考えたのち、呟くように言う。




   大 吾 「少し考えさせてください」


   夏 目 「……はい、分かりました。ほな、失礼します」




 夏目、ぺこりと頭を下げ、リムジンを降りる。


 大吾、ボタン操作で仕切りを下げ、運転手に向かって言う。




   大 吾 「俺もここで降りる」





〇東都大病院・外・大吾のリムジンの外 (夜)


 夏目の後から、リムジンを降りてくる大吾。




   大 吾 「では、ここで」


   夏 目 「はい、失礼します」




 大吾が病院の正面玄関へ向かうのを、頭を下げて見送る夏目。


 リムジンは走り去る。


 ここで暗転。








○夏目の車中 (夜)

 庄司が運転する車の後部座席の左窓から、外の景色を見ている夏目。


 ふと夏目、内ポケットからスマホを取り出す。


 マナーモードで振動しているスマホ画面には「親父」の表示。


 通話にして耳元にやった途端、向こうから怒鳴り声。




  真島の声 「このボケェ!! おまえは代理解任じゃ!! 今から家で謹慎せえ!!」

   夏 目 「はい……」


  真島の声 「夏目!!」


   夏 目 「はい」




 少し間があってから、真島が静かなトーンで言う。



  真島の声 「おまえは、どえらいことをやらかしたんやぞ。分かっとるんか?」

   夏 目 「……分かってへんのかもしれません」


  真島の声 「もうええ!! 謹慎しとれ!!」


   夏 目 「はい……」




 通話は向こうから切れる。夏目、スマホの画面を見つめつつ、運転席の庄司に報告。



   夏 目 「俺、謹慎になったわ」

   庄 司 「そうですか……」


   夏 目 「せやからマンションに帰ってくれ。家におらなあかんねん」


   庄 司 「分かりました」




 夏目、スマホを内ポケットにしまうと、しばらくしてから話し出す。



   夏 目 「さっきおまえに拾てもらうまでに、六代目に直接聞いててん」

       「例の、神室町全域をシマにしとかなあかんのか――っちゅうやつ」


   庄 司 「ああ、それで……」


   夏 目 「うん」




 さらに沈黙の後、溜息をつく夏目。



   夏 目 「分からん。俺はどこで間違うてんねや?」

       「何回考えてもやっぱり分からんねん。何でシマが要るんか」



 しばしの沈黙ののち、庄司、申し出る。




   庄 司 「何て言うか……これまでの神室町の極道にとって、神室町のシマを取り仕切ることこそが存在意義だったじゃないですか?」

       「昔の神室町は、カタギでも納税面では後ろ暗い店が多かったから、何かあっても警察に通報はしづらかったし」

       「したところで、昔の警察は今ほど機能していなかった……」

       「だからこそ神室町では、“ケツモチを雇う”ってことが常態化していたわけで」

       「そのせいで、神室町の全ての店がどこかの組織のシマであることが当然だったんです」

       「でも今、カタギの店には何の後ろ暗いところもないし、警察は完全に機能している」

       「つまり、時代の流れのせいで、これまでは基本だった構図が崩れかかってるんですよ」

   夏 目 「せやな。つまりカタギは、ヤクザに仕切ってもらわんでもやっていける時代が来てる」

       「ほんで真島組は、何やったらシマがゼロでもやっていける」

       「ほんだらやっぱり、シマが3分の2消えても構わんのちゃうんか?」

   庄 司 「ただ、これまでの人たちは、ずっとシマを守ることに命を張ってきたんです」


       「その人たちには、理屈だけでは割り切れないものがあると思うんです」


   夏 目 「……ちょっと待て。気持ちだけの問題なんか?」


       「いや、気持ちっちゅうもんをないがしろにするつもりはないで?」


       「そうやのうて、俺が言いたいのはつまり、「
ほんだら俺の理屈自体は間違うてへんのか?」っちゅうこっちゃ」

   庄 司 「そうですね。「シマがゼロでもやっていける」というのも、理屈自体は合ってると思います」


       「真島建設も真島投資も、シマがなくてもやれる仕事ですから」




 夏目、きょとん。




   夏 目 「何や、合うてんのか。ほんだら、何ぼ考えてもどこが間違うてるか分からんわけやな」


   庄 司 「そうですね」


   夏 目 「何や。考えまくって損した」




 ようやく気持ちが落ち着く夏目。しかし事態は変わらない。




   夏 目 「でも、謹慎は謹慎や。どないしたら解けんのか分からん」


   庄 司 「そうですね」


   夏 目 「……しゃあない。とにかく家帰ろ」


   庄 司 「はい」




 夏目の車は夜の道をひた走る。


 そして長い暗転。






一章 夏目編 前兆 (4)



○夏目のマンション (夜)

T「24日前  2017年12月4日 19:05」


T「翌日」 (※画面左上部のテロップとは別に、画面右端に縦書きの筆書きで出す)


 丸一日経った翌日。リビングのソファーにもたれて座っている夏目。


 ただただ座っている状態。一時停止かと疑われるほど微動だにせず、延々座っている。


 庄司、そんな夏目を心配そうに見、話しかける。


 (※庄司は世話係として夏目宅に住み込んでいる設定)




   庄 司 「あの……雑誌か何か、買ってきましょうか?」




 すると夏目、数拍置いてから庄司のほうを見、言う。



   夏 目 「何て?」

   庄 司 「雑誌か何かを買ってきましょうかと言ったんです」


   夏 目 「いや、要らん」


   庄 司 「でも、本当に何もしないんじゃ……」


   夏 目 「でも、そもそも謹慎っちゅうのはそういうもんやろ」




 少し考えた夏目、真面目に言う。




   夏 目 「正座せなあかんか? 座禅は修行感出るから、何かちゃうよな……」

   庄 司 「あの……昨日から丸一日、眠ってる時以外はほぼずっとそこで座ったままですけど……」


       「その間、何か考えごとでもしてるんですか?」


   夏 目 「いや」


   庄 司 「……じっとしてるだけですか? 体だけじゃなくて、頭も?」


   夏 目 「せや。回線切ってる。繋いどくんダルい」




 庄司は内心「兄貴の無気力が最悪の末期状態だ……」と恐れおののいているので、そういう顔になっている。

 その時、テーブル上の夏目のスマホが振動。


 夏目、脳の回線を切る前だったため、すぐにスマホを手に取る。


 スマホ画面には「花屋さん」の表示。すぐに出る夏目。




   夏 目 「もしもし?」


  花屋の声 「よう。今いいか?」


   夏 目 「はい。何か分かりましたか?」


  花屋の声 「ちょいと気になるネタを掴んだと言ってたろ?」


       「あれがとうとうモノになってな。遂に現場まで行き着いたぜ」


   夏 目 「……現場?」


  花屋の声 「初代の殺害現場さ」




  夏目、目を瞠る。



  花屋の声 「同時に、夫婦揃って埋められてた現場でもある」



 夏目、一気に覚醒。





○初代の隠れ家 (夜)

 スマホ通話中の花屋の顔の大写しからカメラが引いていくことで、そこがとある民家の和室であることが分かる。


 床の畳がどけられ、板が破られている部分の地面を、花屋の部下たちが丁寧に掘っている姿が見える。


 その部下たちの隙間から、地面にまだ半分ほど埋まっている2体の白骨が見える。


 花屋、スマホに向けて話す。




   花 屋 「ザッとやってみたスーパーインポーズで見る限り、片方が初代なことはまず間違いねえ」


       「もう1人は女だから、嫁さんだろう」


  夏目の声 「そうですか……」




 そこで暗転。






○花屋の車中 (夜)


 花屋、帰途にある車の中で、スマホで喋っている。




   花 屋 「以前から、群馬の桐生市の土地を洗いざらい調べてたんだ」

  夏目の声 「群馬? 桐生市?」


   花 屋 「桐生が結局“桐生”って名字になったのは、一緒に置かれたメモにそうあったからだろう?」


       「そのメモを置いた風間が、何を思って桐生としたのかと思ってな」


       「というのも、捨て子の名字には、発見された土地の名を付けることが多いそうでな」


       「それでふと思い付いて調べてみたら、初代の本籍が群馬県の桐生市だったんだ」


       「だから、ここは一つ思い切って……ってわけさ」


  夏目の声 「……お世話かけました」


   花 屋 「全くだ。だが、ビンゴだった。初代の親父さんと同名の名義の土地を見つけてな」


  夏目の声 「そこが、さっき花屋さんが行ってはった現場なんですね?」


   花 屋 「そうだ。ちょいと人里離れたところにあってな」


       「一番近くに住んでる婆さんの話だと、もう80年近くほったらかし……」


       「誰の持ち物かなんて誰も気にかけねえそうだ。実際、今はもう荒廃の極みだった」


       「おそらく初代は帰国後そこに落ち着いて、それからすぐに殺られたんだろう」






○夏目のマンション (夜)

 戻って、自宅マンションのソファーに座っている夏目。スマホからは花屋の声が聞こえる。




  花屋の声 「そこで、あんたに頼みがある」


   夏 目 「何ですか?」


  花屋の声 「風間の愛用の銃を借りたいんだ」


   夏 目 「銃?」


  花屋の声 「見つけた骨の下に弾丸がいくつか落ちててな。おそらく2人を殺った弾だろう」


       「線条痕を照合すりゃ、その銃が撃ったもんかどうか確認できる」


       「名高いヒットマンなら、毎回銃を使い捨てるとは思えねえ」


       「それを風間組の金庫で保管してたとすれば――風間組は当然今も、後生大事に保管してるはずだ」


       「むろん、ヒットマンを引退後、風間が処分しちまった可能性もあるが……」


       「賭けてみる価値はあるだろ?」


   夏 目 「……風間組に頼まなあきませんね……」


  花屋の声 「風間組は今や真島組の三次団体だろ? 真島組若頭のあんたなら簡単じゃねえのか?」


   夏 目 「そらそうですけど……。分かりました、頼んでみます」




 いくら若頭と言えど頼めることと頼みづらいことはあるし、そもそも今は謹慎中である。


 しかし、そうも言っていられない――となり、溜息つく夏目。


 ここで暗転。


 (※「龍が如く3」の後、二代目風間組は組長不在のまま真島組の三次団体として丸ごと吸収されている――という設定)








○天下一通り・風間組事務所が入るビル前 (夜)  (※1995年当時に初代風間組事務所があった場所と同じ)

T「24日前  2017年12月4日 19:33」


 夏目と庄司、風間組事務所が入るビル前までやってくる。


 ビル前では若衆たちがズラッと並んでいる。歓迎ムードではなく、むしろ中に入れまいとして立ち塞がっている状態。




   夏 目 「どいてくれへんか。中入らなあかんねや」


   若衆A 「ふざけんなよ」


       「いくらうちのカシラが従順だからって、俺らまで言いなりになると思ったら大間違いだ」


   若衆B 「そうだ! 俺らは柏木の親父に忠誠誓ってんだ! 真島組長にじゃねえ!」


   若衆C 「吸収だか何だか知らねえが……こっちを三次に格下げしやがっただけでもムカつくのによ」


   若衆D 「そのうえ二次の若頭ヅラで、よりによって何だ? 「風間組長のコレクションを寄こせ」だと?」


       「ふざけんな!!」




 夏目、溜息。




   夏 目 「借りるだけや言うても聞く耳持たなそうやな」


   庄 司 「そうですね」


   夏 目 「しゃあない、時間ないからな。――軽うでええぞ」


   庄 司 「はい」




 ここで、「vs. 真島組内二代目風間組の若衆」の戦闘となる。


 戦闘終了後に暗転。






○風間組事務所・若頭室 (夜)

 応接テーブルには銃の入ったケースがいくつか用意され、開かれている。


 (※そのケースの脇に、明らかに誂えではない革製の袋に入った1丁があることを映しておく)


 ソファーの一方には夏目が座り、そのソファーの後ろに庄司が立って控えている。


 向かいのソファーには若頭の小椋健一(33)と若頭補佐(31)が座っている。




   小 椋 「なぜこんなものが必要なんですか?」




 ここで小椋の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系真島組内二代目風間組 若頭 小椋健一」の表示。一時停止が解除。




   夏 目 「無類のチャカ好きっちゅうコレクターがいてはりましてね」

       「その人が、伝説のヒットマンの愛用の品をどうしても見たいと言いはるんです」


   小 椋 「そうでしたか。しかし、これはうちにとっても大切な品です。どうか取り扱いには……」


   夏 目 「分かってます、重々気を付けます。――ほな、急にこんなことお願いして、すいませんでした」


   小 椋 「いえ」




 庄司、ソファーの後ろからこちらへ来、全ての銃が入れられたジェラルミンケースを持つと、ドアのほうへと向かう。


 夏目も立ち上がり、それを追おうとする。


 その時、小椋に呼び留められる。




   小 椋 「夏目さん。――本当に、申し訳ありませんでした」




 小椋、隣の若頭補佐と共に、深々と頭を下げる。


 夏目、困り顔。 (庄司はドア前で立ち止まり、待っている)




   夏 目 「いや、もうええ言いましたやんか」

       「あの人らの気持ちは分かりますから、もうそんなんせんといてください」


   小 椋 「いえ、いくらあなたが温厚だからといって、このままで済むことじゃありません」


       「本当ならそれこそエンコを詰めて――」


   夏 目 「やめましょやめましょ、聞くだけで痛いです」


       「大体、あの人らが怒ってたんは柏木さんと風間組長を大事に思ってるがゆえでしょ」


       「むしろ、ええことですやんか」


   小 椋 「どうにも、俺に下を治めるだけの器量がなくて……」


   夏 目 「小椋さんがどうこうっちゅうことちゃいますよ」


   小 椋 「いや、しかし……」


   夏 目 「まあ、どうしてもっちゅうんやったら、後で一発ずつぐらいしばいて……」


       「その後は、柏木さんへの忠誠心を褒めたったらええと思いますよ」




 それにより小椋、少し微笑む。




   小 椋 「分かりました。――どうぞ、真島組長にもよろしくお伝えください」


   夏 目 「はい。ほな、失礼します」




 夏目と庄司、部屋を出ていきかける。小椋と若頭補佐、再度頭を下げる。


 夏目と庄司が去りドアが閉まった後も、小椋と若頭補佐は頭をずっと下げたまま。


 そこで暗転。








○天下一通り・風間事務所が入るビル前 (夜)


 ビルの外へ出てきた夏目と庄司。




   夏 目 「ほな、河原行こか」


   庄 司 「はい」




 そこへ、頭の悪そうな不良集団6人が近付いてくる。




   不良A 「ねーねー、何かそれ、高そうなもん入ってそうだよねー」


   不良B 「よこせよ、俺らが有意義に使ってやるからよ」


   不良C 「どうせホストは風俗嬢からむしり取ってんだろ? なら風俗に還元してやんなきゃなあ」




 不良集団、自分たちだけでゲラゲラ笑い転げる。

 それを目の当たりにした夏目、そちらを見たまま、ガッカリした様子で情けなそうに言う。




   夏 目 「庄司、俺、そこまでホストに見えてんのか?」

   庄 司 「俺にはただのガチイケメンに見えてます」




 夏目、目を瞠って庄司を見やり、



   夏 目 「おまえ、ほんまええ奴やな。こんな時でも心が和むで」




 そのため不良集団、楽しげに飛び跳ねる。




   不良A 「おっ? なになに? もしかして2人、デキちゃってんの?」


   不良B 「マジかよー、なら、なおさらそれ、こっちに貰わなきゃな」


   不良C 「あんたら風俗通えないもんね? 俺らがちゃーんと返してきてやるから御心配なく♪」




 ウッキャッキャッキャッと楽しそうな不良集団を見、溜息をつく夏目。



   夏 目 「庄司、それ持って先行っといてくれ」

   庄 司 「交代しなくていいんですか?」


   夏 目 「ええねん。昨日から今日にかけて運動不足やったしな」


   庄 司 「(少し笑い) 分かりました。じゃ、お待ちしてます」




 そうして庄司が行こうとするのを、不良の1人が掴みかかって止めようとする。

 それを庄司、ひとまずかわしたのち、不良の膝裏を弱めに蹴ることでバランスを崩させる。


 そうしたのち、まんまとスルーしてから駆け去っていく。


 それを見ていた不良集団、庄司を追おうとするが、それを阻むようにして夏目が立ち塞がる。




   夏 目 「よっしゃよっしゃ、こっからは俺が相手や」


       「まあ、おとなしく引き上げるっちゅうんやったら、それで済む話やけどな」


   不良A 「ふざけんな!! なら、てめえからぶっ殺してやる!!」




 ここで、「vs. 神室町の不良集団」の戦闘となる。






○天下一通り・風間事務所が入るビル前 (夜)

 戦闘後。路上に不良6人が転がっている状態。


 夏目、内心考える。




   夏目M (よっしゃ。ほな河原行こ)




 そうして賽の河原へ向かうことに。


 【ここから賽の河原までの間に、戦闘やらサブストーリーやらに巻き込まれる】






○賽の河原 (夜)

 賽の河原の入口までやってきた夏目、中に入る。


 そこで暗転。








○賽の河原・モニタールーム上の部屋 (夜)


T「24日前  2017年12月4日 22:56」


 デスクの向かいに立っている夏目と庄司に対し、花屋が言う。




   花 屋 「線条痕が一致した」



 そう言って花屋が手で示したのは、目の前のデスク上に置かれている革製の袋の1丁。

 (※デスク上の脇にはジェラルミンケースが置かれている)




   花 屋 「これで、初代を殺したのは風間の銃と決まった」


       「ヒットマンが自分の銃を他人に貸すわけねえ」


       「なら、風間が初代を殺したと断定していいだろう」


   夏 目 「やっぱり……」


   花 屋 「さて、この後どうする? 俺は御役御免か?」



 夏目、しばし考え込んだのち、思い切りをつけてから言う。



   夏 目 「何で二代目が初代を殺さなあかんかったんか……。俺はその理由を知りたいんです」


   花 屋 「そいつは難題だな。その理由を一番よく心得てた二代目はとっくに死んじまってる」


       「心当たりがあったかもしれねえ初代もあのとおりで、何か聞かされてたかもしれねえ風間は12年前に死んだ」


       「さてさて、誰を突っつきゃいいのかって話だ」


   夏 目 「……俺が思い付く人は、一人しかいてません」


   花 屋 「誰だ?」




 覚悟を決めている夏目の顔にカメラが寄ったところで、夏目は言う。



   夏 目 「初代東城会の舎弟頭で、二代目東城会の相談役……」


       「その後で二代目会長代行になりはった、二井原さんです」




 ここで長い暗転。





一章 夏目編 前兆 (5)



○二井原邸

 陽光に照らされる二井原の屋敷の豪奢さを映し出す。 (※明治時代の洋館風)






○二井原邸・応接室

T「23日前  2017年12月5日 15:05」


 明治の洋館を思わせる応接室からは、外に広がる立派な庭園が見える。


 その応接室のソファーに座っているのは、夏目。今日はネクタイを締めており、部屋の仕様により靴は履いたまま。


 室内の扉の両脇には2人のいかつい男がおり、物々しい雰囲気をまといつつ直立不動。


 夏目の脳裏で花屋の声が響く。




  花屋の声 「二井原は今、96歳の爺さんだ」


       「表向きには“至って御壮健”ってことになっちゃいるが、
この10年、その姿を見た部外者は誰もいねえ」

       「最悪、意識のない状態で寝たきりって可能性もある」


       「意識があったところで記憶が辿れるような状態かどうか……」


       「あんたの運に賭けるしかねえな」




 その時、後ろに大柄の護衛1人を連れて、自足歩行(杖つき)で登場した二井原隆(96)。

 夏目、さっと立ち上がり、極道式の御辞儀で頭を下げる。


 それを見た二井原、やや笑いながら軽く手を上げて制止し、言う。




   二井原 「いやいや、もうそんなことはしてくれねえでいい。俺ぁとっくに引退した、カタギのジジイなんだ」




 そこで夏目、いったん体を起こし、普通の最敬礼をする。


 ゆっくりゆっくりと歩く二井原、ソファーまで来てやっと着席。


 ここで二井原の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「元 二代目東城会 会長代行 二井原隆」の表示。一時停止が解除。




   二井原 「まあ座りな」


   夏 目 「失礼いたします」




 夏目、着席する。

 二井原、すぐに話し始める。




   二井原 「あの真島んとこの若頭だってな?」


   夏 目 「はい。――真島と面識は?」


   二井原 「いや、会ったことはねえ。とうとう会う機会はなかった」


       「会ってはみたかったがな。――何しろ、あの堂島の権勢を根っこから揺るがした立役者だ」




 カラの一坪事件のことを言っているのだと分かった夏目、黙って控えている。



   二井原 「それで、今日は何の用だ?」


       「ま、用がなくたって客は大歓迎だがな。引退してからこっち、とんと顔出す奴はいやしねえ」


       「ひょっとすると、もうおっ死んでると思われてるのかもな」


   夏 目 「いえ、お噂どおり至って御壮健で……。実を言うと驚いてます」


   二井原 「寝たきりで会話もままならねえとでも思ったかい?」


   夏 目 「それが心配でした」


   二井原 「フン。まあ人間、90越えりゃ大抵そんなもんさ。俺ぁちっとばかり運が良かっただけだ」


   夏 目 「二代目代行の根のお強さあってのことでしょう」




 そこで二井原、夏目をジロリと見る。




   二井原 「そろそろ本題に入ってくれねえか? 年取るとどうもセッカチになってな」


       「多分、いつポックリ行くか分からねえからだろう」


   夏 目 「申し訳ありません。ほな、さっそくお話しさしていただきます」




 ここでいったん暗転。






○二井原邸・応接室

 夏目の話がすっかり終わった状態。




   二井原 「そうか、二代目が風間にな……」



 二井原、少し考えたのち、改まって言う。



   二井原 「つまりおめえさんは……初代と二代目の確執について、俺が何か知ってるんじゃねえか」

       「知ってるんなら話してくれねえか――と、こう言うわけだな?」


   夏 目 「無礼は重々承知しております」


   二井原 「だが、聞かなきゃ埒が明かねえ」

       「なるほど、そのとおりだし、
そのためにこうして単身乗り込んでくるとは大した度胸だ」

   夏 目 「恐れ入ります」


   二井原 「だが、度胸だけじゃ足りねえな」




 二井原がパンパンと手を打った瞬間、室内にザザッと屈強な集団が入ってくる。




   二井原 「極道が欲しいもんを手に入れる時ゃ、金で買うか力尽くかで取るかだ」

       「おめえさんはどっちが好みだ?」


   夏 目 「……力尽くっちゅうのは、この人ら全員を叩きのめすことですか?」


   二井原 「そうだ」


   夏 目 「それができたら、俺の質問に答えてくれはるんですか?」


   二井原 「無論だ。それが筋ってもんだ」




 そこで夏目、立ち上がる。



   夏 目 「ほんだら、力尽くのほうをやらしてもらいます」

       「そのほうが、今から金用意して持ってこさすより早いでしょう」




 二井原、少しニッとし、それから真面目な顔に戻って、屈強な集団に号令。




   二井原 「やれ」




 夏目、少し襟元を緩める。


 ここで、「vs. 二井原の私兵」の戦闘となる。






○二井原邸・応接室

 戦闘後。


 室内が死屍累々となる中、二井原はソファーにちんと座ったまま。


 夏目、ネクタイをきっちり結び直してから、二井原の前のソファーに座り直す。




   夏 目 「お待たせいたしました。どうぞ、お話の続きをお願いします」



 二井原、大きくニヤリとする。




   二井原 「さて、何から話すかな。そうだな、まず俺と初代のことから言っとくか……」






○(回想)二井原の説明

 画面は「神室町および東城会の成り立ち」「初代東城会時代」「二代目東城会への変遷」「斉木について」を説明する静止画像のスライドショーとなる。

 そこに二井原の声が乗る形。




 二井原の声 「戦後、今の神室町辺りにデカい闇市が出来てな」


       「闇市にはどうしてもイザコザや縄張り争いがつきものだが、神室町と来ては……」


       「ヤクザと愚連隊が我が物顔でのさばるところへ、不良外国人も入り込んでた」


       「まさしく無法地帯だったよ」


       「復員してきてすぐ、持ってた米を金に換えようとしたんだが、ずいぶん足元を見られてな」


       「そこを止めに入ってくれたのが、俺より四つ下の東城だった」


       「東城は体格が良くて腕っぷしも強く、度胸と男気に溢れてて、何より人の目を逸らさないカリスマがあった」


       「東城は、俺を最初から兄さんと呼んでくれてな」


       「おかげで俺は、戦争のせいで天涯孤独になっちまった東城の身内同然になった」


       「東城とその男気に惹かれて集まった奴らで、神室町の自警団のようなもんになった時も、
東城が“兄さん”と呼ぶおかげで、言わば世話役のような格だったわけさ」

       「そのうち、その自警団の名に“東城会”が使われ出すと、すぐに神室町中に浸透した」


       「その後、俺たちの働きの甲斐あって、神室町では一応の秩序が保たれるようになった」


       「その結果、東城会は愛されないまでも、街に受け入れられる存在になった」


       「それが東城会の成り立ちだ」




 ここに、間が入る。




 二井原の声 「あれは東城会が出来て8年目だったかな」


       「神室町でヤクザ相手に大立ち回りしてた宍戸を、東城が拾って事務所に戻ってきた」


       「以来、宍戸のことを一の子分と公言してな。ずっと世話を見、可愛がり、鍛えるようになった」


       「まあ要するに、跡目候補を見つけてきて育て上げたわけだ」


       「宍戸はその2年後に若頭に指名され、組を持たされ、みるみる名を上げていった」


       「さらにその――5、6年後か。風間と嶋野がほぼ同時に宍戸組に入って、そこからだ」


       「新宿神室町だけに根を張っていた東城会……」


       「それが、東京、関東一円――そして東西の東側と勢力を拡大していったのは」


       「関東随一となった東城会は、言わばディフェンディングチャンピオンのような立場になった」


       「下剋上を狙う奴らでひしめく神室町では、常に抗争を仕掛けられる立ち位置だ」


       「だが、東城はそういった挑発には一切乗らなかった」


       「だから敵対組織は、神室町そのものに嫌がらせするようになったんだ」


       「金をせびるのが目的じゃねえ。東城会を引っ張り出すのが目的のカタギいじめだ」


       「それでも、東城はケツモチを強化させるだけだった」


       「東城はあくまで話し合いで解決したがったんだ。誰も抗争なんか望んじゃいねえとな」


       「だが、向こうには話し合う気なんざ毛頭ねえ」


       「となると、神室町でのカタギいじめはさらにひどくなる」


       「それで神室町がどんな状態になったか、想像はつくだろ?」




 ここに、間が入る。



 二井原の声 「その5年ほどの間に何度か、東城会の人間の家族が拉致されることもあった」

       「そうなると東城は単身乗り込んでいって救い出してきた」


       「抗争じゃねえ。たったひとりでカチコミかけて、相手方を殲滅して帰ってくるんだ」


       「そのたびに東城の名は上がり、生ける伝説となり……」


       「持ち前のカリスマは本人を飲み込んじまうほどに育っていった」


       「カリスマを殺れば名が上がる……。功名心に駆られた馬鹿はまずそう思い付くもんでな」


       「東城の名が上がるにつれ、道場破り気取りの馬鹿が増えた」


       「で、そんな馬鹿を鉄砲玉に利用して抗争に持ち込もうって組織も出てきた」


       「神室町では変わらず三下どもが暴れてる」


       「もうシッチャカメッチャカだ」




 ここに、間が入る。




 二井原の声 「若頭だった宍戸には、その危機的状況を収める方法が一つだけだと分かってた」


       「抗争を受けて立ち、敵対組織を叩き潰すしかないとな」


       「奴は以前からそう主張していた」


       「が、一度弥生を拉致されて以降は、さらに強硬姿勢を取るようになった」


       「そのうち、東城に忠誠を誓ってはいるものの、宍戸に同調する者が増えていった」


       「もともとヤクザになるために東城会へ来た奴らばかりなんだ」


       「抗争で物事を解決すべきと考えるのは当然だろう?」


       「そして、昭和42年の年末だ。東城は唐突に引退宣言し、二代目に宍戸を指名した」


       「皆、それを受け入れた」


       「その後、東城会は全ての抗争・全ての敵対組織を、力で制圧した」


       「一ㇳ月後、神室町の治安は完全に回復した」




 ここに、間が入る。




 二井原の声 「そうなってから、再び東城のカリスマを求める声が上がり出した」


       「二代目は十二分の器量を持ち、智略に優れ、腕っぷしも強いし、華もあった」


       「だが、さすがに東城ほどのカリスマはなかったんだ」


       「当たりめえだ、目が合っただけでついてくる奴がいるほどなんだぞ」


       「あんなブラックホールみてえなカリスマ、他の誰が持ってるってんだ」


       「相談役として呼び戻そうと言う者もいた。いっそ総裁になってもらおうと言い出す者もあった」


       「東城会の人間だけじゃねえ、神室町のカタギですらだ」


       「口を開きゃ「東城さんはもう戻ってこないんですか」と抜かしやがる」


       「だが、二代目は東城を呼び戻すことを認めなかった」


       「東城の人気が悔しいとか何とかのつまらない意地じゃねえ」


       「東城というカリスマが戻ることで勃発する事態を恐れたんだ」


       「何しろ、先の5年に起こった騒動の半分以上……」


       「それらの根は結局のところ、“東城に勝ちたい”だったんだからな」


       「つまり、これまでは災厄から皆を守ってくれていた東城……」


       「その東城自身が、災厄をもたらすパンドラの箱になっちまったんだよ」


       「カリスマは誰彼なしに人を惹きつけちまう、それがカリスマたる所以だ」


       「そのカリスマが、神室町を無事に治めようって東城会にとって……今度は仇になっちまったんだ」




 ここに、間が入る。



 二井原の声 「それでも東城を呼び戻したいって嘆願は引きも切らなかった。その筆頭が斉木だ」

       「東城の幼馴染だった斉木は、家も近所、学校も一緒、配属部隊まで同じって筋金入りでな」


       「むろん、東城会が出来る前からお互いに兄弟と呼び合う仲だった」


       「東城会以前の集団にも最初からいたし、実は東城会という名を言い出したのも斉木だ」


       「だから、斉木はもともと東城の突然の引退にも納得してなくてな」


       「最後にはケンカ別れのようになっちまってたんだ」


       「だからこそだろう。神室町が平和になってからは、斉木は死にもの狂いで東城を捜し回ってた」


       「はたで見ててもいじらしいぐらいだったよ」


       「あれは昭和43年の――7月だ」


       「その斉木が東城を見つけたと言って、東城会の事務所に駆け込んできたんだ」


       「二代目と俺とだけで話を聞いてみたら、斉木はとある場所――」


       「これがどこかは、斉木は最後まで言わなかったが……」


       「そのとある場所で、東城と直接話し合ったそうでな」


       「その時、東城はこう言ったそうだ。「総裁の椅子を用意するなら、東城会に戻ってもいい」と」


       「それで斉木は喜んで二代目に報告したのさ。兄弟に後ろ盾になってもらえりゃ鬼に金棒だってな」


       「――斉木は、東城のカリスマの負の部分を理解してなかったんだよ」


       「その直後、斉木は消えた。煙のようにフッとかき消えたんだ」


       「それ以後、東城会の中では誰も東城の名を口にしなくなった」


       「そして東城はそれっきり生死不明――というわけだ」




 以上でスライドショーは終了。






○二井原邸・応接室

 戻って、応接室。


 夏目、ソファーに座った状態で、内心考えている。




   夏目M (その斉木さんっちゅう人も、二代目の指示で消された可能性が高いんか……)

   二井原 「俺が知ってるのはこれだけだ。オチもケリもついてやしねえ」


       「ガッカリさせたんでなきゃいいがな」


   夏 目 「いえ、まさか。欠けてた肝心要のパーツを埋めてくれはりました」


       「ほんまにありがとうございました」




 夏目、深々と頭を下げ、上げる。


 すると二井原とガッチリ目が合い、言われる。




   二井原 「聞かねえのか? なぜ俺が東城のことで二代目を追及しなかったのか」

   夏 目 「えっ……」


       「神室町の平和のためには初代がおらんほうがええ。せやから事を荒立てはれへんかったんでしょう?」


   二井原 「……それを許してくれんのかい?」


   夏 目 「許す許さんの権限は俺にはないです。ただ、理解できる――それだけです」




 二井原、夏目をじっと見る。しばし無言。


 しばらくして、二井原から言う。




   二井原 「他に聞きてえことはあるかい?」

   夏 目 「はい、ほんだら個人的に、もう一つだけ」


       「その、二代目が堂島組長に肩入れしてはったことについてなんですけど……」


   二井原 「ああ。堂島は二代目の娘婿だったからな」


   夏 目 「それだけなんでしょうか?」


   二井原 「……なに?」


   夏 目 「俺は根性の曲がった人間ですから、つい勘繰ってまうんです」


       「二代目があれほど全てのもんを堂島組長に差し出しはったんは、何でなんか」


       「ひょっとしたら、ただ娘さんを溺愛してはっただけやのうて……」


       「何か他に理由があったんちゃうんか、と」




 二井原、夏目を見据える。




   二井原 「堂島が、自分の親父を強請ってたとでも言いたいのか?」

   夏 目 「正直、それぐらいの搾り上げっぷりやと思います」


       「そら、自分の組を持たしてもらって、かなりのシマを譲ってもらった――」


       「そこまでやったらまだ分かります」


       「けど、宍戸組の双璧やった嶋野の大親父と風間組長、あの二人を三次の堂島組に引っ張っていったっちゅうのは……」


       「普通に考えてありえへんと言うか、許されへんことでしょう?」


       「大親父も風間組長も、直しの盃を固辞しはったから二代目宍戸組では舎弟格でした」


       「けど、それにもかかわらずそろそろ組持たされて、いずれ直系昇格になるやろう――」


       「周りからはそう目されてはったんですから」




 一息ついたのち、




   夏 目 「それ以後も、宍戸組から堂島組にあらゆるもんが移行していきました」


       「重要なシマ、有能な兵隊、旨味の多いシノギ……」


       「二代目宍戸組組長が亡くなった後には、後継者の若頭を差し置いて、す
でに直系組長やった堂島組長が宍戸組の組長代行に指名されました」

       「で、トドメが、二代目の遺言です。“宍戸組の全てを堂島組に移し、宍戸組は解散せよ”」


       「娘婿への厚遇で済ますのは無理です」




 二井原、馬鹿々々しそうに笑って見せる。



   二井原 「もし強請りなんて馬鹿な真似をしようもんなら、あの二代目が黙ってるわけねえ」

       「堂島はその場で消されちまってただろうよ」


   夏 目 「そうでしょうか?」


   二井原 「……違うってのか?」


   夏 目 「六代目の御母堂様――二代目のお嬢さんは、ひたすら堂島組長を愛してはったんです」


       「今でも想い続けてはるほどに強く、です」


       「その上あの気性です。もし堂島組長が殺されたとなったら、それこそ石にかじりついてでも犯人を捜し出しはったでしょう」


       「実際、22年前に堂島組長が殺されて、四代目が現行犯逮捕されて服役しはった後も、
真犯人は他におると考えて探り続けてはったそうですから」



 夏目、一息ついたのち、続ける。




   夏 目 「堂島組長を殺した後、愛娘が見つけ出した犯人が自分となった修羅場を想像したら……」


       「お嬢さんを溺愛してはった二代目に、そんな恐ろしい真似はできたはずありません」




 二井原、黙って聞いている。




   夏 目 「とは言え、さすがに二代目は東城会の安寧も考えてはったんでしょう」


       「最後の最後、東城会の若頭にだけは、堂島組長を指名しはりませんでした」


       「かと言うて、堂島組長以外に跡目を継がせられる格の子分は育ってへん……」


       「堂島組長が育てさせへんかったからです」


       「せやからこそ二代目は病床に臥した時、会長代行を立てはった……」


       「二代目代行やったら自分の死後も、東城会を託せると分かってはったからでしょう」




 しばし間があったのち、二井原が言う。



   二井原 「だが……。堂島がいったい何をネタに二代目を強請ってたってんだ?」

   夏 目 「初代殺しでしょう」




 二井原、やや目を瞠り、夏目を見やる。

 夏目、続ける。




   夏 目 「そもそも初代のカリスマで集まった人間で出来てる東城会です」

       「初代の引退さえ受け入れられるほど忠誠を誓ってる人らです」


       「初代が自由意思で行方をくらましてるのは受け入れられるでしょう」


       「でも、実は二代目に殺されてたとなったら……」


       「二代目がどう言い訳したところで、みんなに八つ裂きにされるのは目に見えてます」


       「そうなった後、“初代を殺した仇の娘”となったお嬢さんがどんな目に遭わされるか……」


       「それも自明です」


       「何があってもお嬢さんを守る……。それが、二代目の全ての行動原理やったんやと思います」




 しばしの沈黙ののち、二井原から言う。




   二井原 「堂島はどうやって初代殺しを知ったんだ?」


   夏 目 「論理的に言えば、風間組長を尾けてて偶然目撃するに至った――それしかないです」


   二井原 「何も知らず、手柄の分け前に与れるかと思って張り付いてたら……偶然見ちまったってとこか」


   夏 目 「おそらくは。風間組長は初代と奧さんを初代の隠れ家で殺して、その地下に埋めたんです」


       「そんなことを風間組長がよそで喋るわけありません」


       「実際、今回こっちから文字どおり掘り起こすまで、そのことは誰にも知れてませんでした」


       「となると殺害の一部始終を、堂島組長もその目で見てたとしか考えられません」


   二井原 「しかし、あの風間がそう簡単に跡をつけられるとでも思うのか?」


   夏 目 「簡単やなかったでしょう。ただ、斉木さんは初代の隠れ家を言いはれへんかったんですよね?」


       「ほんだら、そこへ向かう斉木さんを、風間組長は神経すり減らして追ってたはずです」


       「そのぶん隙があったんかもしれませんね」


   二井原 「なら……。まさか堂島は、桐生が初代の息子だと知ってたってことか?」


   夏 目 「まあ、もし桐生市の現場で赤ん坊の泣き声でも聞いてたとして、
後年、風間組長が育て上げた捨て子の名字が桐生やと知ったら……」

       「アホでもピンと来るでしょう」


   二井原 「なら、あれほどの器量を持った桐生を冷遇し続けたのは……」


       「カラの一坪の時に手を噛まれたせいだけじゃなかったってことか」




 かなりの沈黙の後、二井原は話し始める。




   二井原 「一度だけ、堂島が二代目になれなれしくねだってるのを見たことがある」

       「風間組のチンピラ二人をうちに貰いたい、自分が盃を下ろしたいとな」


       「しかしだぞ。これが“風間組の若衆を上部団体の堂島組が引き上げる”ってことならともかくだ」


       「風間を慕ってこの世界に入ったチンピラ相手に、盃の無理強いができるわけねえじゃねえか。だろう?」


       「ところが、後でその無理強いが通ったと知って、俺ぁ心底驚いたもんだ」


       「それに、あの時の堂島のなれなれしさ……」


       「いくら娘婿だとしてもあまりに不遜に過ぎると不愉快になったもんだが……」




 二井原、少し考え込んだのち、続ける。




   二井原 「それと、40年近く前のジングォン派の殲滅作戦……」


       「もともと二代目は、敵対組織には容赦仮借なかった」


       「しかし、ジングォン派は日本支部の殲滅でカタがつく相手じゃない」


       「それどころか、もしそうすれば本国の奴らが報復に来ることは分かり切ってた」


       「それこそ何年、何十年かかってでもだ」


       「だから本来の二代目なら、相互不可侵の密約を交わしたはずなんだ」


       「支部を徹底的に叩きのめすことで、本国の本部のボスを引っ張り出してな」


       「向こうが日本に入り込まない限り、こちらも向こうへは進出しない」


       「ただし約束を違えれば、本国の本部もろとも殲滅する――」


       「その密約を交わした上で、国外退去させるのが常道だったんだが……」


       「そのジングォン派の日本支部を根こそぎ皆殺しにしたい――そう堂島は申し出たんだ」


       「それは堂島の、功名心に逸るあまりの思い付きでしかなかったはずなんだが……」


       「なぜか二代目は、それをOKしたんだよ」


       「これは二代目としてはどう考えても奇っ怪千万な判断でな」


       「だっておめえさん、同じ状況で、まさか六代目が同じことをすると思うか?」






〇(神々の視点による回想) 直系宍戸組内堂島組事務所・組長室 (夜)

T「三十七年前 一九八〇年十二月下旬」  (※画面左上部ではなく、画面右端に縦書きの筆書きで出す)


   (※音声は全て「龍が如く極2」の音源を使用。ただし、嶋野の鼻を鳴らす音のみ、収録の必要アリ)


 ジングォン派殲滅作戦決行の当夜。


 組長室のソファーには嶋野太(35)と風間新太郎(35)、デスクには堂島宗兵がいる様子がやや引きの絵で映される。


 ここで風間の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系宍戸組内堂島組内風間組 組長 風間新太郎」の表示。一時停止が解除。


 次に嶋野の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系宍戸組内堂島組内嶋野組 組長 嶋野太」の表示。一時停止が解除。


 次に堂島の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「東城会直系宍戸組内堂島組 組長 堂島宗兵」の表示。一時停止が解除。


 そして、堂島から見て部屋の左隅にある豪奢なアームチェアに、宍戸誠一郎(50)が威風辺りを払って収まっているのが映る。


 ここで宍戸の顔の大写しになる。


 画面が一時停止し、画面下部に「二代目東城会 会長 宍戸誠一郎」の表示。一時停止が解除。


 その宍戸のほうに顔を向けた嶋野、声をかける。




   嶋 野 「で……やるんでっか? 親っさん」




 するといつもどおり、宍戸の代わりに堂島がしゃしゃり出る形で答える。



   堂 島 「ああ」



 宍戸、黙したまま、堂島をギロリと横目で見る。

 嶋野、堂島のほうを「またやで」というふうに見やり、一瞬だけ小馬鹿にした表情を浮かべる。


 それに気付かない堂島、大物ぶって続ける。




   堂 島 「……皆殺しだ」


   風 間 「皆殺し!?」


   堂 島 「どうした。何か問題でもあるのか?」


   風 間 「いや……」




 そこで嶋野、薄笑いののち、真顔になってから風間を煽る。




   嶋 野 「なんや風間……仰山人殺したお前が、なにびびっとんねん」

   風 間 「そういう問題じゃないんだ」




 風間、堂島では話にならないので、宍戸のほうを直接向き、問いかける。



   風 間 「親父……戦争以外の選択はないんでしょうか?」



 しかし宍戸が答える前に、嶋野が怒鳴る。




   嶋 野 「何アホなことぬかしとんねん! 先に喧嘩吹っ掛けてきたんは向こうやろが!」


       「殺られたら殺り返す! それが極道や!」




 嶋野と風間、睨み合う。


 堂島、葉巻の煙を吸ってすぐ吐いたのち、せいぜい大物ぶって発言。




   堂 島 「なぁ風間……お前の言うことが分からんでもない」



 嶋野、「兄いでは埒が明かん!」と見て、テーブルを叩き、宍戸に向けて声を荒げる。




   嶋 野 「親っさん……!!」




 しかし堂島、「風間の説得ぐらい俺でもやれる」とばかりに、




   堂 島 「まぁ待て」




 と嶋野を手で遮る。そのため嶋野は堂島のほうを見、イラッとした顔になるが、




   堂 島 「だがな……あのジングォン派って奴等は別だ」




 これにより嶋野、「兄いでも何とかなりそうや」と思い直し、しぶしぶ姿勢を直す。




   堂 島 「奴らのやり方は尋常じゃない。このままだと堂島組が壊滅ってことにもなりかねない」


   風 間 「ですが……」


   堂 島 「叩くなら今しかない。下手な情を挟めば、それが禍根を残す」




 風間、うつむいたのち、宍戸のほうを見る。


 ここから堂島が喋っている間ずっと、風間は宍戸のほうを見ている。


 宍戸はその風間の視線を真っ向から見返している。文字どおり、人を射るような眼差しである。




   堂 島 「だから殺るしかねえんだ」



 宍戸に見据えられ続けた風間、気力がもたずに視線を落とす。




   堂 島 「……分かるな?」




 そこで風間、やっと堂島のほうを見る。




   風 間 「はい……。でも本当に皆殺しにする必要があるんでしょうか?」


   嶋 野 「当たり前や! ウチんとこの組員が何人殺られたと思うてんねん!」


       「ワシはあいつらの息の根止めな気が済まんねや!」




 その時に堂島、葉巻を灰皿に押し付けて消す。


 立てられた状態の葉巻越しに堂島側から撮った先にいる嶋野、その葉巻を見て片眉を上げ、また小馬鹿にした表情を浮かべ、鼻で笑う。


 (※「葉巻の火は放置して消えるのを待つもの」ということを知らない堂島には葉巻の嗜みなどなく、つまり大物ぶるためだけに吸って見せている――ということがここで明らかとなるので、それを絵面で強調)

 (※なお、そのことがユーザーに分かりいいよう、このシーンまでにサブストで「葉巻の火は放置して消えるのを待つものである」ということを示しておく)



   堂 島 「奴等のアジトは、ディスコホールの裏のビルにある。チャンスは今夜だけだ」



 風向きが自分にあると確信した嶋野、宍戸に対し9割、堂島に対し1割の割合で視線を向けたのち、力強く請け合う。



   嶋 野 「任せといてください……!」



 その間ずっとうつむいている風間。


 ふと気付き、顔を上げて宍戸のほうを見ると、宍戸と目が合う。宍戸の眼光は鋭い。


 堂島、大物ぶってチラリと風間を見る。


 風間、宍戸から堂島に視線を戻し、しぶしぶ答える。




   風 間 「……はい」



 そんな風間と堂島を見ていた嶋野、鼻でハッと笑う。それから宍戸のほうを向き、失望とも同情ともつかぬ目で見やる。


 堂島、親分の様子を窺うように、小物そのものの所作でチラッと宍戸を見る。


 しかし宍戸、堂島には一顧だに与えず、まっすぐに正面(カメラ)を見据えている。


 宍戸の「何をしてでも娘を守る」という妄執に憑かれた尋常ならざる眼力に、カメラがどんどんズームアップしてゆく。


 そして暗転し、回想は終了。






○二井原邸・応接室

 戻って、二井原邸の応接室。


 二井原、曰く言い難い顔つき。




   二井原 「堂島……。確かに、こずるいところのある小物ではあったがな」



 さらにいくらか考え込んだのち、思い切ったように言う。




   二井原 「二代目が強請られる破目になったのも、自業自得と言やあそうなんだろう」

       「いくら神室町と東城会の平和のためとは言え、自分の親殺すってのは行き過ぎだ。……だろう?」


   夏 目 「はい」




 二井原、ふうと溜息。




   二井原 「疲れちまったな」



 夏目、ハッとする。



   夏 目 「申し訳ございません。二代目代行の度量に甘えて御無理させてまいました」


       「どうぞ、お休みになってください。すぐ引き上げます」


   二井原 「そうかい。じゃ、遠慮なく休ませてもらうとするかな」




 そこで夏目、すぐさま立ち上がり、普通に最敬礼する。

 二井原、おっちらと立ち上がり、ゆったりゆったりと歩き出す。


 ドアに向かってしばらく行ったところで、二井原は立ち止まり、振り返る。




   二井原 「おう、真島の」



 夏目、顔だけ少し上げてそちらを見、答える。



   夏 目 「はい」


   二井原 「またいつか、何かネタでもありゃ、ここに来て話して聞かせてくれねえか?」




 夏目、驚いて目を瞠り、つい体を起こす。


 二井原、笑みを浮かべて続ける。




   二井原 「おめえさんの話が面白くて、久しぶりにワクワクしちまってな」

       「平穏無事な生活は結構至極だが、全然何の刺激もねえ――ってのは、人間のアタマには良くねえ」




 それで夏目、少し微笑む。




   夏 目 「かしこまりました。必ず伺います」


   二井原 「約束だぜ。――ま、そん時までに俺がおっ死んでたら、忘れてくれや」


   夏 目 「いいえ。必ず伺います」


   二井原 「何だ、地獄まで訪ねてくるってか? 若えのは元気がいいな」




 笑いながらそう言い、向きを変える二井原。


 夏目、また最敬礼する。


 二井原、ゆったりゆったりと引き上げてゆく。


 その後ろ姿を、ずっと頭を下げて見送る夏目。


 そして長い暗転。






一章 夏目編 前兆 (6)



○賽の河原・モニタールーム上の部屋 (夜)

T「23日前  2017年12月5日 18:15」


 花屋はデスクの席に着き、夏目はデスクの向かいに立っている。




   花 屋 「そうか。じゃあこれで、あんたの気になってたことは全て片付いたわけだ。よかったな」

   夏 目 「はい」




 実は、花屋には打ち明けていない「大吾の会長就任についての桐生の真意」への懸念がまだ晴れていないため、ここではまだ少しばかり複雑そうな表情でいる夏目。




   花 屋 「ところで、実はこっちじゃ、ちょいとヒマワリのことを探ってたんだ」

   夏 目 「ヒマワリ?」


   花 屋 「桐生によれば、風間がターゲットの遺児を引き取るために運営してた施設なんだろ?」


   夏 目 「はい」


   花 屋 「もしそれが本当に言葉どおりの意味なら、そこの子供たち全員が……」


       「それこそ錦山も澤村由美も、ターゲットの遺児だったってことじゃねえか」


   夏 目 「! そらまあ、皆が皆っちゅうことやったらそうなりますね……」


   花 屋 「それで気になってな。1993年までにヒマワリに引き取られた子供たち全員の来歴を洗ってみたんだ」


   夏 目 「1993年?」


   花 屋 「風間が脚を悪くした年だ」


       「あの脚じゃ、もうヒットマンとして仕事をこなすことは無理だろうからな」




 夏目、納得。




   花 屋 「で、その結果、その子供たち全てが、
殺人被害者の遺児と事故死ってことになってる被害者の遺児」

       「それと、親が行方不明になって引き取り手のない子供だった」


       「ほとんどの遺児の場合、残った片親か親戚に育てられるってことを考えると……」


       「風間もむごいことをやってたもんだ」




 重い沈黙が広がる。


 その後、夏目がやっと言う。




   夏 目 「自分のせいで孤児になった子供らが遊ぶ庭を見て、風間組長は何を思てはったんでしょうね」

   花 屋 「ふん。言うなれば、のどかな地獄絵図ってとこか」


       「ひょっとすると、それを眺めて心を焼き切ることが、風間には贖罪行為になってたのかもしれねえな」




 夏目、黙して考え深げな様子。


 そこで花屋、やっと本題に入る。




   花 屋 「で、錦山――こいつもその三つめのケースでな」

   夏 目 「三つめ……親が行方不明っちゅうことですか」


   花 屋 「ま、その変形だな。錦山は生まれてすぐ母親に捨てられたんだ」


       「「結婚するはずだった男が妊娠中に消えちまった」」


       「「だからもうそいつの子供は要らない。次の男を探すのに邪魔になる」」


       「そう言って、母親は産んですぐ、ヒマワリじゃねえ乳児院に捨てていったのさ」


   夏 目 「ひどい話ですね……」


   花 屋 「で、それを風間がわざわざ引き取りに行ったんだ」


       「当時パンク状態だったその乳児院は、渡りに船とばかりに赤ん坊を風間に託した」


       「そうして錦山はヒマワリへやってきたわけだ。ヒマワリは乳児院の体裁も整ってたからな」


   夏 目 「そうやったんですか……」


   花 屋 「で、その母親が錦山の父親だとして言い残していった名前が――“東城会の斉木敦”だったんだ」




 夏目、目を瞠る。



   夏 目 「ほんだら、錦山組長は初代の幼馴染やった斉木さんの息子さんやったっちゅうことですか? ほんまに?」

   花 屋 「今から子供を捨てようって女が、言わなくてもいい父親のことでウソをつく必要もねえだろう」


       「名指しされたのが富豪や権力者ってことなら、欲得の企みもありそうなもんだが……」


       「行方不明になったヤクザじゃあな」


   夏 目 「ほんだら、四代目と錦山組長は、親同士も兄弟と呼び合う仲やったっちゅうことですか……」


   花 屋 「これぞ因縁ってやつだな」




 まだ驚きが冷めない夏目に、花屋は続ける。




   花 屋 「その後、錦山の母親はよその男と結婚して、女の子を産んだ」


       「で、その男とも別れることになった時、今度は娘をその男に押し付けていった」


       「その娘は18で父親と死に別れて、天涯孤独になった」


       「その時、話にだけ聞かされていた兄を頼って、最初の乳児院に行ったんだ」


       「そこからヒマワリへ辿り着き、施設長に仲立ちされて、
そこで初めて錦山と会うことになったわけだ」

   夏 目 「そうやったんですか……。よかったですね、天涯孤独になってまうとこやった兄妹が巡り会えて」


   花 屋 「それはどうだろうな」


   夏 目 「えっ?」






○錦山の過去のスライドショー

 ここで、画面は「錦山による堂島宗兵殺害」「桐生を現場に残し、由美を連れて去る場面」「打ちのめされる場面」「妹の位牌を見ている場面」「松重殺害および闇落ちの瞬間」「直系時代」「桐生と拳を交わす場面」「錦山の最期」を説明する静止画像のスライドショーになる。

 そこに花屋の声が乗る形。




  花屋の声 「あくまで結果だけを見て言えば……」


       「錦山は妹なんか知らなかったほうが、道を踏み外さずに済んだかもしれねえ」


       「妹のために贖罪のチャンスを失くし、兄弟を身代わりにした罪悪感に苛まれ」


       「そのための自己不信、そこから来る人間不信に苦しめられ」


       「挙句、唯一の支えだった妹を亡くして絶望の淵に突き落とされ」


       「何の救いもない混乱状態で鬼になり」


       「その自分の下へ集ってきた奴らを従えて、修羅の道を突き進む――」


       「そんな地獄を見ることもなかったろうよ」




 ここでスライドショーは終了。






○賽の河原・モニタールーム上の部屋 (夜)


 戻って、モニタールーム上の部屋。


 しばしの沈黙ののち、ふと思い至った様子の夏目、話を切り出す。




   夏 目 「ほんだら、澤村由美――遥ちゃんのお母さんもターゲットの遺児やったんですか?」

   花 屋 「そうだ。由美とその弟の彰を男手一つで育てていた父親が、
ある高速道路建設のための土地買収の区画に最後まで残った地権者でな」

       「ある日、夜中に熱を出した息子を連れて、澤村は病院へ向かった。その道中で自損事故を起こした」


       「二人とも、ほぼ即死だったそうだ」


       「その後、澤村の土地は親戚の手に渡り、無事に国に買い取られた」


   夏 目 「――国が殺しを依頼したんですか!?」


   花 屋 「さすがにそこまでひどくはねえよ」


       「ただ、当時そこの地上げを請け負った下請けの下請けの下請けが堂島組でな」


       「おそらくは、業を煮やした堂島宗兵が二代目を頼り、二代目が風間に命令――ってとこだろう」


   夏 目 「……こわ……」


   花 屋 「あんた、ホントにヤクザに向いてねえな」


   夏 目 「……たまに言われます」


   花 屋 「だろうな」




 そのとき夏目、ふと気付く。



   夏 目 「えっ? ほんだら、澤村由美には親戚がおったっちゅうことですか?」

   花 屋 「そうだ、澤村には妹がいた。つまり、由美には叔母だな」


   夏 目 「ほんだら……。その叔母さんは、澤村由美を引き取りはれへんかったんですね」


   花 屋 「ああ」


   夏 目 「まあ……それぞれ御事情がありはるでしょうからね」


   花 屋 「そうだな」


   夏 目 「……でもその叔母さん、兄さんの土地売った金はしっかり取ってるんですよね?」


       「っちゅうか、もしかして澤村由美の取り分をパクってません?」


   花 屋 「実を言うと、そのとおりなんだ」


       「正確に言うと、かろうじて300万だけは由美のもんになってるが……」


       「とは言え、残り数億を全部かっさらっちまったんだから、この妹、なかなかのタマだぜ」


       「今は、先月死んだ旦那が遺した名古屋の豪邸で、悠々自適の楽隠居だ」




 夏目、ゲッソリ顔になる。

 そのとき夏目、ふと内ポケットからスマホを取り出す。振動するその画面を確認すると、




   夏 目 「若林さんからです。ちょっと出ます」

   花 屋 「おう」




 夏目、スマホに出る。




   夏 目 「はい、夏目です」


  若林の声 「おう、兄貴から伝言だ。謹慎は終わりだから事務所に出ろってよ。代理にも復帰だ」


   夏 目 「……謹慎ってこんな早よ解けるもんなんですか?」


  若林の声 「ま、何事も兄貴の気分次第だからな」


   夏 目 「はい」


  若林の声 「ただし、病院には来るなとさ」




 そのため夏目、たいそう落ち込む。



   夏 目 「それ、めっちゃ怒ってはりますやん……」

  若林の声 「そりゃそうだろう」


   夏 目 「……若林さんも怒ってはりますか?」


  若林の声 「(少し笑って) 俺か? 俺は怒るの通り越して呆れちまったから、もう怒りゃしねえよ。安心して出てこい」


   夏 目 「……すいません……」


  若林の声 「ま、シマを手放すうんぬんはともかくとしてだ」


       「3分の2の店がケツモチを必要としてねえって事実は、現実問題としてあるわけだからな」


       「それにどう対応するかは人それぞれさ」


   夏 目 「はい……」


  若林の声 「じゃあな」


   夏 目 「はい。失礼します」




 夏目が通話を切ると、花屋が言う。



   花 屋 「謹慎が解けたのか?」

   夏 目 「はい。代理にも復帰らしいです」


   花 屋 「そうか。そりゃおめでとう」


   夏 目 「でも……。病院に会いに行ったらあかんそうです」


   花 屋 「ははあ。まだお怒りは解けねえが、仕事だけはしろってことか」


   夏 目 「そうらしいです……」


   花 屋 「ま、頑張りな。真島のことだ、そのうちケロッと忘れるだろう」


   夏 目 「……親父はいつも、忘れはるんちゃいます。忘れてくれはるんです」




 それにより花屋、チラリと夏目を見、ニヤリ。




   花 屋 「なら、そのうちケロッと忘れてくれるだろうさ」


   夏 目 「……はい……」




 しかし夏目、しょんぼり顔のまま。


 ここで暗転。








○沖縄・アサガオ (夜)

T「23日前  2017年12月5日 20:05」


 映像で「アサガオの門」→「居間で寛ぐ子供たち」の様子が映る。






〇沖縄・アサガオ・風呂場 (夜)

 宇佐美勇太とハルト、入浴中。


 ハルト、湯船の中で立ち、自分の意思で「顔を水につけ、どれだけ息を止めていられるか」をやっている。


 宇佐美、何かあったらすぐ抱き上げられる体勢で構えつつ、ハラハラ見守っている。


 かなり長い時間の後にやっと顔を上げたハルト、やり切った感みなぎる得意満面の笑顔を宇佐美に向ける。


 宇佐美、一安心して大喜び。




   宇佐美 「すげえぞハルト! それでこそうみんちゅの息子だ!」



 褒められたことでさらに笑顔になったハルトを、宇佐美は思いっきり抱きしめる。






〇沖縄・アサガオ・台所 (夜)

 遥、洗い場の仕事を終え、シンクを拭き終わったところ。


 風呂場からの楽しげな声を聞いて微笑み、ふと外に目をやった時、アサガオの入り口付近に人影を見る。


 遥、ダッシュで玄関に向かう。






〇沖縄・アサガオの外 (夜)

 玄関が開き、遥が飛び出してくる。


 それを見たらしく、人影は慌てて逃げ出す。




     遥 「待って!」



 遥、猛然とダッシュ。

 アサガオの外へ出ると、逃げた人物が乗り込んだらしいタクシーが、少し離れた位置から発車したところ。


 遥、立ち止まり、向こう方向へ走り去ってしまうタクシーをじっと見つめている。


 その表情には、何等かの決意が見て取れる。








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